表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/99

閉話-2 救国の英雄

残酷な描写があります。苦手な方はご注意ください。

最終話、ほんの少し長めです。

 王都グレンデル――。城壁の周りには、猿の死体が無造作に捨てられ、鼻を摘まみたくなるよな濃い血の匂いがした。


 見張り台の上から、男が顔を覗かせる。

 雨が小降りなのと、陽が薄っすら顔を出していることもあり、黒い雨具(レインコート)を着る騎獣の姿が城壁の見張り台からも見えたのだろう。

 戦いは終わったのだろうか?そのまま正門の前で待っていると、正門横にある小さな扉から数人の兵士が姿を見せた。


「もしや、超級冒険者フィヨル・シュメルツァー殿のパーティーですか」


「はい、少しでもお力になれることがあればと駆けつけたのですが、無駄足だったでしょうか」


「いえ、助かります。詳しい話は中で」


 そう言われ町に入ろうとしたが、正門横の扉が小さく『ジャイアントフォレストボア』のサーモや体の大きな騎獣たちは潜ることが出来ない。

 結局正門を少しだけ開けてもらうことになった。


 門を潜り中へ。


 王都だけに華やかな町を想像していたのだが、近くには兵士以外の姿は無く、火をつけられたのか、正門近くの建物は黒く焼け焦げていた。

 隊長と思われる男が、この二日何があったのかを話してくれた。


 一日目――雨。『ブラックデモンエイプ』は、他の町同様雨の中、陽が完全に落ちるのを狙って闇夜に紛れ襲ってきた。

 とはいえ、ラフズレインの町同様、襲撃の日にちが分かっていたことと、見張りに『隠密』を見抜く異能所持者を多く配置していたことで、猿たちの町への侵入を防ぐことが出来たそうだ。

 猿たちも今までとは少し行動を変え、陽が昇るだいぶ前には退いたという。


 二日目――雨。日暮れと共に、再び猿が攻めて来た。

 昨日との一番の違いは、猿がバラバラに攻めて来たことだろう。

 大きな町である王都を隅から隅まで見張るには人手が足りず、見張りの薄い城壁から猿の侵入を許す。猿たちは異能を活かし、暗殺者らしく振る舞った。

 少数で活動する兵士を狙い、抵抗する力のない住民たちの避難場所も狙った。その襲撃によって多くの住人たちが殺されてしまったそうだ。

 兵士の配置が少ない貧民街と呼ばれる、貧しい人々が暮らす区画も狙われた。

 城壁の近くだったこともあり多くの人が殺されたそうだ。

 しかも、人手が足りず今も死体は道端に放置されているという。彼らには決まった墓も無く、この戦いが終結した後、死体を集めて火葬し、城壁の外の森に穴を掘って埋めるそうだ。


 この話を聞いたボクは、自ら手を挙げて死体の処理を手伝うことにした。

 貧民街に入ってすぐ嫌な臭いがした。

 話通り、道の端には寄せられているものの、猿に殺された人々の死体がそのまま放置されている。

 

 家族や友人か、死体のそばで泣いている人たちがいた。

 そのうちの一人、年老いた男性の遺体の前で泣き崩れる、二十代前後の男に声をかける。


「あの……少しいいですか?」


「なんの用だ。俺たち貧乏人は家族との別れすらさせてもらえないのか」


「いえ、ご遺体が雨に濡れ続けるのもかわいそうだなと……このままではご遺体も痛みはじめます。猿だってまた襲ってくるかもしれない。このまま放置しては食べられてしまうかもしれません。ボクならご家族の遺体を灰に変えることが出来ます」


「灰だと……」


 ボクは『竜の胃袋』から二種類の木片を取り出すと『合成』を使い小さな箱を創った。遺灰を入れるための箱だ。


「はい。灰にしたものをこういった箱にいれておけば持ち運べできますし、猿の襲撃が終わった後、箱のまま近くの森に埋めることも出来ますよ」


「遺灰か……ありがたい話だが、俺には、それを頼む金がねーんだ」


無料(タダ)でいいですよ、ボクは冒険者なもので、兵士の方々からも病気が蔓延しないよう遺体の処理を頼まれてまして(自薦)、今ならこの箱もお付けします」


 遺体は、彼の父親だった。遺体を灰に変え箱に入れる。

 少し前に、遺体を灰に変えた後、灰をどこに置くかイメージ出来るようになったのだ。こうして箱をイメージすることで、一粒も残すことなく箱の中に遺灰を入れることが出来る。

