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17-2 魚料理が人気の食堂 2

 レインボートラウトの切り身を焼いたものを解し、炊き立てのご飯の上に乗せる。それにだし汁をかければ締めの茶漬の出来上がりだ。

 レインボートラウトの茶漬けが出るタイミングに合わせるように、クアリスは戻ってきた。

 クアリスの隣には、この大陸特有の赤銅色の肌をした整った顔立ちの青年が立っている。

 恐らく彼がクアリスがボクに会わせたいと話していた、エバンスなんちゃらさんなんだろう。

 顔を見た今も、会ったことがあるのか記憶は曖昧ではあるが、その引き締まった体と太い二の腕、宿す雰囲気から、彼が冒険者のような戦闘に従事する人間であることが想像できる。

 過去に会っているならば、グレンデル王国の魔獣の森にあるヨルトレインの町あたりだろう。

 エバンスなんちゃらさんは、店の入り口を潜るなり、足早にボクの前に進むと、床に片膝を付け深々と頭を下げた。


「フィヨル様お久しぶりでございます。あの時は本当に申し訳ありませんでした」


 急に謝罪の言葉を口にした。

 下げた頭は、延々と上げる気配がない。

 許しを乞われる理由が分からないのだが……狼狽えるボクを見かねて、クアリスが助け舟を出した。


「エバンス・アレグリアくんは、ヨルトレインの町でフィヨルくんに迷惑をかけてしまったことを、ずっと謝りたかったそうなんだ」


 残念ながらクアリスの口から語られたのは、答えではなくヒントだった。

 ヨルトレインの冒険者だというのは、既に予想出来ていたので、ヒントにすらならないのだが……ボクが思い出すまで、このエバンスという男は頭を下げ続ける気なんだろうか、本当にメンドクサイ。

 イライラが最高潮に達する前に、神樹の翁がエバンスの正体に思い当たる。


「思い出したぞ、こ奴は小僧の正体を疑い背中からナイフを突き刺した男じゃ」


 レインボートラウトの茶漬けを、米粒ひとつなくペロリと平らげた神樹の翁が、声を上げる。

 思い出した。

 この男は、ボクが人間ではないと見破った若い冒険者だ。

 神樹の翁と神竜の王が、牢の中でこの冒険者のことを高く評価していたことも思い出す。


「あなたとは初めて会ったと思うんですが、どうして俺のことを知っているんですか」


 エバンスは、姿勢は変えずに言った。

 ヨルトレインにいた頃、神樹の翁の魂は、まだ体は持っておらずボクの中にいた。エバンスとは面識がないのだ。


「あれじゃあれ、小僧から色々と聞かされておったんじゃ、お主の特徴と小僧が以前話していた冒険者の特徴が重なったのじゃよ」


 咳払いしながら、動揺した面持ちで神樹の翁は嘘を並べ立てる。

 エバンスは、それに対して追及はしなかった。

 正体が分かったのにも関わらず、彼は顔を上げようとしない。


「エバンスさん、あの時のことなら気にしてませんので、顔を上げてもらえませんか」


 ようやくエバンスは顔を上げたが、依然床からは立ち上がろうとしない。


「あの……落ち着かないので床ではなく椅子に座ってください」


 強めの命令口調で言う。

 ようやくエバンスは、床から立ち上がると隣のテーブルの空いている席に腰かけた。

 相変わらず、目は合わせずに視線は下を向いたままだ。


「それでボクに何の話があるんですか?言葉を交わすだけでいいなら、目的は達成したと思うんですが」


「フィヨル様に頼みたいことがあるんです。どうか仲間の仇を討つために力を貸していただけないでしょうか。もし、協力していただけるのなら、あなたに俺の全てを捧げます」


 ・・・・・・


「……ボク、男に興味はありませんよ」


 背が低く、女性的な顔立ちのせいで、いままでも何度かそういう趣味の男から、言い寄られたり、金を渡されそうになったことがあった。

 こんな見た目はしているが、ボクは男だ。

 正確には不死ノ神を合成したあの日、性別なんてものも捨てているのだが、体と心は男のままである。

 全てを捧げるとか同性に言われるのは、正直気持ちが悪い。


「そういう意味ではありません!」


 エバンスは顔を赤く染めながら大声を出した。

 そのまま、動揺しながらも隣にいるクアリスを見る。


「僕がいると話しにくいことがあるみたいだね。席を外すとするよ、話せることだけでいいので後で報告はヨロシク」


 クアリスは、そう言うと店の外へと出て行った。

 ようやくエバンスが口を開く。


「フィヨル様あなたは怪物です。敵討ちに力を貸していただけるのなら、目玉を抉るも、心臓を取り出すも、この体を好きに使ってください」


 なんだろう……人喰いの化け物だと思われているんだろうか?


「怪物という表現は的を射ていますけど、ボクは人喰いの化け物ではありませんよ。ちなみに敵討ちの相手は誰なんですか」


「猿の魔物です。フィヨル様がいなくなってから暫くして、黒い猿の魔物がヨルトレインの町を襲ったんです。仲間も親友もみな猿の魔物に喰われて死んでしまいました。ヨルトレインの町は滅びたんです。現在グレンデル王国は、その猿の魔物『ブラックデモンエイプ』と戦争状態にあります。フィヨル様には、その猿の魔物を滅ぼすために是非力を貸してほしいんです」


「……分かりました。ボクらがその魔物を滅ぼすことが出来るかどうかは分かりませんが、協力はします。ボクもヨルトレインには用があるもので、ただ、国に協力する気はありません。報酬は……そうですね。寿命でも事故でも戦死でも死に方はなんでもいいので、あなたが死を迎える際に、その魂をボクにください」


 なんだろう、遥か昔に読んだ絵本に登場する悪魔の台詞そのままになってしまった。


 仮の肉体は幾らでも創り出すことが出来る。

 器はあっても、魂が足りないのだ。

 ボクは彼の魂と引き換えに、力を貸すと約束した。

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