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16-3 歪みと閉幕 3

残酷な描写があります。苦手な方はご注意ください。

 日が真上に差掛る昼日中。

 ボクら四人は、兵士宿舎へ向かい歩きはじめた。

 兵士宿舎に近付くに連れて避難勧告でも出ているのか、通りを行き交う人の数も減少する。


 宿舎全体が見渡せる通り、遠くに見える宿舎の二階や三階の窓には、弓を持つ兵士の姿があった。

 出来る限り町への被害を抑えるためか、兵士たちは宿舎を背に防衛戦をすることを決めたようだ。

 宿舎の外には、槍を持ち、甲冑に身を包んだ兵士たちが列を作る。

 中でも、大人の背丈に近い縦に長い盾(タワーシールド)を持つ兵士の一団が目を惹く。

 盗賊ギルド壊滅の一報が届いたことで、ボクらへの評価が上昇したのか、兵士たちの装備は、攻城戦の防衛任務さながら本気度の高いものに思われた。


 向こうもボクらの存在に気が付いたんだろう。

 兵士たちは開戦を前に隊列を組みなおす。


 神竜の王は、隠せない笑みと共に、獅子を彷彿させる四方に広がる真っ赤な癖毛を靡かせる。

 体には全身甲冑(スーツアーマー)を着け、自身の背丈にも負けない巨大な両手剣を、利き腕一本で感触を確かめるように軽々と何度も振るう。

 戦いが待ちきれないのだろう、その瞳には肉食獣の如き熱が宿る。


 荒々しさのある神竜の王とは正反対に、神樹の翁の見た目は洗練されている。

 背の高い育ちの良さが滲み出る老人。執事服に薙刀という異様な格好ながら、伸ばされた背筋は凛としている。

 白髪の混じりの黒髪と整えられた髭も、執事服には良く映える。


 今回の戦いで不安なのが、初参戦となるオンドレイだ。

 不死神の王が入る牢の防人として、長年牢の前に座り、ひたすら本ばかりを読む人生。

 腕は細く筋肉も無い。設定した肉体年齢は二十八歳なのだが、その風貌は五~六歳それよりも老けて見える。

 黒色のローブと、同色の杖先を槍のように尖らせた杖のせいで、魔法使い感も増し増しだ。

 近接戦が不得手な印象もあるし、四人の中では一番に狙われそうである。

 『上級棒術』の異能の後付けによって、並みの冒険者やそこらにいる魔物であれば渡り合う技量もあるが、相手が士官クラスとなれば、苦戦は必至だろう。


 ボクも今回は兜などは着けずに素顔を晒している。

 この大陸では珍しい、青色が微かに混じる銀髪と黒銀の虹彩。

 冒険者証を使い宣言したことで、既に名は多くの貴族の知るところとなった。

 こうなったら、とことん力を見せる。

 超級冒険者フィヨル・シュメルツァーの名を抑止力とするために……、貴族とて、剣を交える度に千人規模の兵を失うような相手とは、今後、事を構えようとは思わないだろう。

 兵士の数が減れば、それだけ国力も落ちる。他国からの侵略を受ける可能性も高くなる。

 そんなことは誰も望まないはずだ。


 ボクが今後の目算を頭の中で繰り返し思いに耽る中、神樹の翁と神竜の王の二人は、既に前に踏み出していた。

 降り注ぐ矢を打ち払いながら、兵士に向かい突き進んでいく。

 今回は予め、敵への手加減は不要、立ち塞がる者は何者であろうと、容赦なく斬り捨てていいとも伝えてある。

 小細工のいらない戦いは、二人にとっても得意分野なのだろう。

 二人は、そのまま兵士の中に突っ込むと、嬉々としてそれを食い破っていく。

 ボクはオンドレイをフォローしつつ、二人の刃をすり抜けた兵士の処理に集中した。


 途中、奇襲を狙ったのか背後に隠れていた十人余りの兵士が姿を見せたが、『殺気操作』を使い動きを封じ、オンドレイと一緒に首を刎ねた。

 死体は、その場で異能で取り込み灰へと変える。