 グレンデル王国では、火葬もメジャーみたいだし、この方法はありかもしれない。

 ボクと男の会話を聞いていたんだろう、その後も遺体を遺灰に変えてほしいという依頼が続いた。貧民街に放置された遺体を次々と遺灰へと変えていく。

 身寄りのない遺体も遺灰にし、この地区の代表者にすべての木の箱を預けた。

 町の人からは感謝され、ボクは新しい『知識の書』を手に入れるウィンウィンの関係ってやつだな。

 神樹の翁はじめ、みんなはボクを物凄く胡散臭いものをみるような目で見ていたが……気にしない気にしない。


 その後も、噂を聞きつけた兵士や住人たちから『遺灰変換』を頼まれた。

 『遺灰変換』……異能の正体を隠すために咄嗟に口から出た名前だ。遺体を遺灰に変えるだけで感謝されるなんて、高位の神官や聖者にでもなった気分だ。

 王都に来る途中で出会った、猿たちの妨害を受け遅れていた騎士や兵士たちも無事合流出来たようで、歓迎会でもしているのか、正門付近が少しだけ騒がしくなっていた。


 そして、王都グレンデルは、三日目の雨の夜を迎える。


 ボクたちは遊撃隊として、町の外に出て戦うことを決めた。

 神樹の翁と神竜の王とエバンスの『直感』が指し示した強者の気配が、町の外にあったからだ。

 日暮れと共に、黒の雨具(レインコート)に身を包んだ騎獣たちの背に乗り森へと入る。

 兵士たちの話によると、この先には数十年前に滅びた村があるそうだ。

 話を聞く限り滅びたというよりは、村が王都の近くにあったため、村人全員が王都に移住してしまい、廃れた村というのが正しいのかもしれない。

 人間のように道具を使う猿たちにとっては、ぴったりな隠れ家だろう。


 王都へと進む猿たちに気付かれないよう、足音を潜め廃村へと向かう。


 廃村には、予想通り猿たちがいた。

 村を囲む壁は崩れており、中を覗くのも容易である。

 廃村にいる猿の数は大よそ二十匹、悪魔族ガングルの残った三匹もそこにいた。

 確かに巨人にも見えるか……長老と呼ばれる個体だろう、普通のガングルは、形が人型で背は二メートル越え、肌は灰色で尻にはトカゲの尻尾。全身に体毛はなく、額からは一角獣に似た黒い角が生えている。

 だが、ガングルの長老は、背は三メートルを越えており、腕が四本もあった。その他の特徴は変わらない、長く生きると腕が増える?パット見ただけでも厄介そうな相手だと分かる。

