17 魚料理が人気の食堂
後日談――。
ボクとしては、交易国家レムノスと最悪対立しても構わないと心を決めて動いたのだが、そうはならなかった。
あれだけ暴れたにも関わらず、五大貴族でもありレーベン領領主でもあるサロモン・レーベンは、元八司教ガリウス・ベルジェを通じてボクに対して公式な謝罪文まで送ってきたのだ。
レーベングライの町長ケネス・オルメオア伯爵は、権限を私物化し圧政を行っていたと、ボクらは名目上圧政からの解放者として、自領の貴族が迷惑をかけたことへの謝罪と、圧政を行っていた貴族を排除したことへの感謝が綴られた手紙を受け取ることとなった。
ガリウスの話では、ボクらの戦いを異能で覗いていた見物客はかなりいたらしい、その多くが異能の特徴から、ダッカス王国の内乱に乱入し、多くの兵士を殺害した犯人とボクとを重ねたみたいだ。
今回の謝罪も、これ以上ボクと争うのは得策ではないと、交易国家レムノスが判断したからだろうとガリウスは言う。
結局、ガリウスの足取りを追って交易国家レムノスまで出向いたはずが、ガリウスの事は有耶無耶となり、何故かガリウスとの協力関係まで結んでしまった。
協力関係についてはあくまで口約束だし、きちんとしたものではないのだが、今後ガリウスは、定期的にボクに役立ちそうな情報を無償で届けてくれるという、人手が足りない時には頼ってほしいと、彼は最期までボクの前でその笑顔を崩さなかった。
彼の息子は、クアリスの巧妙な罠で命を落としたようなものだ。
もちろん欲をかいたのが原因だが、クアリスと繋がりを持つボクのことは、よくは思ってはいないだろう。
それでもガリウスは、最後まで自身の利益を優先させて、ボクに対して友好的な姿勢を貫いた。
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神聖国家エラトニアに帰国してから数日後――。
ボクと神樹の翁と神竜の王とヨジとオンドレイの五人で、元聖地管理委員会副委員長で悪友とも呼べるクアリス・レイバと一緒に、神聖国家エラトニアの首都エラトニアにある魚料理に定評がある食堂で、同じテーブルを囲んでいた。
テーブルの上に並ぶ様々な魚料理。
ボクらの食事代については、相変わらず神聖国家エラトニア持ちである。
「そうか、結局ガリウスとも仲良しになっちゃったか、つまんないなー」
「仲が良いのとは違うよ、ちょっとした協力関係を結んだだけさ。クアリスとガリウスは仲悪そうだもんね」
「当然さ、ああいう金と権力のためなら手を汚すことも厭わない強欲ジジイは、だいっ嫌いだよ。何よりあの顔が生理的にダメなんだ。まーフィヨルくんの判断だし、ボクがとやかく言う権利はないけどね」
クアリスは、ボクがガリウス・ベルジェと敵対しなかったことにいたく不満そうである。
彼が籍を置く神聖国家エラトニアからすれば、ガリウス・ベルジェは罪人だ。
地位を利用した違法薬物の製造と販売、許されることじゃないよね。
でもボクが知りたかったのは、彼が罪人かどうかではなく、ドゥダ家の敷地に入るために魔法の鍵が他にあるのかと、暗殺者をこれ以上送られないようにクギを打っておきたかったのだ。
今後ちょっかいを出さないでくれるならそれでいい。
サロモン・レーベンから送られた謝罪の手紙を読むかぎり、交易国家レムノスがボクらにすすんで敵対する可能性は低いだろう。
ボクが殺した貴族の血縁者が、暗殺者を雇うことはあるかもしれないが、襲撃が数回で終わるならそれでいい。あまりにもしつこいようなら今回みたいに直接潰しに行けばいいだけだ。
クアリスが集めた情報でも、ダッカス王国の内乱で暴れた冒険者とボクを同一視する動きは多いようで、今後厄介になるのは、交易国家レムノスからの依頼で動く暗殺者ではなく、ダッカス王国側から依頼を受けて動く暗殺者だという……ボクが暗殺者の口を割らせる異能を持っているという噂もあり、嘘の依頼主の名を使ったり、依頼主から暗殺者までの間に、替え玉を置くことも推測されることから、依頼主を突き止めるのが厄介になるだろうということだ。
「まーあれだ、この国なら神様の加護もあるから暗殺者については気にしなくてもいいじゃないかな。もちろん、今回のように他国に行く際はいままで以上に注意が必要だよ」
何かを企んでいそうな笑顔だな……クアリスは、とても楽しそうだ。
女王蛇との約束もあるから、この国に引き籠るわけにもいかない。
暗殺者か……移動には大猪のサーモが牽いた馬車を使う予定だから、目立つこと間違いなし、すぐに暗殺者にも居場所がバレてしまいそうだ。
そうはいっても、まずは冒険者たちと交わした、ヨルトレインに近付かないという約束をどうにかしなきゃいけないんだけど。
「そうだフィヨルくん、キミに会わせたい人がいるんだよ。以前『フィヨル・ランカスター』という人物を神の如く信仰する旅人がいるって話したのを覚えているかい?」
「言われたような……そんな話を聞いたような記憶はあるな。で?何を言いたいんだ」
「キミに『エバンス・アレグリア』くんに会ってもらいたいんだよ。もし会ってくれるなら、僕が市場で手に入れた特別なレインボートラウトをこの後調理してもらおうと思うんだ」
「なに!レインボートラウトだと、坊主、エバンスなんちゃらに会ってやれ」
夢中で魚の煮付けを食べていたはずの神竜の王が、フォークを置き顔を上げる。
レインボートラウトって魚自体、初めて聞く名前だし、一度も食べたことがないはずなんだけど……聞いたことのない魚だから、尚更食べてみたいという食いしん坊ならではの感情だろう。
「形の良い脂の乗った大きなレインボートラウトが手に入ったんだ。ダリューンさんも食べてみたいよね」
「ああ、勿論だ!」
「だ、そうですよフィヨルくん」
「分かったよ、エバンス・アレグリアとかいう人物に会えばいいんだろう」
フィヨル・ランカスターの名前を知っているということは、まったく記憶にないが、グレンデル王国で会っている人物なのだろう。
「よし!交渉成立。すぐに呼んでくるね」
ボクの返事を待たずに、クアリスは店主に大きなレインボートラウトが入った木箱を渡すと、店の外へと駆け出して行った。




