ペントハウス
「まったく、生前贈与も出来んのか・・・
じゃあ私に15億円の借用書を書いておけ
借りた金でマンションを買うなら良いだろう」
飯田は亮を自分の跡取りと考えており自分の
財産を少しずつでも贈与したかった。
「はあ、分かりました。利子は?」
亮は首を傾げながら答えた。
「10年物の国債を買ったと思えばいいからその利子で良いぞ」
「ありがとうございます」
亮は飯田との電話を切って和美の方を向いた。
「中村さん、マンションは僕の名義だそうです。
それと15億円の金銭貸借証を作ってください」
「分かりました。それで利子は?」
「10年物の国債と同じでいいそうです」
「はい、かしこまりました。そう言えば
株式会社イイダから毎月200万円個人口座に
振り込まれていますが、給料でよろしいのですか?」
「えっ、あっ」
亮はため息をついた。
「それは株式会社イイダの顧問料にしたいんだけど、
僕はあの会社の取締役なんですよね」
「そうですね」
「とにかく節税しないと」
「わかりました、私の方で考えてみます。
亮さん何か欲しいものないんですか?」
「バイクも車もあるし服は美宝堂で買えば良いし、
考えておきます。強いて言えばカメラかな」
「はい、カメラのカタログを用意します」
「はい、逆に中村さん欲しいものがあれば言ってください。
留守を守っていただいたお礼に」
「考えておきます。では、事務所で印鑑の用意をしておきます」
和美は冷静に返事をして事務所に上がっていった。
ステージにはオーディションを受けるダンサーが集まりだしていた。
「亮、何人来るの?レッスンて聞いたんだけど」
紀子は近くにいる五郎を意識して亮の耳元で囁いた。
「今日は50人です。インストラクターが教えた
振りを覚えてその場で踊ります。ブロードウェイなんか一度に
何100人もの人がこの様な形でオーディションを受けます」
「それコーラスラインで見た事があるわ、
でもそれって意地悪じゃない?」
「そうでもないですよ、踊りを覚える能力だけではなく
リズム感もチェックします」
「じゃあ、踊りを間違ってもいいのね」
「そういう訳じゃないですけど、僕は振り付けより
リズム感と表現力を大切にしたいですね」
「ひょっとしたら亮、これオーディション?亮は審査員?」
「一応ここの代表ですから」
「そうよね・・・うふふ」
紀子は誰もが羨ましがる事をいとも
簡単やってのける亮が好きだった。
「まずいなあ、かなり緊張している」
亮はそう呟いて客席からステージに
上がりアサシオノところへ行った。
「おはよう朝倉さん、潮田さん」
「おはようございます」
二人はステージの上で大きな声で挨拶をした。
「二人に、ちょっと頼みがあるんだけど、
あそこにいる三瓶美菜子さん秋田から今朝着いて
とても緊張しているんです。
話しかけてやってくれないかな」
「いいですよ」
「そうだ、後でちょっと歌を唄ってください」
「いいけど、何でもいいの?」
美代子が不思議そうな顔で聞いた。
「デュエット曲じゃなくても
いいです」
「りょうかいです」
亮が客席に向かうと美代子と
佳代子は美菜子のところへ駆け寄った。
「おはようございます!」
「・・・おはようございます」
突然声をかけられた美菜子は一瞬戸惑って返事を返した。
「ねえ、一人?」
「は、はい、そうです」
背が高く大人びた佳代子の問いに美菜子は
一歩下がって答えた。
「私は朝倉美代子、高3」
「私は潮田佳代子、私も高3」
「私は三瓶美菜子です。私も高3です」
自分の同級生だと分かった美菜子の顔から笑みがこぼれた。
「今から振り付けを覚えなくちゃならないから一緒にやろうよ。
一人で覚えるより楽だよ」
「は、はい」
「じゃあ、一緒にストレッチからね」
美菜子は積極的に近づいてくる二人に戸惑いながら
不安と緊張が次第に溶けていった。
~~~~~
「なかなか、やるなあアサシオ」
亮は客席から三人を見ながらつぶやいた。
そして9時になるとステージのダンサーたちに集合がかけられ
インストラクターが振り付けを教え始めた。
「亮、振り付けってどれくらいで覚えるの?」
紀子が耳元で囁いた。
「30分です」
「短いんだね」
「ええ、紀子さん。ダンス終わったら歌を唄ってみませんか?」
「やだ、歌下手だから」
「歌はレッスンで誰でもうまくなります。
問題は声質なんです、誰もが心地よくなる声の持ち主が
スターになれるんです。
紀子さんがMCで人気があるのは声の質かもしれません」
「なるほど、どんなに腕の良いバイオリニストが
いても安物のバイオリンじゃダメということね」
「上手い事言いますね。人間の声は声帯で音を発生させ、
共鳴腔で共鳴させ口内で音色を変化させます。
つまり大元の声帯が良くないと美声にはならないんです」
「美声って何?」
紀子が首を傾げた。
「人間の声には例えばドの音を出していても
ドの音じゃなくてその他にも
色々な音が含まれているんです、その隠された音の周波数が倍だと
聞いた人間にはとても心地よく聞こえるんです。
簡単に言えば一人コーラス」
「うん、何となくわかるけどその倍音どうやって調べるの?」
「その声の周波数を調べればわかります。
とりあえず紀子さん倍音があるかどうか調べてみませんか?
もし倍音が含まれていたら歌のレッスンをするのも良い」
「うふふ、それ面白い。やってみるわ」
紀子は亮の説得に応じた。
「じゃあ、めぐみも歌ってみるといいかもしれないわね。
もしかしたら倍音がある
かもしれないわ」
「そうですね」
亮は考え込んだ。
過去に歌手デビューして成功したグラビアアイドルはいない、
歌が売れるまで金と時間のかかる歌手活動より万人受けする
水着写真の方が手っ取り早いからで、
決してデビューした全員が歌が下手では無かった。
「もし、めぐみさんが倍音を持っていたとしても
今のプロダクションでは無理でしょうね」
「うふふ、めぐみの移籍問題が起こりそう」
紀子は舌を出すと亮は後ろを振り返った。
「噂の主がきましたよ」
亮はそう言って立ち上がってめぐみとハグをした。
めぐみの胸は仙台の事件から比べて随分大きくなり
亮の胸にふんわりと当たるめぐみの胸に亮は
心拍数を上げた。
「久しぶりね、亮。体の調子はどう?」
「ええ、もうすっかり。時間がまだあるので
紀子さんと話しをしてください。
彼女はかなり悩んでいるようですよ」
「分かったわ」




