19 蛇の墓場
残酷な描写があります。苦手な方はご注意ください。
騎獣に乗り、魔獣の森の奥地を目指す。
女王蛇からもお墓の場所は聞いているが、彼女も昔のことで記憶が曖昧だそうで、蛇の墓場を見つけるのには時間がかかりそうだ。
森に入り既に二日、ボクらとの力の差を感じるのか、魔物たちは戦う前から逃亡を選んだ。
神竜の王は、それが不満で堪らない。
「畜生、また逃げて行きやがった。かわいくねーな、俺は敵わないと分かっていても挑んでくるようなバカな奴が好きなんだ」
「駄竜が、ギャーギャーギャーギャーうるさいぞ、少しは静かにせんか」
「ジジイだって、俺とそんな変わんねーだろうがよ、この戦闘狂が」
「なんじゃと」
神樹の翁と神竜の王は、顔を突き合わせながら言い争いをはじめた。
森に入る前、二人は魔獣狩りを楽しみにしていたみたいだしね、しょうがないよね。
魔獣の森に入ってから四日目、ようやく目的地を見つけた。
息を潜めながらゆっくりと進み、茂みの中から顔を出す。
近くにある岩山の特徴から、ここが女王蛇の同胞が眠る、蛇の墓場で間違いないだろう。問題は、蛇の墓場の周りに黒色の猿の魔物『ブラックデモンエイプ』が住み着いていたことだ。
それ以外にも奇妙な生き物がいる。
形は人型だが、背は二メートルを優に越え、肌は灰色で尻にはトカゲの尾が生える。体や頭には体毛がなく、額からは一角獣に似た角が突き出ていた。
ボクは、その生き物に見覚えがあった。
「あれって、もしかして……」
微かな呟きが漏れる。
「フィヨル様、あの生き物が何か知っているんですか」
隣にいた、冒険者エバンスの耳には声が届いていたようだ。
「うん、古代種のひとつ悪魔族だよ。新種の魔物の発生に古代種が絡んでいるのは間違いなさそうだね」
「悪魔ですか……」
「エバンス、悪魔ではない悪魔族じゃ。そういえば、奴らはわしらが大暴れした時にも人間同様隠れて姿を現さなかったな、生き延びておったか」
「アンドリュー様、悪魔と悪魔族は違う生き物なんですか?」
「その二つはまったくの別物じゃ、悪魔族は生物だが、悪魔は精霊に近いからのう」
エバンスは眉間にしわを寄せる。神樹の翁の話が理解できないんだろう。
「厄介な奴らが残っちまったもんだな、あいつらは人間以上に悪知恵が働く、悪魔族は魔力の保有量だけは多いからな、恐らく新種の魔物を生み出す異能でも手に入れたんだろう。材料が古代種の亡骸であれば、そうホイホイ新種は作れないだろうが繁殖されると厄介だな」
そう言いながらも、強敵を前に神竜の王の口元は緩んでいた。
異能を使うには少なからず魔力を使う。
異能によって必要な魔力の量も異なり、ボクも不死ノ神を取り込んだことで多くの魔力を得ることが出来た。
神樹の翁と神竜の王という、二人の巨大生物を『合成』出来たのも、不死ノ神が持っていた魔力のお陰だ。
新しい魔物を創造する異能が存在するなら、膨大な魔力量とそれなりの材料が必要になる。
材料のひとつが、古代種の亡骸ってことなんだろう。
新種の魔物を追っていけば、古代種ともそのうち出会えそうだ。
「古代種相手じゃ人間は死んじゃうからね、エバンスはここで待機がいいかな」
「フィヨル様が人間でないのは知っていますが、他の方々もそうなんですか?」
「うん、ボクらはみんな化け物なんだ」
「そうですか……でも、俺も戦います。俺はあの猿を殺すために生き残ったんです。今日、俺が死んでも、猿どもを滅ぼす依頼だけは忘れないでください」
エバンスの決意は微塵も揺るがなかった。
「んー仕方ないか、友達の仇だもんね、好きにしていいよ。でも死んだら約束通り魂は貰うからね、それとアドバイスをひとつ!絶対生き残るんだ。それでも、目の前に死の選択しか残らないなら、心だけでも残したいと強く願え」
こうしてボクらは、女王蛇の遺骨を手に入れるために、蛇の墓場を占拠する猿と悪魔族相手に戦うことになった。
ボクらは、死ぬことがない。
これも油断なんだろう。
罪の無い人間が戦闘に関わっていない時限定だけど……ボクらは毎回持ち回りで戦い方を決めている。
今回は運が悪いことに、神竜の王の順番だった。
「今日は俺の番だったな、作戦はズバリ正面突破だ」
「正面突破と言ってものう、今回は悪魔族もいるのじゃぞ」
「それがどうした、正面から食い破ってやるぜ」
そんなわけで、突撃だ。茂みから飛び出すと猿の大群目掛けて突っ込んでいく。
猿の魔物は、エバンスの情報通り『隠密』の異能持ちだった。
一度目を離すと相手の姿を見失ってしまう、厄介な異能である。
『直感』の異能を持つ神樹の翁と神竜の王は問題ないと思うけど、エバンスは『直感』の他に『隠密』の異能も持っており、それを上手く使いながら、猿の背後に回り込んでは首を一突き、確実に殺していく。
エバンスは剣士のはずなんだけど、戦い方だけを見ているとまるで暗殺者だ。
「フィヨル様、すみませんやられてしまいました」
頭の中で声が響く。
「オンドレイは、このままボクの中でサポートをお願い」
「分かりました」
まだそれほど時間は過ぎていない。
視線の先には、首から上がない状態のオンドレイの体が転がっていた。
猿たちがオンドレイの血抜きをしようと刃物を刺した瞬間、オンドレイの体は急速に枯れていく。みんなの体は植物だからね、流れる赤い液体も血ではなく樹液に近い。
ヨジとサーモのコンビは、奮戦していた。
ヨジは『怪力』の異能を使い、倒した猿の死体を大群目掛け放り投げ、サーモも猿たちを跳ね飛ばす。
「フィヨル様、あまなつも倒されたました」
オンドレイが戦況を報告する。
自我は失っているものの、防人時代の名残からか『オレンジスフェーンドラゴンモドキ』の三匹は、仲間意識が高くトカゲとは思えない連携を見せる。
ドラゴンモドキは、猿の魔物よりも高位の魔物である。こんなに早く倒されるとは予想外だった……原因を探ろうと視線を向けると、あまなつの首を掴み高笑いする悪魔族の姿があった。
「オンドレイ、悪魔族が何匹いるか確認をお願い」
「分かりました」
いよかんとあまくさのフォローに向かおうとしたが、既に悪魔族の前には神竜の王が、大剣を手に満面の笑みを浮かべ立っていた。
英雄とはいえ、人間の体で、古代種に勝てるのだろうか?と疑問が浮かんだ。
そうは言っても、猿の数を考えると、悪魔族一匹に二人で当たるのは効率が悪い。あの悪魔族は神竜の王に任せることにした。
「フィヨル様、悪魔族の数ですが、この辺りにいるのは三匹だけです」
「三匹か、ねぇオンドレイ、人はあの悪魔族にも種族名を付けているの」
「はい、確か『ガングル』だったかと……」
戦いがはじまり、時間も経過した。
猿を殺し過ぎて目を惹いたか……ボクの前にも一匹のガングルが現れた。
ボクの足元には、無数の猿の魔物の死体が転がっている。
ガングルの長い六本の指には髪の毛が絡み、切り取られたエバンスの頭がぶら下がっていた。




