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閉話-1 救国の英雄

 暁闇(あかつきやみ)――。空を覆う厚い雲は、陽を隠し、雨は上がることなく今も降り続けている。

 兵士は、数人で一塊となり、猿の魔物を追った。

 形勢は既に逆転していた。

 人間たちの耳には届くことはないが、猿たちに命令を出していた悪魔族ガングルは討たれ、猿たちは撤退の判断も出来ずに町に止まる。

 次々と同胞が討たれ、猿たちは敗走を許されないまま、人間たちに狩られ続けた。


 勝敗が決まる。

 猿たちが身に着けていた装備は、ラフズレインの復旧に充てることとなり、猿の死体は全てフィヨルが片付けることとなった。

 ラッセ・ポビション伯爵より報奨を問われた際、フィヨルが要求したのが〝魔物の死体の片付けをボクたちに任せてください〟だった。

 死体の片付けのどこが報奨なのだ。とラッセ伯爵含め、多くの人々が町を救った英雄の欲の無さに心を打たれる。

 もちろん、町の名物、〝美味しいものがあったら教えてください〟と、おねだりも忘れない。

 本当は猿の死体よりも、兵士や住人の死体が欲しかったんだけど……死体にしがみ付きすすり泣く家族の前では言い出せなかった。後でエバンスに話したら〝言わなくて正解です〟と一言。

 常識についてはエバンスから、色々教わっていこう。

 それにしても、よく降る雨だ。


「フィヨル殿ーフィヨル殿ー!」


 城壁の外、積み上げられた猿の死体を黙々と処理するボクのもとに、ラッセ伯爵を乗せた馬車がやって来る。伯爵は馬車から下りると、ボクの耳元に顔を寄せて小声で囁く。


「大きな声では話せないもので、少しだけ馬車の中でいいでしょうか」


「分かりました」


 ラッセ伯爵の後を追い馬車に乗った。


「申し訳ありません。実は『占い』の異能所持者は私自身なのです。私の占いは近い未来しか占うことが出来ず、一度占いをすると、その占いの日が過ぎるまで新しい占いをすることは出来ません」


 所持する異能については、親兄弟にすら秘密にすることが多い、それを領主、しかも貴族が他人であるボクに明かすのだ、異例というより異常だ。


「ボクが聞いて良かったんですか?」


「構いません。あなたはこの町を救っただけでなく、自身の護衛を減らしてまで住人の救助にまわしてくださいました。どれだけ感謝の言葉を重ねたとしても、この気持ちを表すことはできません。あなたは、我々の町を救った救世主なのです」


 ラッセ伯爵は、深々と頭を下げた。


「救世主殿にお願いがございます。新しい占いが降りました。猿たちはもう後がなく、大きな角を持つ巨人の影が率いる集団が、王都グレンデルに迫っております。どうか王都と我が国を御救い下さい」


 大きな角を持つ巨人の影は、十中八九、悪魔族ガングルの長老のことだろう。

 もう後がないというのも、ボクが女王(クィーン)(ヴァイパー)の遺骨を回収したことで、種の増殖が叶わなくなったからだと思う。

 残った猿たちで森の奥でひっそり暮らせばいいものを、ガングルの呪いからは逃れられないのだろう……ガングルの長老は『ブラックデモンエイプ』を創造する際、ひとつの使命を持たせた。人間の国を亡ぼすという使命を。

 これ以上数が減っては、国を滅ぼすのが不可能になると考え、焦って動き出したんだろう。

 それに、悪魔族は、各種族九匹しかおらず、一度滅びると復活するのに百年かかるそうだ。

 ボクの異能によって灰となった悪魔族が復活するかは謎だけど……五匹倒されたのが痛かったんだろうな。ボクが、ガングルを追い込んだんだ。

 残るガングルは長老と呼ばれる個体を含めて四匹、人間が創った国を滅ぼすのが目的なら、王都グレンデルに向かった猿の群れの中に、四匹のガングルも混ざっている可能性が高い。

