犯人逮捕
亮は篠原奏子の母親を護らなくてはならず
男に向かって両手を前に構えていると
篠原奏子の母親の手が亮のズボンを引いた。
それは手のロープが外れたという合図だった。
そこに男がナイフを亮の胸をめがけ突き刺して来ると
亮は篠原の母親の肩に左手を当て側転し
母親の体を引きドアの右横に移動させると声を上げた。
「篠原さん逃げてください」
亮の声に篠原は這いつくばってドアの隙間から外へ逃げだした。
「さてこれで5分と5分だ」
亮が言うと男は変な表情をした。
「ナイフを持っている方が有利だって?
僕の方が絶対優勢だ」
男は無表情だったが亮が自分の方が強いと
言われて腹を立てて亮にどんどん斬りかかってきて
亮をドアの反対方向へ追いやると
体を翻しドアに向かって走り出した。
すると亮は男に向かって椅子を放り投げた。
それを避けながら男は亮の方に向いた。
「まだ逃がしませんよ、けりをつけましょう。
それとも僕が怖いですか?」
「ふう、ナイフを持っている方が強いに
決まっているだろう。殺されたいか?」
男は重い口を開いた。
「いいえ、死にたくありません」
亮はそう言いながらシャツを脱いで
上半身が裸になると体の線が細くなり
的が小さくなる事により敵の攻撃が直線的になり、
筋肉を見せ威圧したかった。
そして、2万円もするワイシャツを汚したくなかった
亮は右に逃げながら手より長い足で男のボディを蹴って
動きを止めていた」
「くそ!」
格闘技でサウスポーが有利なのは
相手の右側の肝臓を攻撃する事によって戦意を失わせる
事が出来る。
鈍い肝臓の痛みで男がふらつくと
「あんたの母親は手作りの料理を作ってくれなかった。
怠け者か?歯並びが悪い」
子供の頃柔らかい食べ物ばかり食べていると
顎の発達が鈍り歯並びが悪くな事が多い。
「違う!おふくろは一人で俺を育ててくれた。昼も夜も働いて
生活保護を請求しなかった」
「それなのに母親の苦労を裏切るのか?」
「おふくろはもういない、ガンで死んだ」
「亡くなったからといって母親に申し訳ないと思わないのか!」
男の手の力が抜けた瞬間、亮は男のナイフを持っている
右手をつかみ背負い投で床に叩きつけた。
「幸い人は死ななかった、反省の時間はある」
「おふくろのお骨まだ部屋に置きっぱなしなんだ」
「キリスト教の墓で良かったら僕が預かる」
「なんだ、アーメンかまあいい。
あの太鼓は爆弾だけじゃない、
太鼓の中にガスが入っている」
「なんだって!」
「亮、大丈夫?」
美咲がドアを開けた。
「はい、犯人を確保しました。太鼓どうなりました?」
「太鼓から外すと爆発する可能性があるので
液体窒素につけて運送中よ」
亮が取り押さえられている男の襟首を抑えて聞いた。
「おい、ガスの種類は?」
「せ、青酸ガスだ」
男の答えに亮の顔色が変わった。
「美咲さん、シアン化水素は常温で
気化する殺傷能力高いものです
直ぐに消防庁の化学機動中隊に連絡をしてください、
次亜塩素酸ナトリウムで中和出来きるはずです」
「分かったわ」
美咲は外に出て爆弾運送中の爆弾処理班に連絡をした。
「至急、至急!運送中の爆発物の太鼓の中に
シアン化水素が入っています。
安全を考慮し処理をお願いします」
「了解」
美咲が連絡を終えて部屋に戻ると
亮が手錠をかけられた男に尋問をしていた。
「私の名は團亮と申します。命令は誰がしたんですか?」
「依頼者の名前は言えない」
「そうですね、守秘義務がありますね」
亮が頷くと男が妙な顔をした。
「では、誰を狙ったんですか?」
「それはあそこで爆弾を爆発させろと言われただけだ」
「うーん、それなり命を狙われている人物がいますからね」
「ああ、そのようだな」
「はい、大臣、次官、野党の幹事長、
オーストラリアのエネルギー省長官、アメリカ駐日大使
狙う相手で依頼者の目的が違います」
「まあ、そういう事だ」
「爆弾を左端にセットしたという事は
あの前にいた連中全員を狙ったというわけですね」
「・・・」
「黙秘ですか、ところで仲間はいらっしゃるんですか?」
「俺一人だ。仲間はいない」
男は亮の丁寧な質問に首を横に振って否定した。
「分かりました、後は警察署で取り調べを受けてください」
「悪いがもう喋らないぞ」
男は威張った様子もなく敬語で話す
亮を不思議に思いながら話した。
「お母さんの遺骨を鎌倉の共同墓地に
納骨しますのでお母さんの名前と
生年月日そして亡くなった日を教えてください。
それと住所も」
「分かった・・・おふくろの名前は佐藤幸子。俺の名前は
佐藤幸雄・・・部屋の鍵は郵便受けの裏側に貼り付けてある」
男は素直に自分の名前と住所を言い始めた。
「それでは私が責任を持って」
「あ、ありがとうな」
「いいえ、お母様には罪は有りません」
亮が優しく微笑むと佐藤が亮を止めた。
「おい、待ってくれ。仲間は女だ。任務の遂行の為なら
平気で人を殺す非情な女だ。気をつけろ」
「ありがとうございます」
亮は佐藤を警官に預けると美咲と一緒に部屋を出た。
「亮、お手柄よ」
「いいえ、まだ終わっていません。
彼は仲間に女がいる事を言いました」
「敵はあの会場にいた人間を狙って来るはずです」
「いったい誰を狙っていたのかしら?」
「左端の席は経済産業省の人間です」
「まさか、他にウイルソン長官や
大臣がいたのに役人、官僚の方が
ターゲットになるなんて・・・」
「そうですね、C4爆弾の量はどれくらい有りました?」
「爆発物処理班が言うには殺傷能力は
半径2~3m位だそうよ」
「では、やはり爆発で太鼓の中のシアン化水素を
飛ばす事が目的だったんですよ。
席順表をチェックしましょう」
「分かったわ」
美咲は席順表を持っている警備主任の所へ
行こうとすると亮は美咲に言った。
「美咲さん、舌で戦いましたよ」
「バカ、意味が違うわよ」
亮が会場に戻ると
「亮、ご苦労さん。何があった?」
ジョージは亮のただならぬ行動に気づいていた。
「ちょっと太鼓の演奏者の件で」
「そうか、太鼓を叩いた思ったら姿を消すし」
「大丈夫ですもう方がつきました」
「まったく・・・変わったヤツだ」




