19-2 蛇の墓場 2
残酷な描写があります。苦手な方はご注意ください。
一緒にいたことで、情がわいていたんだろう。
血の滴るエバンスの頭を見て、ボクの体からどす黒い殺気が漏れた。
目の前にいる悪魔族ガングルは、古代種といっても女王蛇と比べれば格下だ。
吹き荒れる殺気の嵐に、ガングルは震えている。
『殺気操作――金縛り』殺気が植物の蔓のように伸びガングルの全身に絡みついて動きを封じる。ただただ震えるガングルの瞳を下から覗き込んだ。
エバンスの頭を持つ手とは逆の、右腕の肘から下が斬れて地面へと落ちる。
ガングルの絶叫が戦場に木霊する。
左手の指を、一本ずつ強引に折り曲げエバンスの頭を引き剝がすと、優しく抱えて近くの地面へと置いた。
思っていた以上に、ボクは怒っているようだ。
そこからは、我を忘れたようにガングルを殴った。
ボクは終始笑っていたと思う、最後はその首を刎ねて、頭を地面に置くと足で踏み潰して終わりにした。
我に返った時には、あり得ない方向に関節が曲がる、頭のないガングルの死体が転がっていた。
少しやり過ぎたか……頭を冷やすために深呼吸をした。
神竜の王もガングルを倒していた。とはいっても神竜の王も片腕を失い、全身傷だらだけで辛うじて勝ったといった感じだ。
神樹の翁もガングルと戦っていたようで、こちらは相打ちに近く、弱っていたところを猿たちに襲われ、神樹の翁は既に枯れていた。
「やはり人間の体では限界があるのう、猿如きに殺されてしまうとは不覚じゃわい」
神樹の翁は、ブツブツとボクの中で不満を吐き出す。
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冒険者エバンス・アレグリアの視点――。
フィヨル様と出会って、世界が変わった。
何も無いところに家を出し、廃迷宮に潜ったと思えば、いつの間にか三匹のドラゴンモドキを従えていた。
そして、早くもあの猿どもを殺す機会が訪れた。
〝蛇の墓場〟といったか、フィヨル様は、俺から猿退治の手伝いを依頼されるより先に、一匹の蛇から墓掃除を頼まれていたらしい。それで魔獣の森に来てみれば、そこは猿たちの集落になっていた。
集落には二百匹近くの猿がいた。見知らぬ化け物も……フィヨル様は、それが悪魔族だと教えてくれた。
あれは、俺では絶対に勝てない相手だとも、それでも俺は戦いに参加したいと我儘を言った。
「了解。好きにしていいよ、でも死んだら約束通り魂は貰うからね、それとアドバイスをひとつ……生き延びるんだ。それでも、目の前に死しかないなら心だけでも残したいと強く願うんだ」
本当にお優しい方だ。
王に仕える騎士たちは常にこんな感情なのだろうか、このお方のためならば、盾となって死ぬのも本望だと心から思えた。
このパーティーは持ち回りで、作戦を決める。
俺にも一度だけ回ってきた。フィヨル様は、それを強者の驕りだと言って笑っていたが、俺はそうは思わない。どのパーティーにも司令塔であるリーダーはいるものだ。
そのリーダーが命を落としてしまった際、大半のパーティーは混乱して、よくない結果へと転がってしまう。
恐らくこれは、強者の驕りという言葉で誤魔化した、緊急時に誰もがリーダーとして振る舞うための特訓なんじゃないだろうか!そう、これはフィヨル様の照れ隠しだ。
期待に答えねば。
今回の作戦係はダリューン・シュメルツァー様だ。
その戦い方は熾烈で、まさしく子供の頃に聞いた大英雄、初代剣聖パライバ様の生まれ変わりである。
その強さに憧れと同時に、己の限界を知った。
俺は剣だけでは、これ以上強くなれない。なら、どうするか、異能を生かした戦い方をすればいい。
作戦は正面突破だったが、これについてもフィヨル様から柔軟に動いて良いと言われている。
俺は猿を殺して偶然手に入れた異能『隠密』を使い、猿の背後から忍び寄り首を狙って剣を突き立てた。
驚いた……あの日一匹の猿を仕留めるのすら必死だったのに、次から次へと猿を倒すこと出来た。
『隠密』持ちだからといって『隠密』を見破れるわけじゃない。
もし、この戦いで生き残れたら、短剣での戦いを学んでみるのもいいかもしれないな。
その時だ、鳥肌がたった。
視線を感じて振り向くと悪魔族がいた。一瞬で目の前に移動すると、奴の膝が俺の腹へとズシリとめり込む。
意識が途切れた……その間の記憶が無かったのは運が良かったんだと思う、意識を取り戻した瞬間首が落ちた。
・・・・・・
死後の世界というものだろうか?周りは真っ暗だ。
俺は立ち上がり周囲を見回す。なんだろう……遠くに明かりが見える。
光に吸い寄せられる虫のように明かりの方へと近付いていく、そこには、巨大な世界樹と白銀の竜を可愛くしたものがいた。
巷で売られている、可愛らしい動物の人形、あれはまさしく巨大なぬいぐるみだ。
気配を感じて振り向くと、そこには、ぬいぐるみオンドレイさんがいた。
混乱する俺にオンドレイさんは、フィヨル様の異能について教えてくれた。
取り込んだ魂を、仮の肉体に入れあたかも生きているように動ける異能……説明を受けても、どういう異能なのか理解出来ない。
実際、どんな異能なのか見てみるのが一番と言われ、オンドレイさんについていく。
フィヨル様が地面に種を植えると、芽が伸び、徐々に人の形へと変わっていった。種から生まれたのは真っ裸の俺だった。
次に目を開けると、俺は、その体に入り現実の世界にいた。
「どう……体の具合は、約束通り君の魂はボクが貰ったよ、これはある種の呪いなんだ。不死神の王の名前は知ってる?」
俺はフィヨル様の言葉に、首を縦に振った。
「二千年以上昔、世界を焼き多くの種族を滅ぼした大罪人、それがボクなんだ。今日からはキミもボクと一緒に永劫の時を過ごしてもらうよ……それがムリそうなら言ってよ、キミはボクと違って大罪人ではないからね。その時は、キミの魂を解放しよう」
目の前にいたフィヨル様は、まごうことなき神様だった。
この体は成長しない。
何度でも死ぬことが出来る体だ。これ以上強くはならないというなら、様々な可能性に挑戦したい。
装備は鉄製の鎧から、『隠密』を活かすために革鎧に変えてもらった。
武器は短剣をメインに、異能に合った小剣を予備の武器に選ぶ。
更に異能がひとつ追加出来るとのことだったので『中級暗殺者』を選択した。
異能『暗殺者』は『忍び足』や『鍵開け』等、暗殺に役立つ異能の劣化版をひとまとめにしてある。お得系の異能である。
俺は元々『剣術』という異能を持っている。
剣の扱いに関しては『剣術』の異能が一番なのだが、盾や剣以外の武器、格闘術まで考えるなら、お得系異能の『剣士』の方が強い。
理想は『剣術』と『剣士』の二個持ちなのだが、異能は自分が強く望んだからといって手に入るものではない。
そんな話を、フィヨル様たちにしたところ、全員が驚いていた。
フィヨル様たちは、意外にも異能の関係性についての知識は持っておらず、その夜俺はみんなと異能について語り明かした。




