資金不足
「でも、あの大きな船ですからキャシーの
友達がたくさんいるかもしれませんよ」
亮は人がたくさんいるのが嫌だった。
「私達は平気よ」
亮はしゃぐ美喜を尻目に真紀子に聞いた。
「では、夕方一緒に食事に行きましょう」
亮は喜ぶ真紀子を誘った。
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ハーフを終えてクラブハウスに戻った
絵里子達は昼食を取っていた。
「先生、例の件ですが?」
「私席をはずしましょうか?」
真壁が深刻な話を始めたので絵里子が立ち上がると
岡村は絵里子の手を握って引いた。
「まあ、いいじゃないか。ここで女性一人には出来ない」
「でも、先生」
「大丈夫、君を信じているよ」
岡村は絵里子を席に座らせ両手で絵里子の手を握った。
「真壁君、君に仕事を頼んでもいいが
再開発に新たにF電機の跡地も
含まれてきた。かなりの資金が居るぞ。
君の会社で持ちこたえられるのか?」
「えっ?」
初めて聞いた話に真壁の顔色が変わった。
「先生、私は始めて聞く話ですが?」
栗田が岡村に聞いた。
「正直な話、私もおととい聞いたばかりなんだ。
駅前再開発に伴ってF電機が工場を海外に移転するために
土地を売却したいそうだ。したがって再開発にはF電機跡地の
構想も含まれるわけだ」
「そうなると、当然F電機の土地買収の資金も要りますね」
栗田が真壁の顔を見た。
「そうだな、あの跡地を買収すべて開発するには1000億円以上
掛かると言われている。どうするね、
君の会社だけでは無理があるんじゃないか?」
岡村は真壁に冷たく聞いた。
「当行は商業施設の件の資金として200億円の融資は
予定していましたが1000億円となると当行だけでは
無理かと思いますが」
栗田が首を横に振った。
「しかし、この仕事が請けられれば増資による
資金調達も出来ますので
なにとぞお力添えをお願いします」
真壁はテーブルに手を付いて頭を下げた。
「そうだな資金があれば問題ないが、
他のゼネコンや不動産会社を抑えるとなると
20億ほど掛かるぞ」
岡村が言った20億は裏金と言う意味だと
絵里子は分かった。
「じゅう、20億円ですか?」
岡村はF電機の工場跡地売却の件で話しが大きくなり
真壁の弱みに付け込んで途方も無い裏金を請求した。
真壁は20億円というあまりの金額の高さに驚き声を上げた。
「マンションはともかく大型商業施設で
今流行のアウトレットモールでは
二井不動産の物まねで集客も望めないんじゃないか?
スタッフはいないんじゃないか?」
岡村は話しが悲観的な話しを続けた。
「それは大丈夫です」
真壁は不安ながらも岡村に答えた。
そこに亮から絵里子に電話が掛かってきた。
「絵里子さん、キャシーに夕食に誘われたんですけど
どうします?」
「えっ、ランド不動産のキャシーがハワイにいるの?」
「はい、豪華なクルーザーでサンセットディナーを
催すそうです」
「わあ、行きたい!」
絵里子はキャシーとは面識は無かったが
久々に亮と一緒にディナーが出来るのが嬉しかった。
そして目をやったのは気落ちして精彩の無い真壁だった。
「真壁さん、夕食はサンセットディナーいかがですか?」
絵里子は真壁を誘った。
「はい、ぜひ」
真壁は岡村の了解を得ず即答した。
「真壁さん!」
栗田が真壁を強く呼んだ。
「先生、サンセットディナー行きましょうよ」
絵里子は岡村の目をじっと見て微笑んで岡村を誘った。
「ああ、かまわんよ。ハワイの夕日は綺麗らしいからね」
「ありがとうございます。先生」
絵里子は岡村の腕に抱きついた。
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ワイアナエ海岸の近くに着いたケアカが操縦するボートの
側にイルカの群れが近づいてきて
真紀子と美喜がイルカとシュノーケリングを始めた。
「祐希さんは泳がないのか?」
「私水着になる泳ぎだけは出来なかったんです」
「そうか、バレちゃうからな」
亮はそう言って祐希の胸を見ると
かなり大きくなっているのに驚いていた。
「今胸を見ていたでしょう。スケベ!」
祐希が亮を睨みつけた。
「かなり大きくなっていないかい、あの時に比べて」
「そうなの、急に大きくなってはちきれそう」
祐希は亮を誘惑していた。
亮は祐希との関係をどう続けるか悩んでいた。
マリエはデッキの上で肉と海老や貝を
アイスボックスから取り出し
ランチの準備を始めていた。
「亮、一緒に泳がないのか?」
ケアカが亮の肩を叩いた。
「僕はここで監視をしています」
「ところで、どうして君はTシャツを脱がないんだ?」
ケアカはTシャツの上から見える亮の肉体美を見て
良い体型の男は女性に前でそれを
見せたいのが普通だと思っていた。
「別に日焼けが嫌なだけです」
「そうか日焼けに弱いのか」
「ええまあ」
亮が返事をすると泳いでいる
真紀子の異常に気が付いた。
「まずい」
亮は海に飛び込んで溺れかかった
真紀子を抱きかかえ
フィンをはずした。
「大丈夫ですか?」
「ええ、足がつっちゃって」
「ええ、フィンの使い方に慣れていないと足がつるんです」
亮は真紀子をプレジャーボートのデッキに運び
足首を曲げふくらはぎのストレッチをした。
「亮って何でも出来るのね・・・」
マリエが亮を羨望の眼差しで見ていた。
「理学療法士の資格を持っているので処置は
大丈夫です」
ケアカはびしょ濡れのTシャツを脱がない亮を見て
首を傾げた。
「いくら日焼けをするといっても脱げばいいのに」
「違うわ、亮の体にはたくさんの傷があるのよ」
マリエはそれに気づいて亮の肩にタオルを乗せた。
「何故だ?」
「亮は4回も死んでいるのよ」
美喜は代々木公園と茅場町と横須賀そして今回の飛行機の事件
その都度亮は意識不明になっている事をケアカに説明した。
「わお、007より凄い」
ケアカは日本で撮影された
『007は二度死ぬ』を思い浮かべた。
「團さんありがとうございます」
横になっていた真紀子は太陽を背にした亮を
見上げそれがとても輝いて見えた。
「いいえ」




