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16-2 歪みと閉幕 2

残酷な描写が多めです。苦手な方はご注意ください。

 ケネス・オルメオア伯爵邸――。

 親子は再び向き合っていた。

 時刻は半夜、大半の人が寝静まる時間。

 交易国家レムノスとその周辺国の権力者の多くが、不意打ちとも呼べる通信用魔道具から流れる緊急通信の、フィヨルの声で叩き起こされた。

 ケネスもその一人だった。


 フィヨルの口から語られる暗殺者の襲撃と、襲撃者の末路。

 フィヨルの反撃は、襲撃者だけに止まらず、レーベングライの町にある盗賊ギルドの拠点全てに及んだ。

 貴族すら掴めていなかった、盗賊ギルドの拠点すべてがたった数時間で陥落したのだ。

 盗賊ギルドの上客には、貴族も多く、これにより不履行となる依頼も多い。

 それだけに衝撃は大きかった。


 ナゼ?数人の冒険者が盗賊ギルドの拠点を探し当て、壊滅させることが出来たのか、と……。


 貴族の中にはメンツを潰されたと思う者もいるだろう。

 しかも、フィヨルの口から語られた暗殺者の依頼主が、ケネスが雇う使用人の一人である、息子タイロンの教育係だったから尚更である。

 使用人の給金では、暗殺者を雇えるはずもなく、自ずと今回の騒動が自分の息子であるタイロンの仕業だということにケネスはすぐに気づき、気持ちよく眠る息子を叩き起こし呼びつけた。


「タイロン……私は、お前に部屋で大人しくするように言ったはずだ」


「お父様、誤解です。俺が命じたわけではありません。暗殺者は、俺を気の毒に思った爺が勝手に手を回したのです」


「使用人の給金で暗殺者が雇えるはずがなかろう……はー……もうよい」


 ケネスが、机の上に置かれた呼び鈴を鳴らすと、体格の良いケネスの護衛が部屋へと入って来る。


「旦那様お呼びでしょうか」


「息子を……タイロンを部屋に連れていけ、そして、外出しないようにお前たちが見張るんだ。お前は事が終わるまで部屋で大人していなさい。この件は私が片付ける」


「しかしお父様……」


「いいな……」


「わかりました……」


 納得がいかない表情のまま、タイロンは渋々護衛と共に部屋を出た。

 自室に戻ったタイロンは、護衛を部屋の外へと追い出し、教育係でもある爺を呼び出し、ウサ晴らしでもするように暴力を振るう。


「爺……お前、暗殺者に渡す金の一部をくすねたな」


「そんなことはしておりません」


「それならどうして、暗殺者がお前の名前を吐いたんだ。あいつらは死んでも依頼主の名前を漏らしたりしない。あるとすれば、依頼料をケチったことに対する嫌がらせだろう」


「依頼には正規の金額を提示しました。前金もはずんでおります」


 年老いた使用人は、床に頭を擦りつけながら唸るように言葉を吐き出した。


「あーわかったわかった、今回はそういうことにしてやろう。それにしても数人の冒険者に組織ごと潰されるなんて、盗賊ギルドも大したことないな。最初から冒険者に依頼するべきだったか、爺……今度は冒険者にあのフィヨルとかいうガキを殺すように依頼を出すんだ」


「ムリです……旦那様から坊ちゃんが使うための金も止められております」


 タイロンは不機嫌に、近くにあった椅子を蹴り飛ばす。


「ちくしょう……あのガキが、高貴な俺様に逆らいやがって」


 ブツブツ喚きながら、本棚の本を引き出しては床へと落としていく。

 そして、本棚の奥から小さな袋をひとつ取り出すと、爺と呼ぶ使用人の足元へと投げ捨てた。


「それを使え」


「坊ちゃん……この額では冒険者は雇えません」


「誰が冒険者を雇えなんて言った。平民を雇うんだよ、あいつらは前金で銅貨数枚渡してやれば喜んで協力してくれるさ」


「平民が武器を持ったところで相手は超級冒険者、冒険者の中でも上位の実力者です」


「武器は持たせなくていい、肉壁にするんだよ。フィヨルとかいうガキは、商人を助けるために貴族に楯突くことすら厭わないお人好しだぞ、そんな奴の前で平民共を盾にしたらどうなると思う。武器を捨てて平民を解放してくださいと俺様に泣きついてくるはずだ。爺はその金で俺のために肉壁になる平民をかき集めて来るんだ」


「しかし……坊ちゃん、そんなことをすれば旦那様がなんと言うか……」


「お父様は褒めてくれるさ。高貴な俺のために死ねるんだ平民共も本望だろう。ん……なんだ、その顔は、俺は知っているんだぞ、お前が俺にこんな扱いを受けてもここに残る理由を、お父様の側にいれば領民の情報が幾らでも手に入るからな、例えば若い娘を持つ金に困った平民の情報なんかもな、爺は何歳になっても元気だな、お父様にこのことを報告してもいいんだぞ」


「かしこまりました……坊ちゃんが望む数の平民を準備致します」


「ああ、上手くやってくれ。それと、くれぐれもこのことは内密にだ。サプライズがあった方がお父様もお喜びになるからな」


 教育係の老人は、金の入った袋を受け取るとタイロンに一礼して部屋を出ていった。


     ✿


「小僧どうしたのじゃ、今日は随分機嫌がいいのう」


 レーベングライにある兵士宿舎へと続く大通りを進む。

 神樹の翁の指摘通り、ボクは鼻唄を口ずさむほど機嫌が良かった。

 ご機嫌な理由は、昨晩、ボクを殺すために送られた暗殺者の記憶を辿り、この町にある暗殺者が所属する盗賊ギルド本部及び関連施設を片っ端から潰して回ったのだが、暗殺者や盗賊、町のチンピラたちは、兵士とは毛色の違う異能を宿した者が多く、新しい異能が記された『知識の書』を幾つか手に入れることが出来たからだ。

 もちろん、殺した人間の三分の一は、偽りの肉体を創るための『仮初めの生命の種』の品種として登録した。

 こちらも、実りあるものになるだろう。

 この肉体に適合する魂を見つけたなら、ボクらに足りない斥候系の異能を持った能力者を仲間に加えることが出来るかもしれない。

 魂を入れてみなきゃ……欲しい異能の有無はナゾなんだけどね。

 そりゃ鼻唄も交じる。


 ダメ貴族から喧嘩を買うのって、お得過ぎなんじゃないのか……少し怒らせただけで、兵士やら暗殺者やらが芋づる式に釣れて、新しい異能が手に入るのだ。

 しかも、犯罪者としてではなく、超級冒険者の地位のお陰で、正々堂々宣戦布告をして真正面から潰すことが出来る。

 これほど愉快なことはない。

 ボクは口元がだらしなく歪みそうになるのを必死に堪えた。


 相手は、力のない市井の人々を見下し暴力を振るうバカ貴族だ。

 オンドレイも正義はこちらにあると言ってくれたし、害虫も一度に駆除できる。

 一石二鳥?三、四鳥かもしれない。

 なんて素晴らしい日なんだろう。


 ボクらは気分よく道を進んだ。

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