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3-3 不死神の王の廃迷宮 3

「あ、それは無いです。私たちが所属する学者組合には古い書物も沢山保管されているのですが、不死神の王は神樹の翁と神竜の王を吞み込んでしまうほど巨大な魔神だったと言い伝えが残っているんです。こんな小さな牢屋じゃ体の一部も入りません」


 ノーグノーツの助手の一人がすぐに探索者の言葉を否定した。雰囲気という面では色々台無しである。


「中に入れられているのは、恐らく不死神の王の身代わりの不死ノ神でしょう。ただ、不死ノ神は魔法を使うための口を持ちません。魔法妨害の魔法陣(マナレリーフ)を見る限り、中にいるのは変異種や特異種の類でしょう」


 ノーグノーツが助手の足りない言葉を補足した。


「博士、本当にこの扉を開けるんですか?」


 探索者の一人が不安気にいう。


「開けますよ!定期報告の際、部屋の中も確認するように強く言われてしまいまして、不死神の王の身代わりのモノが入れられているという説も、その時得た情報なんです。みなさんは一応武器の準備だけお願いします」


 ノーグノーツは〝上に言われたてしまったからには、やるしかないんです〟と、あからさまにめんどくそうな顔で髪の少ない頭を掻いた。そう言われてしまっては、探索者たちも従うしかない。

 斥候の男は慣れた手つきで扉の鍵を開錠する。

 バシルは深呼吸をすると、探索者を代表して重厚な鉄の扉に手をかけ一気に開けた。

 雰囲気がそう思わせるのかもしれない、扉を開けると同時にひんやりとした冷気に頬を擽られた。中は想像よりも広い。見張り二人を外に残し、六人が部屋の中に入る。


 光虫(ひかりむし)の明かりでは奥まで光が届かないくらいに部屋は広い。大人六人が入ってもまだ余裕のある広さだ。

 明かりを増やすために、急いで背負い袋から予備の光虫が入った虫篭を取り出す。


 誰かが息を吞む


 暗闇の向こうに、何かが……いた。


 張り詰める空気。


 不死ノ神は、黒い靄が人型となって動き回る奇怪な存在だ。そこにいたのは不死ノ神に似た黒い靄の塊ではあったが、所々に血の通った人間の部位を持つ悍ましいナニカ。

 例えば顔の下半分が見えて口はあるのに、上部は黒い靄で覆われて目や鼻はない。

 頭部の断面が見えないのは救いかもしれない。耳らしきものもある。腕も手首から先しかなく、それ以外の部分はすべて黒い靄に覆われていた。


 化け物が口を開く。


 探索者たちは全員冷静さを欠いていた。


「まずい……魔法だ。魔法を使うぞ」


 探索者の一人が叫ぶ。

 本当に魔法を使おうとしているのかどうかは分からない。冷静に考えれば、魔法妨害の魔法陣(マナレリーフ)が機能しているのだから焦る必要もないのだが……。

 化け物は、ただ〝()()()()()()()()()……〟と口を動かしただけなのだ。


「手に持つ武器では直接殴るな。矢や投擲武器を使え、距離をとって攻撃するんだ」


 相手は未知……握った剣伝いに呪いや毒や病が伝染する可能性だってある。

 一斉に攻撃がはじまる。

 黒い靄は通過するが、人の肌が露出した部分には矢やナイフが突き刺さる。暗いため、はっきりと見えないが、傷口からは血も流れているように見えた。投石機(スリング)用に持ってきた石を、そのまま投げつけるものもいた。


 悲鳴なのか?風の吹かない室内に奇妙な音が木霊する。


 バグったように籠に入れられた光虫が一斉に光を消すと、八人全員が、その数秒の暗闇にパニックに陥りそうになる。助手の一人は思わず奇声を上げた。


 無闇に武器を振るおうとしなかったのは、流石はプロといったところか、それでも叫び声や怒声が響く。


 僅か数秒――。


 何事も無かったかのように光虫は明かりを取り戻した。負傷者は無く、人と不死ノ神が混ざり合ったように見えた化け物の姿も消えていた。


「あれは一体……何だったんだ」


 探索者の独白に、ノーグノーツが答える。全員が精神的な意味で疲れ切っていた。


「不死ノ神の変異種だろうね。過去にあのような形の不死ノ神が発見された記録は残っていないが、そういう意味でも、不死神の王の身代わりには最適だったんだろう」


 ノーグノーツは、自分が目撃した不死ノ神の変異種を学者組合にどう報告すべきか頭を抱える。いまは少しでもこの場所の調査を進めなければ、と別のことを考えて気持ちを切り替えることにした。


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