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14-3 品定めと幕間 3

 国より公認を受けた超級以上の冒険者には、認定国と冒険者組合合同で、超級冒険者を証明する特別な冒険者証が渡される。


 ボクが受け取ったのは、ブラックミスリルと呼ばれる希少金属の板に、銀色をした通常のミスリルを薄く重ねて作られた、キレイな十字架の絵が描かれた冒険者証だった。

 冒険者証に描かれた白銀の十字架は、この大陸では珍しいとされるボクの銀の髪色をイメージしてのものなんだそうだ。

 余談になるが、神樹の翁と神竜の王は、超級冒険者の公認は受けておらず、ボクだけがこの冒険者証を貰ったことに、ほんの少しだけ不服そうな、どこか子供じみた表情をみせた。

 人の中で暮らすことで、二人の心情にも些細な変化が起きているのかもしれない。


 宿屋に戻ったボクは、ガリウス・ベルジェと話した内容を家族(なかま)にも伝えた。


「クアリスめ、愉快なモノを坊主に託したものだ。それがあれば堂々と国相手に喧嘩が出来るってことか」


「駄竜は本当に喧嘩が好きなんだね。でも、そういうものではないと思うよ、喧嘩を売ってくる相手に対して、堂々と宣戦布告できる道具(アイテム)……かな?相手から喧嘩を売られなければ戦争にはならないと思うんだ」


「なるほど、喧嘩がしたい時には傲慢な貴族を探せばいいんだな」


「それはそれで、どうかと思うよ」


 ボクも神竜の王も仲間たちも、ガリウスの説明だけでは、超級冒険者について理解出来ずにいた。

 宣戦布告できる権利を今回の事象に当て嵌めるなら、喧嘩を売ってきたのはタイロン・オルメオアで、彼がボクを貶めるためについた嘘を嘘と知りながら、それを肯定した兵士長フロリアン・グリッシュも同罪であり共犯者だ。

 タイロンを注意せず、好き勝手にさせている、父親のケネス・オルメオア伯爵も同罪だろう。


 明日、兵士宿舎に出向き。

 兵士長が変わらず、タイロンの嘘を知りながらも片棒を担ぐのであれば、宣戦布告だけその場で行い一度戻ればいい。

 そうなったなら、日を改めてレーベングライの町にいる全兵士は皆殺し、その後、ケネス・オルメオアに味方する貴族を随時排除すればいいだろう。


 もし、兵士長がタイロンの嘘を認め、ボクの無実を支持するのであれば、宣戦布告の対象はケネス伯爵家のみとなる。


「オンドレイ、こんな感じでどうかな」


「それでいいと思います。貴族の身分を使い市井の人々を弾圧するタイロン・オルメオア及びその父ケネス・オルメオアは、生きる価値のないゴミ以下の悪で確定です。しかし、兵士長は、上級貴族である彼らの命令に否応なく従っている可能性もありますので、その辺りは、明日フィヨル様ご自身が見極めてください」


 ボクの話を聞いたオンドレイは、正義と悪に線を引いた。


 ガリウスについては、〝この状況でも、我々を受け入れてくれる貴重な食事処を紹介してくださいました。善なる一面が見られます、彼の扱いについては暫し保留ということにしましょう〟だそうである。

 何だろう……オンドレイまでもが、食いしん坊感染病(ウイルス)に侵食されていないかと心配になる。


     ✿


 翌日――。予告通り、ボクは兵士宿舎を訪ね、受付で言われるがまま待合室で順番を待った。


 こちらから一方的に日程を決めたせいで混乱しているのか、段取りが悪く、長い時間待合室で待たされるハメになる。

 一向に呼ばれる気配がない……日を改めた方がいいんだろうか。

 そんなことをぼんやり考えていると、ようやく順番が来た。

 ボクの周りを、四人の兵士が包囲する。

 前回と違うのは、四人の兵士全員が険しい表情(かお)で、抜身の剣をボクに向けていることだ。

 周りも、ただ事ではないと感じたのか、待合室はざわめきはじめ。

 多くが、その場を離れようと動き出す。


「フィヨル・シュメルツァーだな、そのまま手を上に挙げてゆっくり立ち上がるんだ」


 名前を呼ばれたってことは、他の誰かとボクを間違えているわけではないんだろう。

 大人しく兵士の指示に従い、手を挙げて立ち上がる。


「我々の後に黙ってついて来るんだ。抵抗は考えるな、怪しいと思えば即座に斬る」


 何となく行き先が想像できるのは、経験の賜物か、今日はあくまで、兵士長フロリアン・グリッシュの真意を確認するためだけに来たのだが……。

 何よりも、ここでボク一人が暴れてしまっては、みんなが〝出番がない〟と、不機嫌になってしまいそうだ。


 兵士たちは、下りの階段へと進む。


 案内されたのは、二千年ぶりに迷宮の牢獄から解き放たれた後、事あるごとに連行された馴染みの景色、牢屋である。


「ここに、入れ」


「嫌です」


「黙って入れ!」


「うるさいなー」


 『殺気操作』の異能で四人を殺気で包み、動きを封じる。

 殺気による『金縛り』だ。一人を残し口も塞ぐ。


「な……なにをした……体が……体が動かんぞ」


「動きを止めただけですよ。自分より弱い相手にだけ使える異能なんです。首を刎ねるのも自由なんですよ」


 兵士の剣を奪い、大きく振りかぶり喉元ギリギリで止めた。

 風圧が兵士の髪を大きく揺らした。速度の乗った剣をピタリと止めるのは、それなりの力と技が必要なのだが、兵士には、それも上手く伝わらなかったようだ。

 剣を向けられた兵士は、ただ震えながら顔を青くし、下半身を濡らしただけだった。


「ええと、あなただけは臭いので解放します。すみませんが急いで兵士長を呼んできてください」


「貴様、こんなことをして許されると思っているのか」


 涙目になりながら兵士は叫ぶ。


「何もしていないのに牢屋に入れられそうになったんですよ。普通は、抵抗くらいするでしょう。こいつらの首が繋がっているうちに早く呼んできてくださいね」


 それでも、動こうとしない兵士に今度は純粋に殺気だけを向けた。〝ねーあんた死にたいの……もしそうなら、あんたを殺して他の奴に頼むけど〟殺されるかもしれない。急に恐ろしくなったんだろう、足を縺れさせながら、何度も躓き、兵士は逃げるように牢屋を出て行った。


 それから半刻ほどか、重装備に身を包んだ数十名の兵士が地下牢へと降りてくる。


「フィヨル・シュメルツァー、抵抗を止めて大人しく三人を解放するんだ」


 兵士長フロリアン・グリッシュが前に出た。


「ボクは話をしにここに来ただけなんですが、ナゼ牢屋に入る必要があるんです」


「貴様はケネス・オルメオア伯爵を侮辱する行動をとった、不敬罪に決まっているだろう」


「あんた……本気で言っているのか」


「誰に口をきいている。たかが上級冒険者風情のガキが調子に乗るなよ、囲んで黙らせろ、最悪殺しても構わん」


 こいつらが腐ったのは貴族のせいなんだろうか……ボクは、首に吊るしていた超級冒険者証を手に取る。

 これは、単なる証ではない。

 超級以上の冒険者のみに与えられる、特別な能力を秘めた道具(アイテム)だ。

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