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9 樵夫の山小屋

 ミーシャから報告を受けた時点で、クアリスは、ボクがレムノスに対して、どう動くのか予想していたんだろう。


 レムノスの国境に近い、神聖国家エラトニアの領土内にある山間の村に、家を用意していた。

 元々はその村に住む樵夫(しょうふ)が使っていた山小屋なんだそうだ。

 〝別荘だと思って、せっかくなんだし少しノンビリするといい。その村にある食堂で食べる山菜料理は絶品だよ〟と、そんな悪魔の囁きと共に、クアリスはボクに向かって家の鍵を放り投げる。

 山菜料理という魅惑の響きに、神樹の翁と神竜の王の気持ちはすでに村に向かう方向で固まっていた


 山小屋で、『目印(マーカー)』の反応を追って、襲いにやって来る敵を待つとしても、いつまで待つか期日は必要だろう。この魔法の鍵が、相手にとって危険を犯すほど重要なモノでない可能性だってある。

 そう考えると待つことができるのは最長で二月……それだけ待って動きがないなら、先に女王(クィーン)(ヴァイパー)の遺体の回収に向かった方がいいのかもしれない。


 翌朝――。

 クアリスが手配した乗合馬車へと乗り込み、首都を離れた。


 途中から偶然乗り合わせた冒険者が、興味深い話をしてくれた。

 現在、グレンデル王国は、『ブラックデモンエイプ』と名付けられた、人並みの知能を持つ猿の魔物と戦争状態にある。

 ボクが去った後に、なにやら物騒な事件が起きたものだ。

 冒険者は言った。頭のいい魔物の中には、大きな群れや国を作るモノもおり、人間との間で、生息域をかけた争いに発展すること(ケース)もあるんだそうだ。

 超大規模な縄張り争いは、国土を求めて争う、人間同士の戦争と変わらず。今回の魔物は、人間を食糧として見ているから余計にたちが悪い。

 ブラックデモンエイプは新種の魔物で、人間と同じように道具を作り、使い、統率のとれた戦いをする。厄介な魔物なんだという。


 そんなに簡単に新種の魔物が発生するものなのかと尋ねたところ、近年、新種の知恵を持つ魔物の確認情報が、各国の冒険者組合に次々と寄せられているそうだ。

 もちろん、これだけまとめて新種の魔物の報告が続くのは、異状なことだ彼は言った。


 タイミング的にも、同族たちの遺体を使い悪さをする存在が現われたと女王(クィーン)(ヴァイパー)が話す時期にも一致する。

 新種の魔物の誕生に、古代種の遺体が関係しているのなら、その目撃情報を辿ることで、他の古代種への手掛かりも掴めるかもしれない。


     ✿


 乗合馬車に揺られること八日、目的の村に到着した。

 ここまでの道中は、特に狙われるようなこともなく、怪しい人物とも会わなかった。

 クアリスが用意した村外れにある樵夫(しょうふ)の家は、村から更に半日歩いた場所にある。


 家の外観はまんま丸太小屋(ログハウス)で部屋数も少なく、『竜の胃袋』に常備しているボクが創った小屋よりもずっと狭い。

 樵夫(しょうふ)の男が、仕事の際、寝泊まりするためだけに使っていた小屋なんだろう。

 建物にはキッチンも無く、ベッドとテーブルがひとつずつと最低限の家具しか置かれていなかった。

 このままでは余りにも不便である。

 元々ある建物に木材を『合成』し、一見して分からない範囲で小屋を広くする。煙突も付けた。

 図面が残っていればバレそうだが、村外れの小屋の図面など、わざわざ保管する物好きはいないはずだと決めつけ、本能の赴くままに小屋を改造した。

 家の改造を終えると、次は家具作りに移った。人数分のベッドに椅子やテーブルを創り、煙突に続く通気口近くには、石と鉄を『合成』して創った竈を置き、簡易キッチンとする。


 少しやり過ぎたかもしれない。


 神樹の翁と神竜の王とヨジの三人は、山菜採り名人に弟子入りして、毒キノコの見分け方や採取のコツを学ぶといって朝早くから出かけていった。


 神樹の翁と神竜の王が使う仮の肉体に、『鑑定眼』の異能を追加すれば、毒の有無をはじめとした食材の目利きにも役立つのだが、『鑑定眼』は貴重で、能力が入った知識の書は一冊しか持っていないため断念した。

 それに、『知識の書』からの能力の『合成』は、失敗も多く、貴重な能力ほど成功率が落ちるような気がする。


 『鑑定眼』のような、貴重な能力持ちの死体は『生命の種の品種』として登録した方がいいのだが、相手が事細かに能力について話さない限り、登録前にそれを見抜く方法はない。

 『生命の種の品種』に登録した後も、所持する能力の詳細は、種を植えて育てた後、一度魂を入れてみないことには分からないため、種の多くは名前しか分かっていない状態で、その多くが宝の持ち腐れである。


 ボクに取り込まれたいと希望する、変わり者の魂や幽霊が、都合よく沢山見つかってくれれば話は早いのだが、世の中そう都合よくは出来ていない。

 それに妖樹のような例外もあるが、魂の多くは無色透明である。

 未練を残してこの世を彷徨う幽霊が、そういった意味でも一番取り込みやすいのだが、幽霊と呼ばれる存在の多くが、恨みつらみという負の感情頼りで辛うじてこの世に縋り付くものが多く、仮の肉体に入れた際、どうなるかまったく予想がつかない。


「おーい坊主、今帰ったぞ。村から帰る途中に熊に襲われてな、返り討ちにしてやったわい」


 神竜の王の声が楽しそうに弾む。

 山小屋の外に出ると、少々家具作りに熱中し過ぎたか、日は既に傾きはじめていた。

 神竜の王は二メートル越えの大きな熊を担ぎ、神樹の翁とヨジも、村人から貰ったのだろう、山菜と野菜が一杯に入った籠を嬉しそうに抱えていた。

 今夜は熊鍋にしよう、そんな三人を見て即献立が浮かぶあたり、二人ほどではないにしても、ボクも十分食い意地が張っているのかもしれない。

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