追跡
「おとなしく捕まりな、日本の警察はどんなことしても
その場では殺さないから」
「いやだね」
ユンヒはそう言って小妹の声が聞こえる方向に飛びかかって来た。
暗闇で小妹の腕を掴んだユンヒはあっという間にねじりあげ
後ろに回った。
「相変わらず私には勝てないようね、お嬢ちゃん」
小妹は掴まれた手を支点に前に回ってユンヒの顎を蹴って
それを外した。
後ろに飛ばされてユンヒは小妹を探した。
「こっちだよ」
小妹は立ち上がったばかりのユンヒのボディを狙って回し蹴りを放つと
顔を狙って蹴り上げた。
しかし、訓練を受けているユンヒは両手で
自分の顔をしっかりガードをしていた。
「くそ!」
目薬の効果が薄れてきた小妹の目が見えなくなってきた。
蓮華と桃華が交互に特殊警棒を打ち込んでも
ミンホは疲れを見せる事無くナイフで避けきっていた。
「まずい、目が見えなくなってきた。桃華退避よ」
蓮華はそう言って暗くなっていく目の前のミンホの顔を見て
一歩引いた。
「ザックッ」
蓮華の髪が10数本切れて床に落ちた。
「強い!」
蓮華と桃華と小妹は1か所に固まった。
「殺すより生け捕りにする方が難しいのが分かったよ、せっかく亮のママが
美容院に連れて行ってくれたのに・・・」
蓮華が悲しそうな顔をして髪を撫でた。
「ミンホがあんなに強いなんて驚いたわ、1度亮と戦わせてみたい」
「室内灯を点けて仕切り直しだわ」
三人が顔を合わせてうなずいた。
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お台場のテレビ局の裏を通る湾岸B1号線の直線を
鈴木の車はスピードを上げ法定速度をはるか超えていた。
「おい、逃げられるぞ」
「分かっています、しっかり掴まってください」
和田に言われた亮はスピードを上げ
前の車を抜いて行った。
「キャー」
後部座席で左右に振られた梓沙が悲鳴を上げた。
「梓沙、しっかり掴まっていろ!」
すっかり追跡劇にはまった和田は振り返って梓沙
に注意をした。
「團さん、前方が空きました」
「ありがとうございます」
左側の運転席の亮に代わって右側の和田が
ナビゲーションを始めた。
「美喜さん、ペイントブリッド持っていますか?」
「はい、持っています」
「じゃあ、僕が鈴木の車を抜いたらフロントガラスに撃ってください」
「了解」
亮は美喜に確認を取るとマギーに連絡をした。
「マギー、バイクは危険なのでスピードを落としてください」
「了解」
亮の指示を受けてマギーはバイクを運転する
裕子にスピードを落とすように指示をした。
「團さん、運転うまいですね」
和田は亮の運転のうまさに驚嘆の声を上げた。
「いいえ、さすがAMGベンツです。エンジンの噴き上がりが良いし
足元を固めてあって動きが良い。これだけのスピードを出すと
アエロパーツの効果も出ています」
「よし、敵の車が見えてきたぞ。ずっと右側の車線を走っている」
「了解右に出ます。美喜さん鈴木の車を左側から抜いて前に出る時に
フロントガラスを狙ってください」
「分かったわ」
亮の運転するAMGベンツは時速150kmを
超すとフロントスポイラーの効果で
フロントは沈み安定したハンドリングが
でき高速の車線変更がいとも簡単に出来た。
亮は鈴木の車のテールとの間隔が10mに近づくと
左にハンドルを切って鈴木に車の脇に並んだ。
「亮、後ろからパトカーがたくさん来た」
梓沙が振り返って言った。
「あはは、そうですね。美喜さん、行きますよ」
「了解」
美喜が窓を開けるとゴーという音を立てて
後部座席に嵐のような風が入って来た。
美喜は窓ガラスに両腕を乗せ鈴木のフロントガラスを
撃つ準備をしていた。
「準備完了」
亮が脇に並ぶと鈴木の車はそれに気づきスピードをアップしていた。
「気づかれた!」
亮はアクセルを床まで踏みつけた。
「美喜さん行きます。3・3・1」
亮の運転する車は鈴木の車の前に入った。
「パーン」
美喜の撃った弾丸は軽い音を立てて鈴木の車の
フロントガラスをオレンジ色に染め視界を遮った。
ブレーキを掛けた鈴木の車のタイヤは耳をつんざくような音を立て
テールを左右に振ってスピンを逃れていた。
同時に亮もブレーキをかけスピードを落とし
鈴木の車の後ろに付け路側帯に停車するのを待ち
その前に車を止めた。
亮は実弾入りのピストルを持って運転席の鈴木に銃口を向けると
鈴木はせせら笑っていた。
「しまった!」
亮は慌ててベンツの運転席に戻り雪に連絡を取った。
「雪さん、鈴木は替え玉です!」
「えっ、どういう意味?」
「この鈴木同じ頃ホテルを出た男を確認してください」
「ちょっと待って!」
間もなく5台のパトカーが来て警察官が鈴木の車を取り囲み
鈴木を車から降ろした。
「亮、あの騒ぎの前だったのでホテルを出たのは
鈴木ともう一人だけです。
写真を送ります」
亮が受け取った写真を見て亮の顔色が変わった。
「森田!」
亮は大声を上げた。
送られてきた写真はまさにあの森田耕作だった。
「雪さん、この男の行き先を調べてください」
「了解です」
「マギー、引き返します」
屈辱を受けた亮は落胆しながらとりあえず
首都高速道路を出るために車をスタートさせた。
「どうした、犯人は捕まえたんだろう」
和田は心配そうな顔をした。
「いいえ、あの男は替え玉でした。もう一人黒幕が居たんです」
亮は裕子の運転するバイクと一緒に走り出した。
「亮、黒幕って誰だったの?」
美喜は黒幕の存在が気になっていた。
「森田耕作です。東大薬学部卒、元DUN製薬の
製薬部門担当取締役次期社長と目されていましたが、
抗ウイルス剤の副作用を隠蔽して、その責任をとって
DUN製薬販売の専務に出向、そしてDUN製薬のデータを盗み出して
逮捕されましたが証拠不十分で不起訴になった男です」
「その人がどうしてこんな事をしたの?」
梓沙は亮の答えに首を傾げた。
「森田はDUN製薬の処分に不服でDUN製薬に復讐をしていました。
その後アメリカ渡って何者かと接触して人間が変わり
政財界の大物を殺害して利益を得るつもりだったのでしょう」
「でもこれだけ綿密な事が出来たと言う事は大きな組織と・・・」
「はい、かなり大きな組織だと思います」
亮はそう言いながら頭にジャック・モーガンの名がよぎった。
そこに雪から連絡があった。
「亮、森田の行き先が分かったわ」
「どこですか?」
「羽田空港にいるわ」
雪と麻実は防犯カメラを引き継いで
森田を発見した。
「羽田に向かいます。羽田の出発便を確認してください」
「今からだと22時15分のニューヨーク行か
22時30分のハワイ行があります」




