孝子の気持ち
「ありがとうございます、ゆかさんの家はどちらですか?」
「私は五反田の方です」
「そうですか、じゃあ羽田からそう遠くないですね」
「ええ、まあ。普段は電車なので・・・」
ゆかは五反田と羽田の位置関係が良くわからず
返事をした。
「僕は東京出身なんですけどゆかさんは?」
「私は愛媛県です」
「ああ、坊ちゃん団子にタルト、山田屋まんじゅう、
じゃこ天も美味しい。
砥部焼、菊間瓦、今治のタオルは名品ですね」
「はい、詳しいんですね」
ゆかは愛媛の名物を次々に言われて嬉しかった。
「ええ、学生時代植物の研究で四国を歩きました。
それに総合旅行取扱管理者の試験を受けようと
思っているんです」
「そうなんですか。私の祖父は菊間の
瓦を作っていたんですよ」
「へえ、じゃあ鬼師ですね」
魔除けの鬼瓦の作る作家を鬼師と呼び
耐久性、温度調節など数々の機能を持った
瓦は日本の古い木材建築の耐久性を担っているアイテムの1つ
であり、菊間瓦は国宝姫路城を始め
様々な城郭の美しい甍を造形している。
「ええ、でも建築資材の変化で瓦も
売れなくなって廃業してしまいました」
「ゆかさん、仕事は何をしているんですか?」
「渋谷で婦人服を販売しています」
「えっ?バレないんですか?」
「アダルトビデオを観る人は男性だし
脇役だから私の顔までは覚えている人は
いないようですよ。もちろんお店に
バレたら首ですけどね」
「なるほど、女性はお金を出してまで
AVは観ませんよね。あはは」
「あっ、そうだ。私の名前は山本孝子、22歳です」
「彼氏は嫌がりませんか?」
「いません。この仕事していると出会いがないので」
「そうですか、そんなに可愛いのに・・・
ところで男優さんとの付き合いはないんですか?」
亮は徐々に話を殺された優弥の方に向けていった。
「私は稼ぎが悪いからあまり誘われないけど、
さっきいたアンナちゃんみたいな人気女優さんは
男優さんとよく遊びに行っているみたいです」
「やはり男優さんはあれが上手いから
人気があるんでしょうね」
「ええ、私は優弥さんに誘われて六本木の
マンションへ行ったわ、
テクニックがすごくてすごく良かったわ。
しばらくして優弥さんが紹介してくれた
男性とやって10万円もらったの」
「ひょっとしてIT会社の社長さん?」
「そう、なっていったかなクズ・・・」
「葛原圭介かな?ピーエヌエーの社長でしょう」
「そうそう、芸能人好きの社長さん」
亮はゆかの言葉で橋本優弥と葛原圭介の
繋がりが決定的になった。
「彼はテクニシャンですか?」
「良くわからないけど、お風呂場で体に泡をつけて
やった時すごく気持ちよかった」
「ひょっとしたらチョングボディシャンプー?」
「そうそう、韓国のボディシャンプーって言っていた」
「そうですか。ところでさっきアンナさんの
マネージャーと話していた男性知っていますか?」
亮は撮影現場をウロウロと歩いている
浩二を怪しんでゆかに聞いた。
「私、知らないけど・・・」
「そうかその時はスチールを撮っていましたね・・・
この話は後でしましょう」
「ええ、いいけど。團さんって変な人、
何かを捜査に来た刑事みたい」
「そうですか?ただのスケベな男ですよ」
「うふふ、スケベな男性大好き」
ゆかは亮の太腿に手を乗せた。
あまり男性の付き合いのないゆかは
スケベな男性ほど自分が付き合いやすいと思っていた。
「ゆかさんはどうして東京に?」
「祖父が瓦工場を止めて家族が貧しくなって
私は東京に働きに来たけど
生活するのがやっと、それで歌舞伎町
で声をかけられてアルバイトでセクシー女優に。
もっとも、女優と言ってもセリフもないし
裸になってやるだけだけど」
「ゆかさんとアンナさんはどう違うんですか?」
「彼女は元アイドルだから1本200から300万円で
大手5社と10本の契約、私はその10分の1よ」
「ああ、元アイドルなんですかどうりで・・・」
「綺麗でしょう」
「いいや、悲しそうな顔をしていました」
「悲しそうな顔?そうかしらマネージャーが
ついて新宿の高級マンションに住んで
サイン会やヌードグラビアの撮影でも
収入があるのでかなりいい生活しているけど」
「羨ましいですか?」
「もちろん、ブランドの服に
ブランドバッグ羨ましい、私の売っている服は
最高に高くても2万円以下だもの」
「確かにブランドで身を包むと
自信が付いて自ずから背筋を伸ばして
颯爽と歩けます。ブランド品は強硬な鎧です」
「やっぱり変わっていますね、團さん。
普通の男性はブランド品のどこがいいって聞きます」
「そうですか」
孝子は亮の全身を見て息を飲んだ。
「すごい、全部ブランドものなんですか!」
「いや、そうでもないです。
服はスタジオDです。知っています?」
「知っています、知っています。
日本のブランドだけどかなり高いですよね」
「スタジオDは一部を除いて生地、
染色、縫製は日本でやっていますので
しっかりしていますよ」
「そう素敵ですね」
孝子は亮のスーツの袖口をつまんで触っていた。
「うちの商品は安いんですけど中国で縫製するから
かなり不良品が出るんです」
「その不良品はどうするんですか?」
「アウトレット店があるのでそこで売っています」
「例の二井不動産のアウトレットモールですか?」
「そうです」
「ひょっとしたらアリスパークですか?」
「えっ、ええ」
孝子は亮が洋服にも造詣が深いので驚いて答えた。
「ゆかさん、販売のノウハウってありますか?」
「孝子でいいです。もちろんノウハウはありますよ。
買う人買わない人の見分け方や
声をかけるタイミングとか・・・」
「なるほど、確かに来たお客さんに片端から声をかけたら
逃げてしまいますね、何か求めているような
目を見て近づくんですよね」
「ふう、すごいですね。その通りです」
「実は学生時代美宝堂アルバイトをして、
ブランド品の良さを知るために
バッグをバラした事があるんです」
「本当ですか?」
「ええ、しかも新品で修理に出したら
メーカーに怪しまれました」
「うふふ、面白い」
孝子は普段他の男性話す事のない話題で楽しかった。
そして、一目で亮の魅力に気づいた自分が誇らしかった。




