太鼓
司会者の紹介で十一人が演奏を始めると
亮は立ち上った。
「美咲さん、太鼓を探してもらえますか?
トラックの中とかステージの裏とか」
「分かったわ、でもどうしたの?」
「胴長太鼓の音が1つだけ違うんです。
ひょっとしたら太鼓の中に」
「了解」
美咲の指示の元に警備の警察官が太鼓を探し始めた。
亮は会場を飛び出し地下の駐車場に向かった。
「原警視地下駐車場にシルバーのバン型トラック3台発見、
鍵が掛かって開けられません」
亮のイヤフォンに美咲への無線が聞こえてきた。
「美咲さん、僕があけます」
「でも、時間が・・・」
美咲は警察の考え方で裁判所の
ガサ状の請求が必要だと考えていた。
「大丈夫、僕は民間人という事で勝手に開けます」
亮は地下2階の駐車場に向い
待機している警官に聞いた。
「すみません、どのトラックですか?」
「それと向こうの2台です」
亮は手前のトラックの後ろに周り特殊工具を鍵穴に突っ込んで
カシャカシャと回すとトラックのシャッターが上がった。
「すみません、中に太鼓があるか確認してください」
亮は警官に指示を出し、中を確認することなく次の
トラックの後ろに回った。
「太鼓、発見!」
1台目のトラックの中から大声が聞こえた。
亮はそのトラックに飛び乗ると毛布がかけられた
胴長太鼓を発見してその毛布を取ってしっかりと張られた
皮を叩くと「ドン」と低い音を鳴らせた。
「これだ!」
亮はそう言ってトラックから飛び降り
階段を駆け上がった。
「美咲さん、1番左前にある太鼓の音が変です。
太鼓の中に何かが入っているような
ビビリ音が聞こえます」
「まさか爆弾!」
「可能性があります」
「では、避難を」
「ちょっと待ってください、まだ時間があるはずです。
演奏者の身柄確保の準備をそれと
爆弾処理班を呼んでください」
「演奏中にそんな事をしたら、台無しに」
「任せてください」
警官たちは亮が美咲と無線で話しているうちに
トラックの中から胴長太鼓をエレベーターで
ステージの袖に運んでいた。
亮はタキシードを脱ぎ上半身裸になってバチを手に取った。
「ドドドンカツカツ」
リズミカルな音にウイルソンもソフィア
そしてジョージも和太鼓の音を
堪能していた。
亮は美咲を通してステージの正面の奥の高い場所にある
照明ブースの人間に桶胴太鼓のソロの10秒間だけ
スポットを当ててステージのライトを消すように頼んでいた。
「行きます5、4、3、2、1」
ステージのライトが消えた瞬間
亮は左端で太鼓を叩いていた女性の
口を塞ぎステージの袖に引っ張り込み
太鼓を入れ替えた。
「はい!」
女性の声で胴長太鼓が叩かれると
ステージにライトが点いた。
「おお」
晒しを巻いた女性の中に上半身裸の亮の
姿を見つけた会場の客が声を上げた。
~~~~~
「さあ、太鼓を運び出すわよ」
美咲の指示で太鼓がステージの裏側から
運び出された。
そこには爆発物処理班が待機していて
太鼓の皮に耳を押し当てた。
「間違いありません。タイマーの音です」
処理班の人間は太鼓の皮にナイフを当ててそれを引き裂いた。
そこにあったのはタイマーとそれに繋がれている
C4爆弾ともう1つの箱が有っただった。
「あと、5分です」
「避難させましょうか?」
美咲が爆弾と聞いて震えた声で聞くとその男は冷静に答えた。
「いいえ、我々が外に出して処理をした方が安全です」
爆発物処理班は太鼓を台車に乗せて外に持ち出した。
~~~~~
亮の飛び入りで演奏者たちは一瞬戸惑ったが
亮の力強い太鼓の音に演奏を中断することなく続けた。
「團さんが和太鼓を叩けるとは思ってもみませんでした、
相当練習をしているんでしょうね」
栗田が直子に話しかけた。
「私も初めて見ました。太鼓の達人で練習しているんじゃないかしら」
プロと一緒に太鼓を叩いている亮の姿に驚いた
栗田の声に直子が答えた。
「まさかそれだけじゃ・・・」
「別に不思議じゃないわ。1回ですべての事が
覚えられるのが亮の特技なんだから」
「それって超記憶症候群Hyper storage syndromeですね」
「そうかもしれないわ。アメリカ中にいる
学生の顔と経歴全てを覚えたらしいから」
「それって・・・あはは、女性にもてるでしょうね」
栗田は直子の顔をのぞき込んだ。
「うふふ、本人に聞いてください」
「あの肉体美、男が見ても惚れ惚れします」
~~~~~
和太鼓の演奏は爆弾処理班がタイマーを止めた時と
ほぼ同時に演奏を終え、ウイルソン達は
立ち上がって素晴らしい演奏をたたえた。
「亮、素敵だわ」
会場の女性たちは亮の裸を見て顔を赤らめた。
「皆さん、大丈夫ですか?」
亮は女性たちに声をかけると女性の
一人が亮をステージの袖に引いた。
「楽屋の・・・」
「私たちは男が持ってきた太鼓を叩けと命令されたんです。
だからそこにいる英恵さんを離してあげてください」
「分かりました」
警官が英恵を抑えていた手を離すと亮が聞いた。
「それで、男は?」
「楽屋でリーダーのお母さんを人質にしています」
「分かりました」
亮は素肌にワイシャツを着て楽屋に向かった。
「美咲さん、女性和太鼓のリーダーの
篠原奏子さんのお母さんが
楽屋で人質になっているそうです」
亮は走りながら無線機で美咲に報告をした。
「亮、ダメよ。一人で突入したら人質の命が危険だわ」
「爆弾が爆発しなかったので何かが起こっているはずです」
亮が楽屋の前に立ってドアを叩いた。
「篠原さん、篠原さん」
「助けて・・・」
部屋の中から年老いた女性のかすれた声が聞こえた。
亮はドアノブをひねりドアを蹴飛ばして右脇に飛んで転がった。
前方にはロープで縛られた女性が見え
亮はそこに駆け寄って声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「は、はい」
「犯人は?」
亮が聞いてロープを解こうとした時、後ろに気配を感じ、
亮は女性を抱き抱えたまま転がって顔を上げると
ナイフを持った男が立っていた。
亮はちょっと重い篠原奏子の母親を抱きかかえ
ドアの方に回り込んで犯人に言った。
「爆弾は爆発し なかったぞ。お前の任務は失敗だ」
男は亮の言葉に表情を変えずナイフを
右手に亮に向かって近づいてきた。




