15 貴族の動き
※フィヨルとは別視点のお話です。
超級冒険者といえば響きはいいが、それは強者の首に嵌められた首輪のようなものだ。
超級冒険者と名乗れば、どの国に行っても歓迎されるだろう、同時に居場所をはじめとした情報は、国や有力者たちに共有され、たちどころに知られることとなる。
超級以上の冒険者に渡される冒険者証にも、特別な能力が備わっている。
通信用魔道具に似た仕組みなのだが、それを使うことで一度に多くの人に声を届けることができる。
魔道具から発せられる声が届く範囲は広く、届ける相手を選べないことから使い道も限られ、魔道具に魔力を流した瞬間、先に登録者の名前が読み上げられてしまう匿名性の無さから、この魔道具を使う物好きは稀だった。
そんな使い道のない魔道具を活かす提案がされる。〝超級冒険者のような危険な者には、行動を起こす際、この魔道具を使い宣言することを規則としよう〟と。
多くが、その魔道具の発する甲高い声を聞くのは久しぶりだった。
初めての者や、そんな物があったことすら、忘れている者も多かった。
それだけ、超級冒険者が不在の期間が長かったのだ。
その声は、急遽多くの通信用魔道具に割り込んで発せられた。
『超級冒険者フィヨル・シュメルツァー様より声明が発せられます』
王城の玉座の間や、神殿にある最高司祭の自室、伯爵以上の貴族の屋敷、ギルド長室云々、意志を持つ魔道具の王が選んだ、国の上位者たちに向けて、据え置き型通信用魔道具より声が響く。
交易国家レムノスから距離的に近しい国に向けて、その声明は送られた。
誰もが手を止め、その声に耳を傾ける。
「あーあー、これでいいのかな、えー……超級冒険者フィヨル・シュメルツァーは宣言します。交易国家レムノスにあるレーベン領レーベングライにて、町長ケネス・オルメオア伯爵の息子タイロン・オルメオア及び、兵士長のフロリアン・グリッシュによって、ボクは謂われなき罪をなすりつけられました。それで文句を言ったらケネス・オルメオアへの不敬罪になるとか、牢に入れと言われる始末。ボクは、レーベングライ町長ケネス・オルメオアとその息子タイロン・オルメオア、並びにこの町にいる全兵士に宣戦布告します。決行は明日の日の出、宣戦布告対象に加勢するのも自由です。ただ、その場合関わった方全てを、新たな宣戦布告対象とします。以上フィヨルでした」
既に神聖国家エラトニアより、フィヨル・シュメルツァーを超級冒険者として公認した旨の声明は出されていた。
宣言を聞き、興味がないと聞き流した者、慌てた者、大笑いした者(クアリス等)、血相を変えて動き出す者、十人十色様々な動きがそこにはあった。
特に大きな動揺をみせる者もいた。
レーベン領領主サロモン・レーベン侯爵も、大きく動揺した者の一人だった。
サロモン・レーベンは、ドゥダ家の森に入るための鍵を手にした人物と、超級冒険者フィヨル・シュメルツァーが同一人物であることを掴んでいた。
だからといって、フィヨルがレムノスに既に入国しているのは寝耳に水である。
しかも、レーベングライの町長を任せているケネス・オルメオア伯爵に宣戦布告とは……一体何が起きているのだ。と、宣言を聞き混乱する。
もちろん自分の領地で起きている問題だ。
出来るだけ早く手を打たなければならない。
……だが、どの程度の支援が、加勢と受け取られてしまうのか想像がつかない。
それに、超級とはいえ、たかが数人の冒険者相手にそこまで警戒する必要があるのかという疑問もある。
すぐに通信用魔道具を使いケネス・オルメオアに連絡を入れるも、欲しい情報は手に入らなかった。
……近隣の町からもレーベングライへの支援をどうすべきか問い合わせが多数届いており、その返答も急がねばならない。
本来であれば、至急周囲の町や村に駐留する兵士を送るべきなのだが……問題は、宣戦布告の対象範囲だ。
相手の力が分からないこともあり動きにくい。
迷った末、レーベングライに近い町や村の責任者たちには、冒険者や傭兵を雇いレーベングライに向かわせるよう指示を出した。
高めに設定した依頼料で、どの程度の人数を動かせるか。
レーベングライに常駐する兵士の数は、ざっと二百人。
戦火と無縁の町にしては、多く兵士が配置されている方だろう。
超級冒険者が、どの程度の化け物なのかは分からないが、それだけの兵がいれば様子を見る時間くらいは作れるはずだ。
冒険者といっても、人間を殺すのは躊躇する……まずは、怪我を負った兵士を治療するために現地に送る、薬師や回復系統の異能所持者を集めるのが先決だと、サロモン・レーベンは判断した。
✿
ケネス・オルメオア伯爵邸――。
親子は向き合っていた。
「お前が数日前に私に話してくれた銀髪の商人が、超級冒険者フィヨル・シュメルツァーだったというわけだな。面倒なことになったものだ。次からは、きちんと相手の素性を調べてから動くようにしなさい。今回は、私に恩を売りたい、多くの貴族たちから護衛や私兵を送る申し出を受けている……事態はすぐに収拾するはずだ。だがなタイロン、相手がもし他国の王族や貴族であったなら、この程度では収まらなかったはずだ。お前は私の息子として、もっと広い視野を持つ必要がある。当分は外出禁止とする、部屋で大人しく反省するんだ」
「すみませんでした……お父様」
タイロンは自分の部屋へと戻った。
「くそ……くそ……くそ、あいつのせいだ。あいつのせいでお父様に怒られたじゃないか、あの生意気な銀髪め。死んだら死体は細かく切り刻んで獣の餌にしてやる。頭は門の前に晒してやるんだ。くそ……くそ……くそ」
タイロンは、自分の部屋にある花瓶や本に八つ当たりし、大声で叫ぶ。
「爺だ、爺を呼べ」
壊れた花瓶や散らばった本を片付けに、部屋に来ていた使用人たちに怒鳴った。
少しして、白髪の翁が部屋へとやって来る。
「どうされましたか、坊ちゃん」
その老人は、タイロンの教育係だった。唯一タイロンに逆らわず、何でも言う事を聞いたこの老人だけが、教育係として残っていた。
「爺、フィヨル・シュメルツァーを殺すための暗殺者を雇うんだ」
「しかし、坊ちゃん、この件は旦那様が対応されると……坊ちゃんは大人しくされていた方がいいのではないでしょうか」
「指図するのか?爺……お前は使用人だ。俺の言う事だけを聞いていればいいんだ。分かったな」
「かしこまりました……坊ちゃん……」
爺と呼ばれた白髪の翁は、タイロンの部屋をそそくさと出て行った。




