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13-3 思惑と幕開け 3

 貴族の根回しによって、宿屋を追い出されてしまったボクらは、モルヘ・ロチェルトが持たせてくれた紹介状を頼りに、別の宿屋へと移った。

 こうなってしまうと、元八司教ガリウス・ベルジェがボクを殺そうしない限りは、こちらから動くのが難しくなってしまった。


 圧力がかかったのは、宿屋だけではなかったからだ。


「貴族とかいうゴミムシどもめ、たかが人間の分際でふざけおって」


 神竜の王は、朝からご立腹である。


「小僧よ、この町は滅ぼしてしまってもいいんじゃないのかのう。ワシらから食事を奪ったことをたっぷり後悔させてやろうではないか」


 神樹の翁は、神竜の王以上に怒りを露わにした。


 恐らくボクが貴族たちに対して『殺気操作』を使い脅したからだろう。

 〝この者たちを店に入れるなと〟と、ボクら五人の似顔絵が町中の店にばら撒かれてしまった。そのせいで、毎日の楽しみであった食堂巡りが出来なくなったのだ。

 例外があるとすれば、ガリウス・ベルジェの息がかかる店だけだ。

 いま、ガリウス・ベルジェを殺してしまっては、また森に入り野生動物の丸焼きを食べることになる。あれはあれで美味しいのだが、料理人が作る食事には遠く及ばない。

 ガリウス・ベルジェを殺そうとすれば、神樹の翁と神竜の王が反対するだろう。

 東大陸料理を中心に扱う、小料理屋『東北東の鱗雲』は、立ち所にボクらの行きつけの店となった。


 さっさと、他の店にも行けるようにしないと、神樹の翁と神竜の王が我慢の限界を越えて、この町の貴族たちを殺しはじめるかもしれない。

 

 三日後――。宿屋に憲兵たちが訪ねてきた。

 彼らが来た理由はこうだ。

 自由市場で物見遊山する貴族の一団に、複数の男たちが近付き暴力を振るった。貴族の中には怪我をした者もおり、憲兵たちは犯人探しに追われていると、貴族を襲った一団の中には、銀色の髪の男が混ざっていたという目撃証言が寄せられたため、ボクを訪ねてきたということらしい。

 この町で銀髪は珍しく、すぐに貴族に対して脅迫めいた行動をした、ボクが浮かび上がってきたという。

 貴族を襲った集団の人数も不明、唯一分かっているのが銀髪の男がいたという目撃証言だけとは、あまりにも曖昧で杜撰な理由だ。


「あの……随分曖昧な目撃証言なんですね。銀髪以外犯人の特徴は無いんですか」


 すぐに答えられないのか、憲兵たちは口ごもる。

 力を翳して無理矢理連行しようとしないのは、ボクが貴族に殺気を放った際、オンドレイが貴族に向かって〝主は上級冒険者なんです。殺気だけで身動きが取れない皆様なら分かりますよね、喧嘩になったら大けがをしますよ〟と彼らだけに聞こえるように、脅迫じみた忠告をしたからだろう。

 まあ、上級冒険者というのも、出鱈目なのだが。


 憲兵たちも、上級冒険者との戦いは避けたいんだろう、ボクに対して慎重に言葉を選んでいるようにも見えた。


     ✿ガリウス・ベルジェの視点


 ガリウス・ベルジェは、容姿だけを見るなら白髪の中に若干の赤髪が混じる、体型もごく普通の、どこにでもいそうなちょっと気の強いお爺さんだ。

 平凡な見た目のせいか八司教時代には、ヘーゼルの陰に隠れる目立たない存在だった。それが故意によるものだという事実を知る人間は少ない。


 その部下たちも、同様に平凡というか目立たぬ者が多い。

 使用人の一人モルヘ・ロチェルトも、黒髪に赤銅色の肌、顔も特別良いわけでもなく、至って普通の容姿をしている。この大陸なら、どの町に一人か二人は似た男がいそうである。

 彼の場合は、服の上からでもわかる筋肉質の体が、唯一人目を引く部分だろうか。

 ガリウスは、自分自身にも当てはまることだが、優秀で見た目に癖のない人間をそばに置くことを好んだ。


「モルヘ、例の英雄と会って話したそうだな」


「はい、ガリウス様。なかなかに気立てのよい少年でした」


 ガリウスは気が付いた。

 自分がフィヨル・シュメルツァーという少年を、特に何とも思っていないことを、息子が死んだことに間接的に関わってはいる。だがあれは、自分の判断ミスと息子の力が足りずに起こった事故だ。そう割り切ることにした。


「そうか気立てのよい少年か……そうかそうか、で、お前はあの英雄を殺すことは可能か」


「殺せるとは思いますが、あの少年……フィヨル・シュメルツァーは、少しおかしな感じがするんです」


「おかしいとは、何がだ」


「はい、食事の時、それとなく彼の肩をスキンシップを装い、背後から手を回して軽く叩いたんですが、普通の冒険者であれば、背後から触られることに過敏に反応します。彼は何の反応も示さなかったんです。恐らく、敵意がない相手に対してまるで警戒心が無いんだと思います。名の知れた暗殺者であれば、敵意を隠し首を刎ねることも可能かと……」


「ふむ、謎の多い少年だな……上級を含んだ百人近い冒険者が手を焼いた魔物、黒い木の巨人を彼が単独で撃破したことは、事実だったと裏も取れている。実力は間違いないだろう」


「はい……彼の放つ殺気をみただけでも、彼の実力は確かであると私も感じました。あり得ないことなんですが、まるで首を刎ねられても平気だと……彼からはそんな余裕すら感じてしまうんです」


「確かにあり得ない話だな、首を刎ねられて生きている者など、この世には存在しない。だがなモルヘ、お前の勘はバカには出来ない。もう少し様子を見た方がいいのかもしれん」


 ガリウスは、人前では我儘で金に汚い男を演じていた。

 もちろん金……富は好きだ。名誉は儲けに繋がるのなら手を伸ばすこともあるが、どちかというと面倒なものだと思っている。本物のガリウス・ベルジェは臆病で冷静な男である。


 ガイウスはフィヨルへの対応を悩んでいた。

 フィヨルについて気になることがあった。

 彼は、神聖国家エラトニア初の超級冒険者として公認を受けた。その証も渡されているだろう。

 それなのに彼の召使と思しき魔法使いは、貴族たちに対してフィヨルが上級冒険者であると説明した。

 身分を偽る意味が分からない。

 超級冒険者とは、貴族以上に手出しが難しい存在なのだ。

 身分を明かしていれば、誰かは知らないが、貴族の襲撃者として、フィヨルを犯人に仕立て上げる真似はしなかっただろう。

 犯人仕立て上げられたとして、憲兵も証拠が出ないうちに、超級冒険者である彼のもとへは向かわなかっただろう。


「ガリウス様、憲兵の件はどうされますか」


「放っておけ、もし、英雄の方から何らかの助力を求めるのであれば協力してやればいい。ただやり過ぎには注意しろ。今はまだ、サロモンから嫌われるわけにはいかぬのでな」


 ガリウスは、モルヘに今後の動きについての指示を出した。

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