 総力戦だな。


 王様には、既に三日後の雨に紛れて、猿の軍勢が王都に攻め込むことを連絡済みだという。

 『隠密』に対抗する、異能所持者の有用性についても報告してるみたいだから、そう易々と王都が落ちることもないだろう。

 問題はガングルの長老がどの程度の化け物かということだ。

 ボクらが王都に到着するのは早くて五日後、猿の魔物が王都に攻め入る二日後となる。

 転移技術が失われているのだ。こればかりは焦っても仕方ないだろう。ボクらが到着するまで、王都の兵士たちが耐え抜いてくれることを祈る。


     ✿


 王都まで距離にして一日、ボクらは王都へと続く街道に沿って進んでいる。

 一体どうした事か、王都に向かう途中の街道で騎士や兵士の列が渋滞になっていた。

 ラッセ伯爵から貰った地図によると、この辺りは道幅が狭く両脇を森に囲まれている。雨が続いているみたいだし、土砂崩れでもあったのかな。

 早速、黒の雨具(レインコート)から顔を出して姿を晒す。〝ヒェッ〟すぐ近くにいた兵士が声を上げ、周りの兵士たちは、ボクに向かって槍を突きつける。


「通りすがりの冒険者なんで槍はおろしてください。ところで、この渋滞は何が原因なんですか」


「ああ、なんでも道の先を猿の魔物が塞いでいるようでな、脇にある森を抜けて挟撃を狙ったが、森の中にも猿がいるようで上手くいかず足止めを喰らっている」


「そうなんですね、猿からは攻めて来ないんですか?」


「ああ、いまのところはそういった動きはない。お陰でこの渋滞だ。早く王都に馳せ参じねばならぬのに」


「これだけの兵士が合流するのは、猿からしても厄介ってことですかね。時間稼ぎでしょうか……ちょっと森を抜けて見てきます」


「いや……だから森には猿がいるんだって……おいっ」


 ボクらは道を逸れて森の中へと踏み込んだ。

 エバンスが『索敵』を使い、木の上で『隠密』を使う猿の居場所を見抜いていく。

 こうなると、身を(かく)して影を(あらわ)す暗殺者だ。

 多少は兵士に押し付けてもいいだろうと、直接障害になる猿だけを倒しながら進む。


 森の茂みを何度も潜り、ようやく先頭が見えた。

 そこでは狭い道で、魔物と兵士たちが戦っている。

 猿だけであれば数で押し切ることも出来るんだろうが、その中には悪魔族ガングルが一匹混じっていた。

 四匹を一度に相手にすることも覚悟していただけに、ここで一匹討てるのは運が良い。

 森を抜けて騎獣から飛び降りると猿の群れの中へと飛び込んだ。

 神樹の翁と神竜の王、ヨジ、エバンスがボクに続く。


「冒険者です。援軍に来ました」


 目の前の猿に短剣を突き刺しながら、エバンスは叫ぶ。


 乱入者の登場によって氾濫する川の如く、戦場は一気に荒れる。

 はじめは、ただ唖然と見つめていた兵士たちも武器を手に猿たちに向かっていく。


 神樹の翁と神竜の王は、悪魔族ガングルとの戦いをご要望のようだ。

 思いっ切り戦わせてやりたいのはやまやまなんだけど、一秒でも早く戦闘を終わらせて王都に向かいたい。二人がガングルに向き合うと同時に、ガングルの動きを止める。

 二人から邪魔するなとばかりに、物凄く怖い顔で睨まれてしまった。

 ガングルが倒れてからは、数の多い兵士が圧倒をはじめる。


 最後の猿が倒れるのを確認して、隊長と思しき男に声をかけた。〝死体はボクが処理しますので、残った装備は皆さんにお任せします〟すぐに異能で道に転がる猿の死体を灰に変えていく。

 死体を灰に変える異能は、隠せそうもない。


「ボクらは先に王都に向かいます。皆さんも後から追いかけて来てください」


 ボクの声に兵士たちは〝あれこそ本物の英雄だ〟〝俺たちも続こう!〟といった賛辞の声が上がる。行軍の邪魔になる死体を片付け、お金になる装備を残したことで、兵士たちからの好感度は爆上がりである。


「何が死体はボクが処理しますのでじゃ……猿たちの異能が欲しいだけじゃろう、美味しいところばかり持っていきおって……」


 神樹の翁は、ガングルの動きを封じたことが、よほどご不満らしい。

 その後も、神樹の翁と神竜の王からは、王都に着くまで嫌味を言われ続けた。

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