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20-2 鬼雨を纏いし獣 2

 魔獣の森を出たボクたちは、人里離れた草原に小屋を置いた。

 滅多に人が通る場所ではないのだが、増築を重ねた結果、小屋というよりは屋敷に近く、何もなかった草原に一夜で家が建つという奇妙な風景を生み出してしまった。

 騒ぎにならなきゃいいんだけど……面白い異能が手に入るかもしれないので、野盗の襲撃なら歓迎かな。

 『オレンジスフェーンドラゴンモドキ』のあまくさに乗って、近くの町へ情報収集に出かけていた、オンドレイとエバンスが戻ってきた。


 女王(クィーン)(ヴァイパー)の依頼を片付けたボクたちは、エバンスからの依頼でもあり願いでもある『ブラックデモンエイプ』の殲滅に向けて動き出した。


 猿退治の最初の障壁となったのが、神出鬼没の猿の居場所だ。

 猿たちは、人間たちが自分たちのことを探していることにも気付いているようで、拠点を作らずに常に動き続けている。

 今回はたまたま運良く『蛇の墓場』に猿の魔物が住み着いていたことで、それなりの数を討伐できたけど、倒した猿の記憶を見る限り、魔獣の森の中には他の集落は無いことが分かった。


「フィヨル様、ただいま戻りました」


「オンドレイ、エバンス、それにあまくさもおかえり」


 開いたままの扉から、あまくさが鼻先を覗かせる。

 元は自我を失った幽霊ではあるが、あまくさたち三匹の『オレンジスフェーンドラゴンモドキ』は、ボクが主人であるとはっきり認識しているようだ。

 最近は、鼻先をボクの体に擦りつけて甘えるようにもなった。

 彼らが、オオトカゲとしての第二の人生を楽しんでくれるならボクも嬉しい。

 小屋の裏手には、新たに手を加えた、サーモ、いよかん、あまなつ、あまくさ用の厩舎があるのだが、出掛ける前と後に四匹は、わざわざこうして必ずボクに顔を見せにくる。

 ボクの言葉に満足したのか、あまくさは厩舎へと戻って行った。

 せっかく新しい体になったので、騎獣たちにも追加の異能を与えることにした。

 『オレンジスフェーンドラゴンモドキ』たちは、元々種族固定の異能として『再生(中)』を持っていた。そこに今回は、少し前に殺した暗殺者が持っていた『初級暗殺者』を追加した。

 『ジャイアントフォレストボア』のサーモは元々『硬化(中)』を持っており、そこに『暗殺者』と同時期に手に入れた『初級盗賊』を追加した。

 お得系異能である『暗殺者』や『盗賊』は、本家の劣化版ではあるものの『忍び足』や『索敵』や『追跡』といった、移動にも便利な騎獣向きの能力がお得に揃っている。

 こんなにも便利な異能を持っているなら、貴族たちを泳がせて、もっと多くの盗賊組合を潰しておくべきだったのかもしれない。


「で、聞き込みで何か新しい情報はあったかな」


「はい、五日前の大雨の日に、ジークレインという町が猿の魔物の大群に襲われたそうです」


 エバンスは、悔しそうな表情(かお)で言葉を吐き出す。化け物にはなったが、エバンスは、ボクたちと違い人の心を強く残している。何より彼が猿へ向ける憎しみは本物だ。


 地図でジークレインの位置を確認する。

 ジークレインは、魔獣の森からも離れており、グレンデル王国でも比較的田舎にある町だ。

 ジークレイン周辺の道はあまり整備されておらず、今回はジークレインに繋がる街道にも猿たちが罠を仕掛けていたため、救援部隊の到着が大幅に遅れてしまった。

 魔獣の森から離れた町も、猿たちに襲われると分かったのだ。

 兵士の配置は、いまよりも分散され、猿たちは、手薄になった町へ戦力を集中することが出来るようになる。

 防衛は更に困難になるだろう。


「猿が襲う町が事前に分かれば、要撃も出来るし、対処のしようもあるんだけど」


「フィヨル様、要撃は難しいと思います。ヨルトレインが襲われる前に、王都の冒険者組合より調査員としてアダムス・チェティエンという男が派遣されて来たんですが、彼はこんなことを言っていました。ヨルトレインが襲われなかったのは、フィヨル様がいたからだと」


「魔物は人間以上に気配に敏感だからね。猿たちはボクが化け物だと分かっていたのかもしれないね。でも……『蛇の墓場』では姿を見せるまで気付かれなかったし、異能とかではなく直感?ナニカ嫌な感じがするなーて思ったのかもね。そんな場所に不用心に首を突っ込みたがるのは好奇心旺盛な人間くらいさ」


 やはり今回の作戦のキモは、次に猿が襲撃する町を知る方法だ。

 次じゃなくても、今後襲う可能性が高い町が分かるだけでもいい。

 結局、いい方法は思い浮かばず、オンドレイとエバンスの二人が町での聞き込みを続けることになった。

 エバンスには、ボクらのパーティーメンバーではなく、猿退治のために共闘する冒険者という設定で動いてもらうことにした。

 超級冒険者の仲間となると動きにくいことも多く、その点エバンスは、優秀な若手冒険者ではあるが、あくまで彼が有名だったのはヨルトレインという狭い範囲での話だ。

 王都なら『ブラックデモンエイプ』の情報をもたらした冒険者として、エバンスを知る人もいるかもしれない。でもこの辺りでなら、彼の知名度は無いに等しい。


 そんなエバンスに接触してきた男がいた。


 その男には雇い主がおり、雇い主がボクとの会談を望んでいるという。

 あまくさには、町に入らず近くの森に姿を隠すように言ってあるし、どうやって二人とボクの繋がりが分かったんだろう。

 オンドレイも、町に一人か二人はいそうな平凡の顔なんだよな……装備のせい?ローブと杖の素材には、黒い木の巨人の木材を使っている。高レベルの『鑑定眼』持ちなら見るだけでボクとの繋がりに気付くかもしれない。

 今後は、『合成』で創ったもの以外の装備も準備した方が良さそうだ。


 いま一番に考えなきゃいけないのは、エバンスに接触してきた男への対応か、


「ねぇエバンス、その男との話はどうなったの?」


「流石に俺じゃ判断しかねるので、オンドレイさんに任せました」


 ボクがオンドレイに視線を向けると、彼は口を開いた。ボクに話を振られるまで待っていたのだろう。


「あの男とは、明日もう一度会う約束をしております。フィヨル様の名前は出さずに、主に確認してからお答えすると伝えました」


「ありがとう、雇い主は恐らく貴族だろうね。少し意地悪をしてみようか、この小屋まで雇い主本人が出向くのなら、話を聞いてやってもいいと伝えてもらってもいいかな。大人数で押し掛けられても困るから、従者や護衛もほどほどにって条件も伝えてほしい」


「それだと、相手が怒りませんか?」


「その時は、その時だよ。猿の魔物との戦争中に、ボクを敵に回すような選択はしないと思うんだ」


 数日後――。

 二十人ほどの従者を連れて、貴族が小屋に訪ねてきた。

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