18-4 思惑 4
ボクらは無事王様の署名入りの活動許可書を手に入れた。
流石に未来永劫とはいかず、期間は一年のみ、猿退治と女王蛇の遺体集め……ドラゴンモドキのように骨になっていると思うから遺骨の回収になるか、長く見積もっても半年もあれば終わると思う。
せっかくグレンデル王国までやって来たのだ。
前回は、一番安価な水に浸して柔らかくすることでやっと食べることが出来る堅いパンばかりを食べていたし、今回はその土地土地の名物を中心に『食』を満喫したいと思う。
小さな村にこそ隠れた名店ありとは、首都エラトニアで行きつけの食事処の店主の言葉だ。
ついでに、冒険者組合にも立ち寄って猿の魔物の情報を集めているのだが、ボクが不死神の王の廃迷宮の横穴を発見したことが、思っていた以上に大騒ぎになっていた。
二千年間、誰も見つけることが出来なかった隠し部屋だ。そうなるよな。
……本物の発見者は別にいるんだけど、仮に、あの時高温の蒸気を浴びて彼らが全員死んで、横穴の情報を持ち帰れなかったのであれば、ボクは彼らを殺してその功績を奪ったことになる。クズ野郎だ。
今回の猿の魔物のように、道具を使う知能を持った魔物が、横穴の発見者であればと願う。あの時は目も無かったし、悔やんでもしょうがないんだけど、後悔する。
冒険者エバンスより依頼を受けた、猿退治についてだ。
冒険者組合で得た最新情報では、猿たちはついに魔獣の森を出て、森に近い道を行く馬車や、小さな村々を襲いはじめたようだ。
やってることが、そこいらの野盗と変わらない。
問題はそれで、猿に偽装した人間(悪党)も同時に動いている可能性があるとかで、冒険者組合も対応に頭を悩ませているそうだ。
悪事は全部猿のせいにしてしまえばいい!神樹の翁曰く〝人間はなんとも浅ましい生き物なんじゃな〟である。サルを利用して悪事を働く人間なんて、猿の魔物以下だ。
ボクらも魔獣の森へ踏み出す準備をしていた。
依頼の順番を守るなら、女王蛇の同胞の遺骨を回収>>>猿退治だ。
冒険者組合で魔獣の森の活動についてのアドバイスを貰う。町や村があった場所なら道もあるので馬車も入れるが、大半の場所には道などないという。
魔獣の森奥地で活動する冒険者の多くは、騎獣登録した馬や牛やロバの魔物交じりを連れて活動するそうだ。
騎獣登録には試験がある。目の前に好物の食べ物を置いても我慢できるかや、大勢の見知らぬ人間に囲まれても主人の命令に従い大人しく出来るかといった試練が幾つもある。
試験に無事合格すると首輪に付けて使う専用の名札が貰えるのだ(購入)。
試しにサーモが挑戦してみた。
登録には、人間が付けた種族名を使う。
サーモであれば『ジャイアントフォレストボア』だ。もちろん試験は一発合格。サーモもドヤ顔で鼻を鳴らす。
サーモには、ボクとヨジが乗るための二人乗り用の鞍を付けた。
〝近くの森に他の騎獣を潜ませているんで連れて来ます〟そういって三匹の『オレンジスフェーンドラゴンモドキ』を連れて行ったら、村はちょっとしたパニックになり、村長さんから直々に長めのお叱りを受けた。
ドラゴンモドキといえど、見た目はほぼ竜である。
村人たちが混乱するのも当然だ。
四種の中から『オレンジスフェーンドラゴンモドキ』を選んだのは、今回手に入れたドラゴンモドキの中で体が一番小さかったからだ。それでも尾を入れれば三メートル近い大きさがある。
器に入れる魂は、墓に宿る防人の幽霊たちからオーデションで選んだ。
やはり、自我が崩壊している幽霊は、人より動物の器の方が相性がいいみたいだ。
神樹の翁の騎獣の名は《いよかん》、神竜の王の騎獣の名は《あまなつ》、オンドレイと冒険者エバンスが二人で乗る騎獣には《あまくさ》と名付けた。
神竜の王は、特に騎獣が気に入ったようで〝幼きドラゴンよ、竜の神であり王でもある俺に乗ってもらえるんだ。誇るがいい〟そう高笑いしていたが。
〝ドラゴンじゃなくてドラゴンモドキだし、中身も元人間の幽霊だし〟と、喉元まで出かけた言葉は、何も言わずに飲み込んだ。
最初は三匹を怖がっていた村人たちも、害が無いと分かって安心したようで、珍しい生き物を前に恐る恐る触ったり、子供たちの中には抱き付いて、友人たちに自分の勇気を見せる猛者もいた。
騎獣登録についての補足だが、本来騎獣登録は国境を越えるごとに再登録が必要なのだが、ボクの場合、超級冒険者ということもあり、超級冒険者の情報は、国々で広く共有されるという規定によって、海を渡らない限り再登録も不要とのことだ。
本人に直接いうと、調子に乗りそうなので言わないが……クアリスには本当に感謝だな。
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王都グレンデル、王城会議室。
王と貴族たちは集い、話し合う。
「フィヨル・シュメルツァーが不死神の王の廃迷宮の横穴を暴き、不死神の王の牢獄を開けたという事件は、早くも他国に伝わり噂になっているようですな」
「順調であるな。わしの下には、不死神の王の牢と新種の魔物の発生の因果関係は無いのかと問い合わせも来ておるぞ。勿論そんなもの知らぬと言ってやったがなワーハッハッハ」
「まー、これで牢獄が暴かれた時期と新種の魔物の発生時期をズラすことが出来た。他国からグレンデル王国に対して、このことで苦情が入ることもないだろう。これからは猿退治に集中出来るぞ」
「そうそう、あの噂は聞いたか、フィヨル・シュメルツァーが騎獣として冒険者組合にドラゴンモドキを持ち込んだそうだ。本当にあの若者は底が見えぬの」
ザワザワと雑談をはじめる貴族たち、その時一人の貴族が手を挙げた。
「どうしたのだ。ラッセ伯爵」
「王よ、お願いがあります。超級冒険者フィヨル・シュメルツァーと接触する許可をいただけませんでしょうか」
「ふむ……今回の件もそなたの手柄でもあるしな。許可しよう……だが、あ奴はたった一人で数千の兵を屠る化け物だ。くれぐれも注意して動け、他の者も分かっていると思うが、私利私欲によるフィヨル・シュメルツァーとの接触は禁止とする。あの者は貴族の不正を大層嫌うようだからな」
王の言葉に、貴族たちは従った。
完結近いです。
登場人物の名前を考えるのが本当に苦手で、今回はオレンジ色をしたドラゴンモドキの名前ということで、考えるのを放棄して、オレンジ色の柑橘類の名前をそのまま使いました。




