名誉市民
亮の胸にはまるで獣の爪あとのような
5本の傷があり
パティはそれを見て声を上げた。
ジェシーは遠慮なくその写真を撮っていた。
「まるでモンスターね。二本多いけど」
「ジェシー、なるべく日本人の目に着かないように
お願いします」
「うん、分かっている」
亮はジェシーとダブルウイングのタレントたちの
撮影の話をした。
「そう言えばジェニファーが居ないけど」
亮はそう言って周りを見渡した。
するとマギーと小妹、蓮華と桃華が笑顔で亮を囲んで
亮の後ろを指差した。
「ジェニファーはあっちに居るわ」
亮がジェニファーを見つけるとその脇に
ピョートルとアントンが
立っていた。
「亮」
アントンが亮を持ち上げた。
「止めてくれ恥ずかしい」
アントンが笑いながら亮を降ろすと
ジェニファーが亮に言った。
「二人に私の武勇伝を話していたところよ」
「僕も聞きたいです。時速300キロメートルで
飛行機の足の爆弾のコードを切った話し」
亮はコックピットでジェニファーと無線でやり取りを
していた時を思い出していた。
「うふふ、亮がライフルの弾丸が起こす真空状態で
切れと言われて肩の力が抜けたのよ
「あはは、中々いい事言いますね。僕って」
「そうね、愛している」
ジェニファーが亮の頬にキスをした。
「ところでどうして二人はここにいるんですか?」
「亮を護れと言うアイザックの命令でハワイに来て、
ここに宿泊していたんだ。
この船のガードも兼ねてな」
ラ・マリーナ・Dでカニエラの子分たちを
桟橋と裏口で倒していたのはピョートルたちだった。
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一方、絵里子と美喜は岡村たちをテーブル席に案内していた。
「凄く豪華な船ですね」
栗田は本物のセレブの世界を見て驚いていた。
「私もこんな船初めて乗ったわ」
「絵里子さん、團さんとキャシーさんはずいぶん仲がいいんですね」
真壁はあわよくば再開発の土地の件で
キャシーに協力を貰いたいと思っていた。
「ええ、恋人のように仲がいいわ」
絵里子は真壁の問いに答えた。
「ところで團さんって何者なんですか?」
栗田は見覚えのある顔の亮の事を絵里子に聞いた。
「ごめんなさい、今朝は説明に時間が掛かるので
彼を偽名で紹介しました。彼の本名は團亮さんです」
「やはり彼が團さんだったのか」
絵里子が説明すると栗田は亮の元へ行った。
そこではキャシーが亮に白人の男性を紹介している時だった。
「亮、ジャクソンハワイ州知事とランバートホノルル市長よ」
「亮さん、あなたがあの時飛行機を止めなかったら
飛行機は滑走路をオーバーランして飛行場が使えなくなっていました」
「いいえ、とんでもないです」
亮は謙虚に答えた。
「あなたにホノルル名誉市民の称号を差し上げたいのですが」
「そんな大袈裟な」
亮はそれを断るとキャシーが亮の横腹を肘で突き
耳元で囁いた。
「亮、断っちゃダメよ。市長の面子があるでしょう。
鳥取の羽合じゃないんだから」
「分かりましたよ。しかし、なんで日本の鳥取の
羽合を知っているんだ?」
亮は首を傾げた。
「市長喜んでお受けします」
亮は作り笑顔で市長と握手をした。
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「團さんだったんですね?」
市長と会話が終わった亮に栗田が話しかけた。
「は、はいそうです」
「実はある場所の大型商業施設の件でご相談がありまして」
「僕にですか?」
亮は過去の実績の無い自分に相談されても筋違いの話しだと思った。
「はい、私はあなたの事を知人から聞いてよく知っています」
「誰ですか?」
亮の詳しい情報を知っている人はそんなにいるはずが無く
その人物を知りたかった。
「東京第一不動産の久保田郁美さんです。
当行がメインバンクなものですから」
「あっ、郁美さんですか」
確かに郁美なら亮の情報に詳しいはずだった。
「亮、パパが一緒に食事をしようって」
真紀子が祐希と一緒にいた亮を迎えに来て親しげに腕を組んだ。
亮と一日一緒に居た真紀子は美喜と同じように亮と呼ぶようになっていた。
「は、はい」
亮は真紀子に手を引かれてテーブルに着くと
岡村と真壁と美喜が椅子に座っていた。
「さあ、一緒に食事をしようじゃないか」
酒のせいか夕日のせいかそれとも日焼けのせいか、
顔を赤くした岡村は亮に向かってワイングラスを上げた。
「はい」
亮は仕方なしに返事をして岡村の脇に座った。
「祐希さんは私の脇に来て」
真紀子アメリカの話が聞きたくて祐希を呼んだ。
「ところで栗田君この船はいくら位するんだ?」
岡村はこの手の情報に詳しそうな栗田聞いた。
「そうですね。この船なら100億円それ以上かも知れません」
「オイオイ100億円ならすごいビルが買えるぞ。
アメリカの不動産会社ってそんなに儲かるのか?」
岡村は驚いていた。
「ランド不動産は特別です。全世界に
千棟近くのビルを持っていますから
売り上げで数兆円にもなるはずです」
亮は何も知らない岡村にランド不動産が
どんな会社か伝えたかった。
「そうか、そんなに大きな会社なのか。あの美人さんの会社」
女性を軽視し、日本企業の情報に詳しくても海外の企業情報には
まったく疎く、海外の情報収集は大使館任せの
典型的な日本の政治家の岡村を亮は好きになれなかった。
「はい」
それを聞いた岡村はワインを一杯飲みキャシーを見つめた。
「それは是非、親しく話しがしたいな」
岡村は自分の政治家の地位ならキャシーは自分にひれ伏すと思っていた。
「亮、何故テーブルに座っている?」
ロビンが亮を呼びに来くると三人と真紀子にロビンを紹介した。
「American webのCEOのロビン・ハイドです」
栗田と真壁と真紀子はおどろいていたが、岡村はやはり無反応だった。
「ロビン文明兄さんは?」
「小妹たちと話しをしている、お前さんの
ガードを強化しろと言う話しだろう
ずいぶん怒っていたからな亮の暴走に」
「みんなに心配かけて申し訳ないと思っている、しかし僕がやらないと」
「分かっているさ、みんな亮じゃなきゃできない事」
「ありがとう。ロビン」
亮は自分の良き理解者ロビンと肩を組んだ。
「ところで亮の姉さん美佐江さん、僕の事どう思っている?」
「別に聞いた事は無いけど嫌いじゃないだろう」
「そうか・・・」
ロビンは空を見上げて考えた。
「本人の気持も有るけど、美宝堂の仕事が
あるからアメリカになんか嫁げないぞ」
「わかっているさ。僕も日本に住むかな・・・」
「あはは、そうなればロビン兄さんか」
亮は親友のロビンを兄と呼ぶのが奇妙でおかしかった。




