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14-2 品定めと幕間 2

 翌日――、ボクはガリウス・ベルジェの屋敷へと招かれた。

 ガリウスは平民であり、貴族街の道で馬車を使うことを許されていない。

 屋敷までの道のりを、モルヘ・ロチェルトの後を追うように歩いて向かった。

 途中、この町の町長であるケネス・オルメオア伯爵の屋敷の場所も教えてもらった。ある意味、今回の騒動の中心人物だ。知っておいて損はないだろう。


 神樹の翁や神竜の王……誰も連れずに一人で来た。もちろん、みんなの了解も得ている。

 神樹の翁は、目を細め〝二千年以上生きて、やっとひとり立ちかのう〟と揶揄う様に笑っていた。


 ガリウスが使う屋敷は、このレーベングライで最も大きなお屋敷だった。

 〝貴族よりも立派な屋敷で暮らすガリウス様を、貴族たちは気に入らないみたいで、嫌がらせも多いんですよ〟とモルヘは苦笑いする。

 屋敷の中にも多くの使用人がおり、そのほとんどが男性だ。

 男色家というわけでもなく、それだけ敵が多いのだろう。

 風貌から、その多くが元冒険者や兵士や傭兵、戦い慣れした者たちということが分かる。


 準備が出来たのか、書斎へと案内された。


 机にかじり付き、多くの書類に目を通す一人の老人。

 どこにでもいそうな平凡な見た目。髪も年相応の薄さで、特別なものは何一つ感じない。

 それでも、目の前にいるのは、違法薬物の栽培と売買で多くの人間の人生を破滅へと追いやった悪人だ。

 そういったことを一切感じさせない姿が、逆に不気味さを助長する。


「ガリウス様、フィヨル様をお連れしました」


 書類に集中しているのか、一切顔を上げない老人にモルヘが声をかける。

 やっと老人が顔を上げた。

 そこにいたのは、皺だらけの普通の老人だ。


「お互いこうして顔を合わせるのは初めてだな。はじめまして英雄殿、神聖国家エラトニアでは痛い目に遭わせてくれたものだ。で、この老いぼれに何を聞きに来たのかな」


 老人のまっすぐな目、痛い目に遭ったと言いながらも、悔しそうな……ボクを憎んでいる。そういった嫌な気配は微塵も感じない。


「はじめましてフィヨル・シュメルツァーと申します。この度はお忙しいところ、時間をいただきありがとうございます。今日お願いしたいのは、貴族からの逆恨みに対していい解決法はないものか、助言を求めてまいりました」


 ガリウスは喋らず、少しの間じっとボクの顔を見つめていた。

 彼も魔眼系統の異能所持者なんだろうか、暫し考え込むような素振りを見せ、やっと口を開く。


「幾つか質問させてもらいたいのだが……お前がその気になれば、この町の人間全てを殺し尽くすことは可能か」


「可能です」


「即答か……化け物め。助言だったな、いいだろう。その代わり幾つか頼みがある。話だけでも聞いてもらえないか」


「話だけなら、構いません」


「フン、可愛くないガキだ。まーいい、では話だけでも聞いてもらうとしよう。そうだな……私を殺すのを待ってくれないか、お前のことは色々と調べさせてもらったよ、私を追いかけてわざわざこの国まで来たんだろう。私は自分を聖人だとは思っていない。禁止薬物を作り各国にばら撒いて、多くの人の人生を捻じ曲げた。どちらかといえば……いや私は誰の目から見ても悪人だ。だがな、私を生かすメリットがお前にはある」


 殺される前提で話しているが、言われなくとも、この町で美味い食事にありつくためにも、差し当たってガリウスを殺す予定はないんだけどな。


「メリットですか……それはよく分かりませんが、あなたを今すぐどうこうするつもりはありません」


「そうか、私はすぐには殺さないないのか……」


 ガリウスは、ほっとしたのか笑みを浮かべた。


「そうそう、ここからは忠告だ。お前たちは力は持ってはいるが、色々と抜けておる。ドゥダ家の門の鍵がお前たちの手にあることも知っている。この世界では情報が大きな武器になる」


 うん、ガリウスが言っていることは正しい、情報は武器になる。

 ボクらは、搦め手を使うのも使われるのも得意ではない。この時代に視ることに優れた様々な異能があることも知っている。……だからといって何か対策をしているわけでもない。出来ないんだ。


 ドゥダ家の門の鍵と聞いて、この国に来た目的を不意に思い出した。


「あの……ボクからも質問をいいでしょうか、ドゥダ家の敷地に入るための魔法の鍵は何本あるんですか」


「二本だ。私の知る限り鍵は二本しかない」


 『真偽眼』の異能でもあれば、ガリウスの言葉の真偽も分かるんだろうが、すべては無い物ねだりである。いまはこの言葉を信じよう。


 この後、ボクは兵士宿舎で起こった出来事を、こと細かくガリウスに話して聞かせた。

 ガリウスも気になる時には話を止めて質問をし、お互いの疑問を埋めていく。


「なるほど、相手はケネス・オルメオアのとこのドラ息子か、甘やかされて育ったのだろうな、相手がオルメオア家なら簡単に解決出来る方法があるぞ、力で押さえつけることしか知らぬ貴族だからな」


「簡単な方法……ですか?」


「簡単だ。ただ身分を明かすだけでいい。お前はこの国に入る前にクアリスから超級冒険者の証を受け取ったはずだ。上級冒険者までは非公式の位階(ランク)だが、超級からは国の公認が必要になる。かといって、それは国が、その冒険者の尻拭いをするわけではない。超級冒険者とは、一人で国と事を構えられる存在、最危険人物扱いを受けた者に送られる称号なんだ。あいつは危険だから喧嘩を売るな、そう世界中に知らしめるための称号だ。クアリスの性格を考えるなら、その辺りの説明はしていないんだろうな。超級冒険者への不敬は、喧嘩を売る……少し違うか、戦争を仕掛けるようなものだ。超級冒険者フィヨル・シュメルツァーの名は、少しばかり情報に聡い者であれば、この国でも手に入るのだが……かいつまんで言えば、お前がいくら暴れようとも、他の町の貴族共は戦争に巻き込まれたくないから手を出せないってことだ」


「なるほど、超級冒険者ってそういう意味だったんですね」


「そうだ。クアリスからもヒントくらいは貰っていただろう」


「はい、暴れても良いけどレムノスは滅ぼさないでほしいと釘を刺されていました」


「あやつらしいな、お前は世界的にも化け物認定されてしまったわけだ」


 なぜか楽しそうに笑うガリウス。

 ガリウスはこれが私からお前に渡せるメリットだといい。ボクへの定期的な情報提供を半ば強引に約束した。

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