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18-2 思惑 2

「この依頼を引き受けていただけるのであれば、グレンデル王国で自由に活動できるよう取り計らいます。国王直筆の署名(サイン)入りの証明書を発行しますので、国内の町や村にある冒険者組合も自由に利用できるはずです」


 担当者は柔らかい笑みを浮かべる――。


「不死神の王の廃迷宮の探索、謹んでお受けいたします」


 ボクは、その依頼を引き受けた。


     ✿


 グレンデル王国領内、魔獣の森は避けつつ、ひたすら北へと進む。

 不死神の王の廃迷宮は、この大陸の北の荒地の入口にある。

 北の荒地は、どの国の領地にもなっておらず、一番近いグレンデル王国が荒地の見張りを任されている。

 神樹の翁と神竜の王が混ざり合い産まれた最恐の怪物、その被害をもっとも受けたのが、この北の荒地だと伝えられている。

 グレンデル王国と北の荒地の間には、はっきりとした国境線は引かれていないが、北の荒地は緑とは無縁の灰色と茶色の二色の土地のため、一目でそこが北の荒地だと認識できるという。


 大猪のサーモが牽く馬車に揺られ、北の荒地を目指す。


「フィヨル様、北の荒地に行く前に村に立ち寄ると聞いたんですが……村には何があるんですか?」


「何がというか、迷宮に入るために特別な指輪を持つ学者の協力が必要らしくてさ、単なる待ち合わせ場所かな」


 エバンスの質問にボクは答えた。


 自分が二千年ものあいだ封印されていた迷宮の調査を頼まれるとは、不思議な因縁を感じてしまう。しかも、同行者付とか考えるだけでも面倒だ。


 グレンデル王国領内に入り移動すること二十日、ようやく遠くに灰色の山々が見えはじめた。

 北の荒地にある呪われた山脈だ。

 目的地は、荒地の手前の小高い丘の上にある名前の無い村。

 その村は、不死神の王の廃迷宮の調査に赴く、学者たちのために作られたという。

 迷宮の外に出て、一番最初に殺した狼の記憶にもあった、最も迷宮の近くにある村だ。


 狼の記憶が記された『知識の書』を頼りに進む、暫くして丘の上に建つ集落を発見した。

 村は、獣対策の木の壁で囲まれており、壁よりも高さのある櫓には、ボクらに向かって手を振る村人の姿があった。

 大猪のサーモの背中からヨジが、村人に向かって手を振り返す。

 村に近付くボクらに、櫓の上にいた村人が声をかける。


「はじめて見る顔だな、こんな辺境に何の用だ?」


 村人はボクらを警戒しているように見える。

 ボクは包み隠さず、国から不死神の王の廃迷宮の探索依頼を受けたことを伝えた。


「ああ、あなた方がフィヨル・シュメルツァー様御一行ですかい、話は聞いております。ささ、村の中へどうぞ」


 知らせが届いていたのだろう、村人の顔からは警戒の色が消え、門が開く。

 集まってきた村人たちは、ボクらよりも、大人しく言うことを聞き馬車を牽く、大猪のサーモに興味を持ったようだ。

 村の大地主らしき男から、大猪のサーモを売らないかと声をかけられたが、サーモは家畜ではなく家族だと、即お断りした。


 そのまま、すぐに村で一番大きな、学者たちの仕事場である研究所へと案内された。

 そこで、今回の依頼の詳しい説明を受ける。

 不死神の王の廃迷宮は、隅々まで人の手が入っており迷宮全体の地図もあった。

 依頼の内容は、調査の手伝い兼護衛として、学者と共に地図にある目印の場所まで向かう簡単なものだ。

 任務による拘束期間は一週間前後、冒険者でもあるエバンス・アレグリアの話だと、提示された金額は調査内容を考えれば破格の金額なのだという。

 場所が、危険の少ない廃迷宮となれば尚更だ。

 少し怪しい気もしたが、この任務ひとつでグレンデル王国での自由が約束されるのだ、ボクは迷うことなく、その依頼に署名(サイン)した。


 同行する学者の名はクラウス・ジャスラ。年齢は二十六歳で、この研究所の中では一番年が若い。

 クラウスは人見知りのようで、廃迷宮に到着するまでの道中、仕事以外の会話には口を固く閉ざした。


 あまりにも無口で表情を変えないクラウスに、少しだけ悪戯心が湧いてしまった。

 驚いた顔を見てみたいという理由から、不死神の王の廃迷宮に到着すると、何の説明もせずに幌馬車を『竜の胃袋』に収納してみせる。

 クラウスにすれば、目の前にあった幌馬車が突如消えたように見えたのだろう〝ぎゃあああああ――――〟と驚くほどの声量で叫び声を上げた。

 更に『竜の胃袋』の中から小屋を〝ドーン〟と、目の前の平地へと出現させる。

 再びクラウスはその場で尻餅をつきながら驚いた。


「フィヨルさん……何が起きているんですか……」


 クラウスの声は驚きのあまり上擦った。


「これが、超級冒険者が起こす奇跡さ」


 と、思わずよく分からない台詞を口走る。

 クラウスは、素直なのか、単に世間知らずなのか、ボクの言葉に〝凄い……これが超級冒険者なんですね〟と衝撃を受けていた。


 廃迷宮に魔物がいないと聞きガッカリした神樹の翁と神竜の王は、ヨジと一緒に、大きさ的に迷宮に入るのが難しい大猪のサーモと共に小屋に残ることとなった。


 少し前までは、廃迷宮の中にも生き物が豊富にいたという。それが突如迷宮全体に高温のガスが噴き出し、迷宮内の生き物が死滅したそうだ。

 そうはいっても、時間が経てば廃迷宮は、また生物を吐き出すようになる。

 それなのに、謎のガス騒ぎの後、廃迷宮の中では一度も生物が見られていない。

 

 高温の謎のガスか……ボクの『合成』によって神樹の翁と神竜の王が混ざり合い産まれた化け物が、枯れる直前に残した一粒の種。

 その種を取り込んだボクの体から噴き出した高温の気体が、謎のガスの正体である。廃迷宮の生き物を死滅に追いやったのはボクなのだ。


 廃迷宮には、ボクと元防人の魔法使いであるオンドレイと冒険者のエバンス、そこに学者のクラウスを加えた四人で潜ることとなった。

 廃迷宮の入口には、許可のない人間が入ることは出来ないように封印が施されており、特別な指輪を持つ者が近くにいないと入ることが出来ない。

 クラウスが入口に向けて、指輪をつけた右手を伸ばす。

 廃迷宮の入口を塞いでいる、光の壁にぽっかり人が通れる大きさの穴が開いた。

 ボクらは、明かりの灯る魔道具を片手に廃迷宮へと踏み出した。

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