11-1 亡命のその先 1
お知らせです。1章1-1から2章10まで、誤字・脱字、内容のズレ、言い回しの変更、等々一部書き直しています。
交易国家レムノス、他にはあまりない縦に長い国土を持つこの国は、五つの国家と隣接し、そのすべてと交易を行っている。
逆にレムノスと隣接する五つの国同士は、交易を結ぶほど親しい間柄ともいえず、かといって交易を結ばずに自国のみで遣り繰り出来るほどの大国でもなく。
レムノスを通すことで五つの国家は均衡を保っていた。
交易国家レムノスを動かすのは一人の王ではない、君主制をとらず、五人の力を持つ貴族たちの手によって運営されている。
彼らはレムノスの五大貴族と呼ばれていた。
五大貴族の一人、侯爵サロモン・レーベン。
サロモン・レーベンが統治するレーベン領は、神聖国家エラトニアからの亡命を希望した元八司教ガリウス・ベルジェを受け入れた。亡命の受け入れには、国内外からの少なくない反発があったと言われている。
レーベン領の町と村には、必ずレーベンの名が付き、現在ガリウス・ベルジェは、レーベン領の町レーベングライに身を寄せている。
「サロモン様、ガリウス様より書簡が届いております」
書斎で書類に目を通すサロモン・レーベンの元に、一通の手紙が届けられる。
「また、あの御仁からか……神職者だというのに強欲なものだ。それにしても『目印』の存在を悟られただけでなく『解呪』までされるとはな、しかも、鍵を取り戻すために送った間者は全員消されたか、大損だな。収穫が無かったわけではないが……」
サロモンは、魔法の鍵を持つとされる者の報告書に目を通した。
襲撃者とは別に『遠視』の異能を持つ偵察兵を送っていたのだ。
魔法の鍵を所持しているのは、この大陸では珍しい白い肌の銀髪の少年。
髪は若干青みを帯びており、虹彩は黒に近い銀色。
信仰心さえあれば差別無く入国を歓迎する、神聖国家エラトニアらしい人材である。
少年の他は、この大陸の出身と思しき男が三人、こちらは全員が赤銅色の肌をしている。
それと、更に背の低い子供が一人、子供は常にフード付きのローブに手袋、犬のお面を着けており、皮膚の病を患っているか、呪いを受けている可能性がある。
三人の男のうちの一人、黒いローブを着た魔法使いが常に少年のそばにはいるという。
この男が『解呪』の異能もちだろうな。
五人……人数は違うが少年たちの正体には思い当たるところがあると、執事が補足する。
この執事も、ただの執事ではなかった。
「容姿からして、迷宮の崩壊を喰い止めた噂の英雄たちでしょう。リーダーは銀髪の少年で名はフィヨル・シュメルツァー、見た目は普通の少年ですが、彼の経歴を考えると、それなりの実力は持っているはずです」
「ふむ、こちらが送った間者の人数を考えると、魔法使い一人でどうにかできる数ではないか、襲撃時には、銀髪の少年と魔法使いが二人になったところを狙ったとあるしな、ただの少年じゃないのは確定だろう。一行は『目印』を解呪した後、馬車を使わずに村を出て徒歩で移動。途中から子供用玩具に似た浮遊石を使った乗り物を使い追っ手を振り切り、『遠視』を警戒し森の中へ消えた。その後完全に見失ってしまったようだな……浮遊石を使った乗り物であれば長時間の移動は不可能だ。五人の特徴を伝え消えた森近くの町や村を探らせろ、山小屋に戻ってくる可能性を考慮して、そちらにも人員を回すように指示を出せ」
「かしこまりました。ガリウス様にはなんと……」
「ドゥダ家の森の調査に苦戦しているとでも伝えておけ、レーベングライにあれだけ大きな屋敷を用意してやったんだ。もう少し、こちらの言うことを聞いてくれると助かるのだがな、違法薬物の調合法もまだまだ隠しているだろうし、邪魔だからといって消すわけにもいかんだろう」
サロモン・レーベンは、執事に指示を伝えると、侍女が手に持ってきた紅茶に口をつける。
自分にとって利益になるだろうと考えたガリウス・ベルジェの亡命は、いまのところ不利益の方が大きく、思うように進んでいない。
それともうひとつ、神職として長年人前で聖人を演じてきた反動なのか、ガリウス・ベルジェは、亡命後を好き勝手に周囲の迷惑を考えず動いている。
目に余る態度は、レーベングライを任せている町長から、私宛にどうにかしてほしいと陳情が上がってくるほどだ。
さて……どうしたものか、悩ましいな。
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レムノスに亡命後、ドゥダ家の森に茂る貴重な薬草の情報と、幾つかの違法薬物の調合法の開示によって、国への貢献を認められ、この国の貴族位を貰う約束をしていたはずが、それが進まないことに。
ガリウス・ベルジェは、苛立っていた。
再三の催促はしているが一向に良い返事は来ず。客人として一応の持て成しは受けているが、いまだに貴族位は出ず平民のままだ。
先日も、余所見をして私にぶつかったきたガキを杖で殴ったら、男爵の親が出て来て、ぶつかってきたガキではなく私が悪いと責め出した。しかも、町の治安を守る兵士までもがガキの擁護をしたのだ。
なぜ、私が、男爵のような下位の貴族に頭を下げねばならんのだ。
レーベン領の領主、サロモン・レーベンに乞われて仕方なくこの町に住んでやっているというのに……ふざけるな。
この町の貴族どもは、私が町の一等地にある屋敷に住むのが気に入らないと文句を言うばかりか、元伯爵の屋敷を平民が使うのは不敬だと言っているそうだ。
私の家の使用人たちに対しても、平民の使用人として見下している部分がある。
本当に頭にくる。
ガリウス・ベルジェは、この町に来てから、もう四度は兵隊庁舎に呼び出されていた。
そのほとんどが貴族絡みのトラブルだ。
しかも、自分は兵隊宿舎まで出向くのに、貴族の家には兵士長自らが足を運ぶ。
ガリウスは、建物の二階にある兵士長室の扉を叩いた。
〝お入りください〟中から返事があった。ガリウスは扉を開けて部屋の中に入る。
「これはこれはガリウス・ベルジェ殿、ようやく来てくださいましたか」
「ふん、そう言うのなら、そちらから出向けば良かろう」
「申し訳ありません。出向いてもらうのが規則なのです」
「貴族どもの家には、貴様自ら足を運んでいると聞いたぞ」
ガリウスの言葉に対して、兵士長はずっと微笑んだままだ。
「あちらは貴族です。あなたは大切な客人だとは聞いておりますが平民です。あなたが神聖国家エラトニアで、高位の神職者であったことは聞き及んでいます。だが、ここはエラトニアではなくレムノスなんです。この国ではこの国の規則に従ってもらわないと困ります」
「なんだと、私は領主サロモン・レーベンの客人だぞ」
「伺っております。私からもひとつ忠告をしましょう……あまりサロモン卿の名を穢さないでいただきたい」
「ぐぬぬぬ、たかが兵士長の分際で」
そうは言ったが、この町から出ていけないのも事実だ。
謝罪はせずに、兵士長の差し出す貴族から提出された、自分に対する苦情の内容に目を通し署名をすると、乱暴にドアを閉め屋敷へと戻った。




