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10 間者と手掛かり

残酷な描写があります。苦手な方はご注意ください。

「今日も大漁じゃのう」


 ボクの足元には、手足が斬り落とされた間者の死体が転がっている。

 殺す前に、持っている能力について聞き出そうとしたのだが、拷問の(たぐい)はボクには向かないようだ。四人とも口を割る前に殺してしまった。

 壁に飛び散った血は、木材を『合成』しキレイな壁に創りかえる。


「嫌味かなお爺ちゃん。最近人間に染まり過ぎてるんじゃない」


「小僧にだけは言われたくないのう、随分オンドレイの洗脳の成果が出て子供らしくなっているんじゃないのか」


「まー洗脳については否定はしないよ。ボクは彼がいなければ完全に人を辞めて、人格を持たないただの黒い靄になっていたからね」


 神樹の翁とは、こうして冗談を言い合うことも増えた。


 ボクたちが、レムノスの国境近くにある山間の村の、村外れにある丸太小屋(ログハウス)で生活をはじめてから早一月が過ぎた。


 村の食堂で山菜料理を満喫する神樹の翁と神竜の王と違い、ボクは丸太小屋(ログハウス)に釘付けになり、魔法の鍵に仕込まれた『目印(マーカー)』に吸い寄せられてくる害虫退治に追われている。

 地面には四人の間者の死体が転がっていた。

 かれこれ、こうして間者が遊びに来るのも十二回目だ。

 殺した間者は、全員『記憶の書庫』の本棚に並ぶ白紙の本と『合成』し、『知識の書』に変えているのだが、そのどれもが下っ端ばかりで、大した情報も持っていない。


「そろそろ当たりを引きたいんだけどな……」


 思わずため息と愚痴が零れる。


「それにしても随分と慎重な相手じゃのう、小僧が殺した相手の記憶を本に変える能力を持つことは知られていないはずじゃが、ここまで慎重になる意味が分からん」


「フィヨル様にアンドリュー様、人間の持つ異能の中には、上位種の想像を越えるモノも多数あります。相手が見知らぬ異能を持つと考えて警戒して動くのも、そうおかしな話ではないと思いますよ」


「そういうものかのう」


 オンドレイの忠告に、神樹の翁は、理解できんと首を捻る。


 オンドレイは、仮の器に自分の肉体を選んだ。

 神樹の翁と神竜の王の使っている肉体も、この大陸の人間の肉体であり、オンドレイを含んだ三人の肌色は、日焼けにも見える赤銅色の肌だ。違うのは髪色と瞳の色か。

 オンドレイについては、黒髪に目は細く吊り上がり、表現するならキツネのような目だ。

 虹彩も黒に近い色をしている。

 身に着ける黒いローブが同色の杖と相まって、いかにも魔法使いらしい格好といえる。


「ちなみにじゃが、警戒する異能とはどんなものがあるんじゃ」


「そうですね、確認済みのものでは『千里眼』(アルゴスアイ)『天眼通』(ゴッドアイ)といった、離れている場所を自由に覗き見る異能は厄介だと思います。私たちの中には異能で覗かれても、それを看破する能力持ちはいませんから、見られ放題ってわけです。先にいった二つの異能は滅多に授かる者もいませんので大丈夫だとは思いますが、注意すべきは『遠視』(クレアボヤンス)でしょうか、遠くからこちらを覗き見る能力ですね。障害物には弱いですが、所持者も多いので厄介な能力(ちから)です」


 聞くだけで厄介そうな能力である。

 力の弱い生物の中で、なぜ神は人間ばかりに贔屓して特別な異能を授けるのか、本当に謎である。


「面倒な異能もあるものじゃな……そうじゃ小僧覚えておるか、ワシと駄竜をひとつにした際、小僧が何を願ったか」


「ごめん、お爺ちゃん。色々な記憶を引き出してもらったのに、あの時の記憶だけは思い出せないんだ」


「そうか……この世界を壊してくださいお願いします。ボクに『合成』を授けた神様を殺してください……とワシらに言ったんじゃ。どうじゃ今も神を殺したいと思うか」


「神様か……異能を授ける相手をどう選んでいるのかは気になるけど、殺したいって感情はないかな」


 ボクはそう言いながら、地面に転がる四人の間者の死体を『知識の書』に変える。


 ついに当たりを引いた。


 四人の中に一人だけ、なかなかに出来る男がいた。

 男はレムノスの軍部でそれなりの地位に就いており、他の間者に比べて持っていた情報の質と量が群を抜いていた。

 この男の記憶の中には、元八司教ガリウス・ベルジェの潜伏先がある。

 オンドレイとの正義の約束を守るなら、ボクに間者を放った相手は殺さなきゃならない。こいつらを放ったのはガリウスとは別の奴だと思うけど、今のところ手掛かりらしい手掛かりはないし、本当に魔法の鍵が二本しかないのか気になる。

 会いに行くかしかないか、ガリウス・ベルジェに。

 『目印(マーカー)』の付いた魔法の鍵は『竜の胃袋』へと放り込んだ。

 これで鍵の場所を辿ることは出来なくなったはずだ。


 その日のうちに僕たちは、ラフタルネイルという名の町に向けて出発した。

 途中、クアリスから無理矢理持たされた通信用魔道具を使い連絡を入れる。


「フィヨルくん、連絡をくれたってことは進展があったのかい」


「うん、ほんの少しだけね。それで出来ればレムノスに行きたいんだけど、入国許可書が手に入らないかな」


「レムノスか、今はどの辺りにいるんだい」


「これから、ラフタルネイルて町に向かう予定だよ」


「ラフタルネイルか、了解。三日だけ待ってもらってもいいかな、五人分の入国許可書を手配するよ。それとフィヨルくん、暴れても良いけどレムノスは滅ぼさないでね。あそこは、物流の経路として必要な国なんだ」


「国を滅ぼすなんて、流石に無理だよ」


 そこで通信が切れた。


 三日後――。どうやってボクらが泊っている宿屋を探し出したのかは分からないが、ボクたちの元にレムノスへの入国許可証が届いた。

現在、今まで書いたものの誤字・脱字確認に集中しています。

投稿ペースが落ちると思いますので報告です。

この話を読んでいただけた方、ブックマークをしてくださった方、評価をしてくださった方、いいねをくださった方、本当にありがとうございます。

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