20 鬼雨を纏いし獣
残酷な描写があります。苦手な方はご注意ください。
『ブラックデモンエイプ』を片付けた後、満身創痍のみんなには一度枯れてもらった。
これだけ傷を負うと、治療よりも体を新しくした方が早い。
体を変更したいという意見は出なかったが、昨夜エバンスから異能について色々と聞いたからだろう、全員が追加する異能については即決せずに保留とした。
周囲に転がる猿の死体を処理してから、『蛇の墓場』へと入る。
蛇の墓場は地面の下に出来た空洞だった。洞窟と呼ぶには深さのない、広いだけの空間。
入口付近には、猿たちの食糧となったんだろう。人骨をはじめとした、様々な生き物の骨が転がっている。
どれも時間が経過しており、『知識の書』にすることは叶わなかった。
結局、『仮初めの生命の種』の品種として登録することで、成否に関わらず、散らばったすべての骨が灰へと変わる。
戦えない人間の体を、仮の器として使うことはないだろう。
これらの品種は、死蔵が決定した。
死にたての猿たちの死体は『知識の書』に換えた。
猿たちの持つ『隠密』の異能は役に立つだろう。
三匹いた悪魔族ガングルの死体も、ひとつは『知識の書』に、残りの二つは『仮初めの生命の種』にする。
『悪魔族:ガングルの種』×二
誰もが、その見た目から器に使うことを拒否したが、ガングルは人型で力も強く、道具を使う器用さもある。何よりも古代種だ。
登録されている『生命の種の品種』の中では最強であり、きっと役に立ってくれるはずだ。
ガングルの『知識の書』も読んだが、やはり悪魔族は古代種の遺骨を利用して、新種の魔物の創造と、創造した魔物の増殖を行っていた。
この二つは特別な異能で、幾つもの決まり事で縛られている。そう易々と使えるものではないようだ。
創造可能な新種の魔物は、悪魔族一種族につき百年に一度一種類しか創り出せない。
悪魔族ガングルの長老が『ブラックデモンエイプ』を創造した。
異能によって、その数を増やすこともできるが、異能の発動条件に見合うのは、新年を向かえる日の、日の出から日の入りまで、増殖する魔物の数にも限りがある。
種族創造と増殖は、同種の古代種の骨を使う必要がある。
女王蛇の遺骨は全てボクが回収したため、今後は、その数を増やすことも難しいだろう。
残された方法は、猿の魔物同士の生殖行為によって子を産む方法だけだ。
『ブラックデモンエイプ』は他種族との交配が出来ない決まり事もあるため、何匹残っているのか分からないが、『ブラックデモンエイプ』という種族を絶滅させることも十分可能である。
猿たちが、女王蛇の遺骨を墓場から移動させなかったのにも理由がある。ボクの異能同様、骨の状態で成功率が変動するからだ。
✿
ついに猿の魔物たちは、魔獣の森を出て動き出した。
鬼雨とも呼べる、強い雨に身を隠しながら猿の魔物たちは町を襲った。
町の名はジークレイン――。魔獣の森から、馬車で三日は離れた場所にある町だ。
森からジークレインの間には、二つの村があり、村が襲われることが無かったため、誰もが、この町が猿の魔物の目標になるとは思わなかった。
ジークレインは、他の町からも距離があるため、救援部隊を向かわせるのも難しい。
その日は、黒雲が上空を埋め尽くし、正午過ぎからジークレインは大雨に見舞われた。
猿たちは日没と同時に現れた。『隠密』を使い気配を消しながら悠々と城壁を越えると、見張りの兵士たちを最初の獲物とした。その後、屋根や町を囲む城壁へと登り、高所から一斉に矢を放つ。
それは、冒険者の町ヨルトレインを襲った戦術に酷似する。
違うのは、猿以外の人型の魔物が軍勢に混ざっていたことと、正体を隠して活動していた今までとは違い、猿たちが偽装工作を一切しなかったことだ。
仲間の死体を片す素振りを見せずに、ひたすら人を殺すことに集中する。
食糧である人肉の調達も最低限に抑えた。
今までは雨が上がるのを待ってから建物に火を放っていたのだが、今回は雨の中、扉や窓を壊し、無作為に建物の中へと火を放った。
猿の魔物は頭が良かった。
人間たちも黙って殺られてばかりではない。
通信用魔道具を使い、近くの町へと応援を要請する。王都にも連絡を入れた。
すぐに救援部隊を組み、機動力の優れた騎馬隊を先行させるが、ジークレインに続く道には幾つもの穴が掘られており、雲がかかり月明りも届かない暗闇の中、馬は倒れ、騎士の体は宙へと舞った。
そこを越えられたとしても、その先には沢山の丸太や岩を使った障害物が置かれ、行軍の足は明らかに遅くなる。
ようやく、夜明けに合わせるように雨も上がったが、猿たちの姿も既に町からは消えていた。
救援部隊の第一陣が到着したのは、昼過ぎのことだった。
町にある建物の多くが燃え、至る所から煙が上がる。死屍累々、路上にはおびただしい数の死体が転がっていた。
誰もが、魔獣の森近くの町や村が最初に襲われるだろうと考えていた。
それが、ジークレインへの襲撃事件で、どの町が次に狙われるのか予測が立てにくくなった。
グレンデル王国は、兵士を分散することを余儀なくされたのだ。
無論、王都が狙われる可能性だってある。
多くの貴族たちが、このことに頭を悩ませた。
ラッセ・ポビション伯爵も、その一人だ。
彼の領地にある町ラフズレインは、グレンデル王国でも有数の占い師によって、近々災害に見舞われるであろうと予言されていた。
ラッセ伯爵は、その災害の原因が猿の魔物によるものになると考えたのだ。
その占い師は、災害が起こる可能性がある町は複数あるとも伝えた。これによって、貴族間での兵士の融通も難しくなってしまう。
ラフズレインは、魔獣の森から距離があるため、兵士を派遣する優先度も低かった。そこで思いついたのが、力のある冒険者への防衛依頼だ。
ラッセ伯爵は、フィヨル・シュメルツァーとの接触許可が国王から下りたことで、ラフズレインの防衛の成功を確信した。
しかし、予想に反して、この一週間、フィヨル・シュメルツァーの足取りは消えたままで掴めない。
ドラゴンモドキのような目立つ騎獣を連れていれば、すぐにでも居場所が分かりそうなものなのだが、ラッセ・ポビションは焦っていた。
何話構成にするか決めかねていますが、『鬼雨を纏いし獣』が最後になると思います。




