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18 思惑

 いまにも雨が落ちてきそうな曇天の下、幌馬車を牽く大猪が楽しそうに駆ける。


 馬車を牽く大きな猪は、『大猪の仮初めの生命の種』より生まれた器に宿る、自我を失った防人(さきもり)の幽霊、サーモである。

 防人だけにサーモ。今思うと安易な名付けだったかもしれない。

 幌馬車の御者台に人影はなく、代わりに大猪のサーモの背には、黒色のローブとネズミの面をかぶる子供が乗っている。

 実際は子供ではなく、黒い木の巨人の種の品種改良によって生まれた、黒い木の小人の器に宿る、樹齢三百二十年にもなる妖樹の魂ヨジだ。

 何故か妖樹は名付けによって幼児化を起こし、ボクを父のように慕うようになった。

 妖樹だけにヨジ……サーモ同様、ネーミングセンスの無さには絶望する。

 ヨジは、真っ黒な、目も鼻も口も無い動く人形で、黒のローブと動物のお面は、それを隠すための装備だ。こうしていれば、大半の人はヨジを人の子供だと勘違いする。


 元気一杯、サーモの背中に乗って楽しそうにはしゃぐヨジを見ているうちに、ぽつりぽつり、雨が落ちてきた。


「小僧、本降りになるぞ」


 神樹の翁は、空を見上げ言った。

 急ぎ馬車を道端に寄せると、竜の胃袋から小屋を取り出す。

 幌馬車の中にいれば濡れることも無いのだが、ボクに『合成』されたモノたちが集う世界で、ヨジが〝サーモだけ、濡れるのはカワイソウ〟そうオンドレイに向かって話したそうだ。

 その話を聞いてから、雨の強い日にはこうして小屋を出し雨宿りするのが習慣となった。

 小屋にはサーモの体に合わせて創った馬小屋もある。

 急に出現した小屋と呼ぶには大きな建物。猿退治の依頼主として共に旅をすることとなった冒険者エバンス・アレグリアは、小屋を前でただただ固まった。


 面倒事を避けるためにも、ダッカス王国の領地は、最短で抜けることが出来る経路(ルート)を選択した。

 それが正解だったのか、こんなにも目立つ大猪が牽く馬車に乗っているのに、襲撃は一度も無い。


 旅のスタートは順調である。


 そんな順調な旅も、グレンデル王国国境、要塞都市ガルトレインで足止めとなる。

 グレンデル王国は、新種の魔物ブラックデモンエイプとの魔物戦争を宣言しており、王国軍の指揮に加わらずに猿狩りをしようとするボクらの行動が、軍事介入に当たるかどうか、確認させてほしいと頭を下げてきたのだ。

 こうして、ボクらは、ガルトレイン近郊に留まることを余儀なくされたのである。

 兵士の一人が見張りとして同行するのが条件ではあるものの、町の中ではなくガルトレインの近くの森での野営許可も下りた。

 当然のように担当する兵士も、何もないところに突如出現した小屋に大きな驚きを見せる。

 超級冒険者を名乗った今となっては、多少目立つのもやむなしである。


     ✿


 王都グレンデル中央に優雅に聳え立つ王城。国王に急遽召集された貴族たちが、会議室に集まり話し合う。


「なるほど、神聖国家エラトニア公認の超級冒険者がガルトレインにやって来たと、入国理由は、ブラックデモンエイプの討伐。問題は、我が国の指揮下に入らずに単独行動を希望しているということですな」


「別にいいのではないか、一匹でも多く猿どもを狩ってくれるなら歓迎だろう」


「しかしな、我々の指揮下に入らないというのは、超級冒険者とはいえ、いささか調子に乗り過ぎではないか」


 貴族たちは、超級冒険者フィヨル・シュメルツァーに対して、どのような要求を行うかを話し合う。


「私からも提案をひとついいでしょうか」


「うむ、聞こうかラッセ伯爵」


「彼の自由行動を認める代わりに、ひとつ依頼を出してはどうでしょうか」


「依頼だと……猿以外に超級冒険者が必要な依頼はなかったと思うが」


「不死神の王の廃迷宮の探索を依頼するんです。一度壁を塞ぎ彼が不死神の王の牢を暴いたことにすればいいんですよ、新種の魔物の発生と不死神の王の牢の因果関係は不明です。それでも、我々が不死神の王の牢を暴いたと発表すれば、それを関連付けて騒ぎ立てる国も出てくるでしょう。それならいっそのこと、牢を暴いたのは超級冒険者フィヨル・シュメルツァーだと押し付けてしまえばいいんです」


「ふむ……それだと我々が超級冒険者の怒りを買うことにならないか」


「はっきり言わなきゃいいんですよ。フィヨル・シュメルツァーに同行者を付け、不死神の王の廃迷宮に潜ったところ偶然壁に穴が開いて、その中に牢があったと、探索の後同行者に喋らせればいんです。民衆は勝手にフィヨル・シュメルツァーが牢を暴いたと騒ぎ立てるでしょう。現状、牢の調査は一部の学者に任せていますし、最初に牢を見つけた冒険者と学者には口止めを行っています。牢の中にいたという変異種の不死ノ神が喋らない限り、真相が漏れることはありません……不死ノ神が人の言葉を話すなど聞いたことはありませんがね」


 ラッセ伯爵の提案を、誰もが絶賛した。

 不死神の王の廃迷宮に隠し部屋があったことは伏せられており、それをどう処理するか悩みの種にもなっていた。

 国が抱える問題のひとつが解決するのだ。

 ブラックデモンエイプとの魔物戦争にも集中出来るようになるだろう、それはグレンデル王国にとって喜ばしいことだ。


 数日後――超級冒険者フィヨル・シュメルツァーに、グレンデル王国での自由行動及び魔物の討伐を許可する代わりに、不死神の王の廃迷宮の探索依頼が出された。

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