栗田の立場
数分後カニエラの前に連れてこられたのは
マリエの兄のケアカだった。
「私への金の返済、滞っているな」
「はい、申し訳ありません。父の入院でお金が必要だったので・・・」
ケアカは恐怖で体を震わせていた。
「そうか大変だったな。妹から金を借りられないか?」
「いいえ、彼女もお金を援助してくれています」
ケアカはすでにマリエがカニエラの指示で
亮から情報を聞きだそうとしている事を
知らず、妹マリエを必死でかばった。
「さて、借金の形に手伝ってもらおうか」
「なんでしょうか?」
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亮がマリエと食事をしている中
1組のカップルが腕を組んで入って来た。
「あら、彼女素敵」
マリエは腰近くまでスリットが入った
ドレスを着た女性を見て言った。
「ん?」
亮が振り返って見ると
そこには男に笑顔を見せている
美喜が居た。
「み、美喜さん」
亮が呟くと美喜は亮と目を合わせて微笑んだ。
「どうしたの亮、知っている人?」
「い、いいえ」
亮は美喜に何かの理由があると思い
知らないふりをしていた。
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美喜と向かい合っている栗田は夢心地で
美喜の目を見つめていた。
「憧れの美喜さんと夕食が出来るなんて夢のようです」
「ありがとうございます。1つ聞いていいかしら?」
「何でしょう?」
「京浜不動産のメインバンクじゃない四菱銀行の栗田さんが
どうしてここに居るのかしら?」
美喜は絵里子の指示通り栗田に聞きだすことにした。
「やはり気になりますか?」
「それは、歌舞伎を見に来たら舞台で
ミュージカル俳優が歌っているくらい変」
「あはは、その例え面白い」
栗田は美喜の真顔で言う冗談が可笑しかった。
「言い難い事ならいいですよ、
ちょっと気になっただけだから」
美喜はそう言って運ばれてきた白いトロピカルカクテル、チチの
ストローを吸いながら上目使いで栗田の顔を見た。
「言いますよ、言いますよ。美喜さん。
実は父の知人の民政党の岡村幹事長から
O駅の再開発に伴っての大型複合施設用地の
利用の話しがあったんです」
「ええ」
「それには四菱銀行が企業に融資する事は
決まったんですが、幹事長に対して
利益供与をしてくれる、京浜不動産に決まった訳なんです」
「そうか、以前飛松建設の利益供与事件ありましたね」
美喜は思った通りの返事が栗田から返ってきて
嬉しかった。
「はい、政治家にとってはとても便利な建設会社でしたが
マスコミが張っているので政治家は新しい
パートナーが欲しいわけですよ」
「でも、利益供与は犯罪ですよね」
「もちろんそうなんですが。口利きは政治家の特権ですから
何人かの議員は何らかの手段で利益は得ているはずです」
栗田はあからさまに政治家の裏の話をした。
「でも日本の国会議員が世界で一番給料がいいんでしょう」
「ええ、歳費が2106万円、文書通信交通滞在費
1200万円、秘書給与三人分
2300万円合計5600万円それでも上を
目指すなら足らないくらいです」
「そうか、私から見たら取りすぎだよ!という感じです」
「美喜さんって・・・思ったより博学ですね」
栗田は改めて美喜が好きになってしまった。
「ええ、友人が凄く頭が良いので刺激されて・・・」
「そうですか、美喜さんに影響を与える人って凄く素敵なんでしょうね」
「はい、凄く素敵です」
美喜は手を合わせて上を見上げ
その後目線を亮の背中に向けた。
「そうですか・・・どんな人だろうその人」
栗田は思いをめぐらし業界のプロデューサーか
モデル仲間ではないかと
決め付けていた。
「とても素敵な人です。もし良かったらご紹介しますよ」
「美喜さんが惚れる男性には興味がありますが、
会いたくない気もします」
栗田は自分が嫉妬してしまいそうで亮とは会いたくなかった。
「栗田さん、あなたにとってとてもプラスになる男だと思いますよ。
彼」
「本当ですか?」
「ええ、私はあなたと彼が気が合いそうな気がする。たぶん」
美喜は両手を広げた。
「あはは、気を使わなくていいですよ」
「でも、彼はあなたの銀行にたくさん預金をしているはずよ」
「どれくらい?」
「何十億円かしら?」
美喜が言うとさっき絵里子が言ったことを
思い出し、顔つきが変わった。
「その方のお、お名前は?」
「うふふ、後で教えてあげる」
美喜はもったいぶって言った。
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「亮、動けるようになったら日本に帰るの?」
「はい、日本に帰って温泉療養しようと思っています」
「日本には体にいい温泉があるって父に聞いたことがあります」
「カラは日本に言った事が?」
「ううん、1度行ってみたい私のルーツだもの」
「そうですね、僕も日本が大好きです。
僕は日本の国を護るためなら
どんな事でもします」
亮は顔を上げて星空を見上げた。
「私もこのハワイを護るためにがんばるわ、でも亮は
アメリカの偉い人たちと友達なんでしょう。
お見舞いにたくさん来ていたもの」
「そうですか、僕は意識不明でしたからね。
きっとハイジャック犯を捕まえた
お礼じゃないですか」
マリエは亮の答えが明確じゃないので首を傾げた。
「まあ、いいわ。兎に角あなたは
魅力的で謎が多くて素敵だわ」
マリエは映像に映し出された身代金400億円の
行方を亮から聞き出すカニエラの
命令をすっかり忘れていた。
「ありがとう、カラも素敵です」
傍で聞いていた、祐希は亮のわざとらしい
話になにか探っているような気がしていた。
三人は楽しい食事の時間が終えると目の前に
マリエの兄のケアカの車がレストランの前に止まった。
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ヒルトンホテルのレストランで真壁と夕食を
していた絵里子と祐希の後方に二人の男が座っていた。
「あの女か?」
カニエラの子分のサムが絵里子を見て確認した。
「はい、あの美人です」
「美人は余計だパウラ、それで娘は?」
「ホテルに預けているはずなのでそっちへも二人
向かっています」
「何処のホテルだ?」
「ユニオンハワイアンリゾートです」
「あそこは、ちょっとまずくないか?」
サムの顔色が変わった。
「どうしてですか?」
「あのホテルは香港のユニオンチャイナグループが
経営していて中国のVIPがお忍びで来るところだ。
とてもセキュリティが厳しいぞ」
「たかが子供の誘拐、失敗なんてありえませんよ。
それに命までは取られません」
「だといいんだが・・・」
ロサンジェルス出身のサムは安易なハワイの人間の態度に
なぜか胸騒ぎがしてならなかった。
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「いや、今日はお二人に買い物に付き合ってもらって助かったよ」
真壁は深々と頭を下げた。
「いいえ、真壁さんがしっかりとお嬢さんの
好みを聞いてくれたおかげです」
「とにかく感謝する」
「でも、買ったものは娘さんだけの物ではないですよね、
好みが違っていましたから年齢でいくと30歳代後半ともう一人?」
絵里子は笑いながら質問すると真壁はばつが悪そうに答えた。
「う、うん。まあその・・・」
「うふふ、仕方がありません。色々な女性と
関係を持つのが男性の本能ですもの」
絵里子は職業柄多くの男性を見てきていたので
生活にゆとりのある真壁が愛人を
持つことなど当然の事だと思った。
「そう言ってもらうと気が楽だ、
一人は秘書、もう一人は人妻だ」




