5G
絵里子は車椅子を押してマリエのところへ
行き絢香を連れて病院から帰っていった。
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「絵里子さんは亮の奥さん?」
絵里子に嫉妬したマリエが亮に聞いた。
「いいえ、絢香は僕の娘ですが
絵里子さんは僕とは結婚しません」
「彼女が拒否しているの?」
「まぁ、色々な事情があって・・・」
マリエは自分が好意を寄せている亮と
籍を入れない絵里子が不思議で呟いた。
「信じられない。きっと他にも男がいるのね」
「何か言いましたか?」
「い、いいえ」
マリエは自分の小さな呟きに反応した亮に
驚いて声が詰まった。
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絵里子は病院近くのコンドミニアムの
部屋に入るとバッグから小さく折りたたんだ
紙を見つけた。
「絵里子さん、病院ではいたるところで
盗聴されている可能性があります。
至急ロビンに連絡を取ってください。
スマートフォンもホテルの部屋も盗聴されているかも
知れませんので、日本観光客から5Gディバイス
を借りて使ってください」
それは亮の絵里子に対する手紙だった。
「何よ!面倒ね。5Gは日本人しか持っていないのかしら?」
絵里子は文句を言いながら大きく割れた
スリットの入ったワンピースに着替えた。
「さて、ハワイは新婚旅行が多いから
男性から借りるのは難しいかな」
絵里子は絢香をホテルのベビーシッターに預けると
タクシーに乗りアラモアナショッピングセンター
に向かった。
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「ねえ、マリエ。あなたダンさんの介護担当でうらやましいわ」
亮の病室から出てきたマリエに同僚のメグが声をかけた。
「えっ、どうして?」
「だってあんなに素敵な男性の介護やりがいあるでしょう。
私彼の寝顔を見たことがあるけど、
あそこがウズウズしてきたもの」
「寝顔を見ただけで?」
マリエは聞き返した。
「うん、あなたはならないの?」
メグに聞かれたマリエは笑っただけで答えなかった。
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亮が目覚めた2日後
ベッドに横たわった亮がマリエに言った。
「看護師さん、僕は誰なんでしょう?」
「まだ、記憶が戻らないんですね。
あなたの名前は團亮さんです。
ハイジャック犯と戦って乗客を飛行場と
基地と護ったヒーローですよ」
マリエは優しく亮の耳元で囁いた。
「そうですか、僕は夢の中でひたすら鬼と戦っていました」
※Devil Hunter亮 地獄タクシーⅢ
「そう、その間あなたは何度も心臓が止まっていたわ」
「すみません、お世話になりました」
「ううん、助かってよかった・・・」
「あなたって綺麗ですね」
「ありがとう亮」
亮はマリエの首に手を伸ばした。
「トン・トン・トン」
その時病室のドアがノックされた。
マリエが慌てて胸のボタンを締めると
スミス医師が入って来た。
「ダンさん、少しは記憶が戻りましたか?」
「はい、僕は相当女好きだったようです」
亮はそう言ってマリエの方を笑ってみた。
「あはは、男はみんな女好きですよ」
スミスはそう言って亮のカルテを見た。
「ところで、僕の下半身が動かないんですけど」
「ええ、爆発の時の破片が脊髄に刺さって
それが影響しているのかと思います」
「治りますか?」
「はい、傷が治ってリハビリで何とか歩けるようになると思います。」
スミスは亮が歩けるようになる事を伝えた。
「じゃあ、あそこは?」
亮が股間を指差すとスミスは笑いながら答えた。
「あそこは微妙なところだからね、気に病むことは無いです
リハビリは難しいが何かの拍子に元気になるかも知れない
せいぜい良い女を見ているといい」
「分かりました」
亮が返事をするとマリエは舌なめずりをして微笑んだ。
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「ねえ、メグ。ダンさんに誘われたら
あなたならどうする?」
マリエは休憩室で同僚のメグと話をしていた。
「日本人はキスが下手だから嫌かな」
「もし上手かったら?」
「大歓迎よ、入院中毎晩上に乗っちゃうかも。
でも彼不能なんでしょ」
「ええ、まだ下半身は動かない」
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マリエが着替えて病院から出ると車が止まっており
マリエはその後部座席に乗った。
「マリエ、今日の團亮の様子はどうだった?」
中年のアロハシャツを着た人相の悪い白髪の男が聞いた。
「ご存知の通り、彼の奥さんが面会に来てその後は
誰とも会っていないわ」
「二人はどんな話をしていた?」
「知らないわ、二人は離れたから私が
車椅子に付けた盗聴器で聞いていたんでしょう」
男はマリエの言葉に返事をしなかった。
「彼は1週間意識不明で、意識を取り戻した
時記憶を喪失していたわ、
事件の時の記憶なんか無いはずよ。
もし知っていたとしても私じゃなくFBIの方に
とっくに話しをしているはずよ」
「それはお前には関係ない。とにかく、体を張ってでもFBIより
先に手がかりを探り出すんだ、黙って協力をすれば
お前の兄さんの借金を棒引きにしてやる」
「分かったわ、約束よ。カニエラ」
マリエは車を降りてドアを強く閉めた。
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出掛けに飲んだ媚薬の効果で
アラモアナショッピングセンターを
歩く絵里子に次々に男が声をかけてきた。
「はあ、声をかけて来るのは白人ばかりか、
勇気ある日本人はいないの?」
絵里子は遠くから物欲しそうな顔を
している日本人を睨みつけた。
「すみません、日本人の方ですか?」
「はい」
絵里子は日本語で声をかけられてニッコリと笑って
振り返った。
「ダイビングツアーが激安価格ですがいかがですか?」
「いいえ、いりません」
「他にもいっぱいありますよ。射撃ツアーとか」
男は絵里子の腕を掴んだ。
「分かったわ、射撃ツアーに参加するからあなたを撃って良い?
その白いTシャツに日の丸を付けて上げる」
「はあ」
強気の話しをする絵里子に男は呆然としていた。
絵里子は怖い顔をして4階のマイタイバーに入った。
日本人の新婚さんだけではなく男同士で
飲みに来ている日本人を見つけ
絵里子はカウンター席に座りスカートの
スリットの間から長い足を出した。