 神樹の翁と神竜の王は、ガングルとの再戦を希望しているが、流石に長老の相手は無理だろう。

 ガングルの長老の相手は、みんなと違って首を刎ねられても死ぬことも枯れることもない、ボクが戦うしかなさそうだ。


 女王(クィーン)(ヴァイパー)と戦って分かったことがある。

 ボクは自分より弱い相手と戦うのは好きだが、強者との戦いは嫌いだ。できれば色々と理由をつけて今回も回避したい。

 神樹の翁と神竜の王のウキウキ具合を見ると、そうも言っていられないんだろうな、覚悟を決めるか。

 ヨジ、オンドレイ、エバンスの三人と、サーモたち騎獣四匹に陽動を任せ、猿とガングルを引き離しにかかる。

 猿の多くは陽動に引っ掛かり、ヨジたちが暴れている方向へと駆けていった。

 ボクはガングル三匹に限定し『殺気操作』を使う、動きを止めるとかではなく、単にこっちにも敵がいるよと教えるためのものだ。

 狙い通り、三匹のうち二匹がこちらに向かって歩いてきた。

 神樹の翁と神竜の王が姿を晒し左右に走り出すと、二匹のガングルもそれに釣られるように二手に別れて追いかける。

 残るはガングルの長老と猿が二匹。


 ボクも茂みから出て姿を見せた。

 猿の目には、ボクが何の力もない人間の子供に映ったんだろう。舌なめずりしながら、鉈を手にボクの方へと距離を詰める。

 『殺気操作――金縛り』強引に猿の動きを止めると剣を抜き二匹の首を刎ねた。そのまま異能で灰に変える。

 長老には、ボクの実力が見えているようだ。

 猿を殺す間も、ずっとボクの観察をしていた。


「お前は……なんだ……」


 長く生きるとガングルも話せるようになるのか、言うことは変わらない。


「通りすがりの冒険者です。あなたを倒しに来ました」


「グハハハハ、我は古代種、悪魔族ガングルの長、人間ではムリ」


 余程自信があるみたいだ。挨拶代わりに殺気操作で縛ろうとしたが、体にまとわりつく殺気を易々と跳ね飛ばすと、ボクを目掛け突っ込んでくる。

 ガングルで創った『知識の書』を読んで分かったことがある。悪魔族ガングルは種族固有の異能として『武闘家』を持っている。

 あの丈夫な全身が武器というわけだ。

 長老の皮膚は堅く、思いっ切り振り抜いたボクの剣の方が途中から折れた。


「弱い武器、お前負け」


 ガングルが地面を蹴り上げた。大量の泥が宙を舞う。視界が奪われる。

 次の瞬間、四本の腕を使い顔面と腹にそれぞれ二発ずつパンチをもらう、そのまま体の上に覆い被さり、ボクの手足の関節がぐちゃぐちゃに砕けるまで永遠と殴り続けた。

 肋骨ごと潰されミンチと化した心臓、殴られた頭は頭蓋骨が砕け既に形を失っている。肉の塊と化したボクを見てガングルの長老は満足そうに笑う。

 楽しそうだ。殴り飽きたのだろう、ボクから視線を外すと、神樹の翁と神竜の王、二人を追って森へ入っていった同族を探すように遠くを見た。


 ……隙だらけだ。


「ナニ……ゴレ……ノド……イタイ……」


 刺突用の剣(エストック)が、ガングルの長老の後頭部に突き刺さり、剣先が喉から突き出す。

 剣先からポタポタと黒に近い色をした血液が地面へと落ちる。

 ボクの体も再生が追い付かず、黒い靄と人間の体が混ざり合う不完全な形だが、動きに支障はない。

 予め創っておいた刺突用の剣(エストック)を、『竜の胃袋』から取り出しては、背後から次々と突き刺していく。

 ガングルの長老の敗因は、ボクが不死の存在だと頭になかったことだ。


 翌朝――。王都を襲っていた猿たちが廃村へと戻って来た。

 当然のように、すべて倒す。


 我慢して死んだ猿の死体に唇を触れ『竜の胃袋』へ放り込む。ガングルの死体も一体だけ残した。

 この死体があれば、猿の隠れ家を発見したことと、王都から戻って来た猿を倒したこと、隠れ家にいた猿と悪魔族ガングルを倒したことも証明できるだろう。

 ガングルの長老や猿の記憶を読んだところ、まだ幾つか小さな群れは残っているようだが、どの群れもせいぜい四~五匹、町や村を襲う戦力はない。


     ✿


 数日後――。ボクたちは王都グレンデルのレストランにいた。

 名物である山羊料理に舌鼓を打つ。食事の席にはラッセ伯爵も同席している。


 あの後、グレンデル王国は、通信用魔道具を使い近隣の国に向けて『ブラックデモンエイプ』との戦争の終結を宣言した。〝……超級冒険者フィヨル・シュメルツァーは、不死神の王の墓を開けてしまったのかもしれない。だがあれは偶然である。なによりも彼らは、そんな事実を吹き飛ばすくらいの功績を上げた。よってグレンデル王国は、フィヨル・シュメルツァーに『救国の英雄』の称号を授ける〟という身に覚えのない一文が含まれた勝利宣言がされたそうだ。

 国王から、褒賞を直接渡したいと提案されたが、仲間に多数怪我人が出たという、出鱈目を言い回避した。

 それでも褒賞の一部はラッセ伯爵を通していただいた。制約はあるもののグレンデル王国の一部の店で十年間食事代が無料になる権利を勝ち取ったのだ!

 ブラックミスリル製の冒険者証に、その一文が刻んであるため、偽造やボクらの偽物が無銭飲食をすることは不可能だろう。


「フィヨル殿は、これからどうされるのですか」


「依頼の報告もあるので一度神聖国家エラトニアに帰ります。今回の件で、突発的な新種の魔物の発生と古代種の繋がりがあるのは分かりましたから、それを追います。ボクはこれでも古代種の研究家なんです」


 ここに『鑑定眼』持ちがいれば嘘だとバレていただろう。


「なるほど、古代種の情報が入りましたら、こちらからもご連絡いたします」


「ありがとうございます」


 ボクらは世界中を旅することになるだろう。

 ずっと見世物として、篭の中に囚われて過ごした人生をやり直すのだ。

 もっと常識を身に着けて、人間らしい生き方が出来るようにもなりたい。


 フィヨル・シュメルツァーと、その仲間たちが、魔王()()と呼ばれるようになるのは、もう少し先の話である。


     ✿fin

最後まで読んでいただきありがとうございました。

フィヨルは元々別の話用に作った人物(強者)で、こんなにも強い人物は、一体どんな人生を送ってきたんだろうと、設定を考えているうちに、この話が出来ました。


今後十話~五十話程度の短めの話を幾つか投稿したいと思っていますので、開く機会がありましたら、よろしくお願いします。

勝手に百話を目標に書いていたもので、途中だらだらと長くなる部分もありましたが、大目に見ていただけたら幸いです。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。


いい評価悪い評価、様々だと思いますが評価していただけると嬉しいです。


たゆ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