 『遠視』(クレアボヤンス)の異能を持つ間者に見られている可能性はあるが、多少見られたからといって、ボクの異能の正体を視ることは不可能だろう。

 死体はすべてボクの中にある真っ白な本に『合成』した。


 死体は灰となり、持ち物だけがその場に残る。

 地面に散らばる兵士たちの遺品を拾い、唇で触れ『竜の胃袋』へと放り込む。


 少しの間ぼんやりとする。

 恐らくボクが『知識の書』に目を通し、心ここにあらずといった様子だったからだろう。

 オンドレイが声をかける。


「フィヨル様何かお探しでしょうか、兵士の相手は、神樹の翁様と神竜の王様のお二方で十分そうですし、よろしければ私も『知識の書』の確認を手伝いましょうか?」


 既に宿舎の外にいる兵士は片づきつつあった。

 残すは、宿舎の中に立て籠もる兵士のみ。


「凄いよね。どんどん死体が積み上がっていくんだから」


 ボクの手間を省くためなのか、二人は殺した兵士が山になるように一か所に投げ捨てている。


「オンドレイの言葉に甘えようかな、探してほしいのは『速読』の異能と、ケネス・オルメオア以外の貴族の命令で動いている兵士の記憶だよ。貴族たちがどんな異能を持っているのか、この機会に調べておきたいんだ。だからといって、何の罪も無い貴族を殺すわけにもいかないからね、殺すための理由を見つけないと」


「分かりました。今回処分するのは、あくまでフィヨル様に明確に敵対する貴族のみ、その証拠を兵士の記憶から探せばいいんですね」


「うん。無差別に殺しちゃったら、二千年前と変わらないしね。早く死体を片付けないと、死体の山がどんどん大きくなっちゃう」


「お手伝いします」


 二人に戦いを任せ、ボクとオンドレイは死体の処理に集中した。


     ✿


 フィヨルの予測通り、貴族子飼いの『遠視』(クレアボヤンス)の異能持ちたちが、この戦場を監視していた。

 それぞれが、それぞれの主に、通信用魔道具を使い報告を入れる。

 その中には、五大貴族の一人、レーベン領領主サロモン・レーベンが送り込んだ間者もいた。


「サロモン様、超級冒険者フィヨル・シュメルツァーが戦闘を開始しました」


「ついにはじまったか……で、お前の瞳に英雄はどう映る」


「とてつもない化け物に見えます。ただ……何かの異能が邪魔をしているのか、英雄の同行者であるアンドリュー・シュメルツァー、ダリューン・シュメルツァー、オンドレイ・ドゥダの三名は、私の瞳をもってしても視て測ることは出来ませんでした」


「お前の瞳で視ることが出来ない人間……妙だな、本当にそれは人間か」


「姿形を見る限り人間にしか見えません。私の異能も万能ではありませんから、他の異能の妨害を受けているのかと、それとフィヨル・シュメルツァーなんですが、死んだ人間の死体を消す不思議な異能を使うようです」


「死体を消す異能……まさかな……本当に消えているのか?例えばだが、死体は灰になっていないか」


「灰ですか、そうですね白い塵のようなものに変わっているようです……灰と言われれば、灰にも見えるかもしれません」


「死体を一瞬で灰に変える異能……もしや、ダッカス王国に現れた神話級なのか……お前を失うわけにはいかない。調査を切り上げて大至急レーベングライから離れるんだ。今すぐ逃げろ」


 通信用魔道具越しに、サロモン・レーベンは叫んでいた。

 間者との通信を終えたサロモン・レーベンは、別の通信用魔道具を使い、急いでレーベングライに援軍を送ることを決めた貴族たちに、派兵を中止するよう連絡を入れた。

 無論、自身がレーベングライに向けて進めていた兵士にも、撤退の指示を出した。

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