旅立ち
「私は甲賀忍者の子孫、いざとなればこの体を使って敵の
情報を取る事が出来るわ。故郷で鍛えたテクニックも有るし」
「ああ、美喜さんそんな事をもうしなくて良いんです」
亮は美喜の魅力ある美しさをそんな事に使って欲しくなかった。
「でも亮、あなたは私に向かってナイフを投げたわ。
私がナイフを受け取ると信じていたんでしょう」
「それはとっさの事で・・・」
亮は返事に詰まった。
「亮、あなたの負けよ。美喜を仲間に入れてあげたら」
キャシーは亮をなだめた。
「美喜さん、せっかく元の世界に戻れるのに・・・」
亮の嘆きは美喜には届かなかった。
「亮、この事件が片付いたらモデルに戻るわ」
「でも体に傷でも付けたらどうします?」
「その時は亮の力でタレントの仕事をちょうだい」
「は、はい」
亮はそう言って頭を垂れた。
「わお、仲間が一人増えたな」
ピョートルは美喜を抱き上げ肩の上に乗せた。
「みんな、ありがとう。では仕事の分担を説明する・・・」
亮の真剣な目に全員が背筋を伸ばした。
~~~~~
会議が終わった後、亮はデッキに出て
海を観ていた絵里子に話しかけた。
「会議が終わりました」
「そうお疲れ様。それで祐希があなたに抱かれたいそうよ」
「そんな・・・」
「私も止めたわ、あなたに抱かられたら
一生他の男と付き合えない」
「そっち?」
「彼女が女になるのには亮の力が必要だし」
「祐希さんには大学卒業の後、
僕のアシスタントにして育てたいんです」
「わかったわ、後は二人に任せるわ。
ただ喧嘩別れだけはしないで」
「分かっています」
「明日絢香と日本に帰ります。祐希には
例の水のビジネスを責任もってやらせてください」
「はい、厳しく育てます」
「うふふ、厳しくできるのかしら」
「僕も退院許可がおりたら日本に帰ります」
「待っているわ」
「絵里子さんが持って来た話ビジネスにします」
亮はキャシーに栗田の仕事をしたいと言ったのは
絵里子が持って来た話からだった。
「そう良かったわ、キャシーと上手くやってね」
「はい」
亮は一瞬、絵里子の言葉に違和感を覚えた。
「絢香が待っているので私は帰るわ」
「そうだね、気を付けて」
海を銀色に輝かせている満月に目を取られた。
亮が一人でそれを見ていると
「月が綺麗ね」
キャシーが亮の脇に寄り添い亮の肩に頭をもたげた。
「ええ、綺麗です」
亮が見たキャシーの横顔が月の光を浴びて輝き
白いドレスと相まってギリシャ神話に出てくる
女神のように見えた。
「キスして」
キャシーは亮にキスを求めると
亮はキャシーの頬を軽く手で押さえキャシーの濡れた唇と
亮の唇が重なりあった。
「亮、もう絶対無理しちゃだめよ。あなただけの体じゃないんだから」
亮の唇から離れたキャシーが憂いを含んだ眼差しで亮を見つめた。
「分かっています」
亮はキャシーに言われた事はみんなの事だと思っていた。
「ところでこの船の値段はいくらくらいですか?」
「2億ドルくらいかしら」
「わあ、高い!」
「うふふ、私が使わないお時はレンタルで
貸し出しているから儲かっているわよ。
この後も使う人がいるわ」
「なるほど、さすがです」
亮はキャシーがビジネスに長けている
事に尊敬をしていた。
「亮が思っている以上に世界にはお金持ちが居るのよ」
「そうですね」
「私、一度ニューヨークに戻ってから日本に行くわ」
「分かりました。それまでに色々準備しておきます」
「その時はあなたのご両親にも会いたいわ」
「ええ、そうしてくださいきっと喜びますよ」
「うん」
キャシーは嬉しそうに笑った。
「そうだ、今朝言っていたハワイのホテルの
買収どうなりました?」
「止めたわ、ハワイはビジネスをする所じゃなくて
体を休めるところって気が付いたの」
「そうですか・・・」
「何?ホテル経営したかった?」
「いいえ別に」
「その代わりダイヤモンドヘッドの
向こう側のハナウマベイの近くに
別荘を買う事にしたわ、亮も使って」
キャシーはマスコミの目を避けてハワイで出産するつもりだった。
「本当ですか、ありがとうございます。
タレントのレッスン場と写真撮影に使いたかったんです」
「じゃあ、大きな別荘買うわ」
「僕も払います」
「うふふ、大丈夫よ」
亮は嬉しくてキャシーにハグをして抱き上げた。
「ん?」
亮は以前抱き上げた時より1.5kgほど重く感じたが
女性のキャシーには何も言えなかった。
亮達はそのままクルーザーに宿泊して親睦を深めた。
特に新参者の祐希は、みんなに可愛がられ
小妹にはカンフーを教わっていた。
~~~~~
翌朝、フレイザーとパティそしてジェニファーは
ワシントンに美喜と小妹はメキシコへの報復の準備の為に香港へ、
キャシーとロビンはニューヨークへ飛び立ち
絵里子と絢香が日本に帰って行った
「みんなまた散って行ったな」
飛行場で空を見上げた文明は亮の肩を叩いた
「ええ、また会えます。僕達は家族ですから」
「そうだ、どんなに遠くに離れていても我々は家族だ!」
亮が振り返ると蓮華と桃華とマギー
その後ろにはピョートルとアントン
そして祐希が横に立っていた
文明は行き先も告げず姿を消し
亮たち六人は日本に向かって旅立った。
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いつものようにセントラル病院に出勤した
マリエにスミス医師が告げた。
「マリエ喜べ、君のお父さんの義足が届いたぞ」
「どういう意味ですか?」
マリエはいきなり父親の義足と聞いて戸惑った。
「最新型の義足で神経に繋いで元の本物のように良く動く、
何せメイドインジャパンだからな」
「それって・・・」
「亮のプレゼントだ。手術費もな」
マリエはそれを聞いて空を見上げ手を合わせて祈った。
「神様、どうか亮にあなたの御加護を・・・」




