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6 嘘と演技

 屋敷を出て小屋に戻る途中。

 神樹の翁から、オンドレイを通じて連絡が入った。

 どうやらミーシャたちが、ヨジの正体を疑いはじめたみたいだ。

 それでも、一緒にいたことでヨジに情が芽生えたのか、直接問いただすような真似はせずに、困った彼女らは、神樹の翁にそれとなく探りを入れてきたという。……対して神樹の翁は、直にボクが戻るから聞いてみろと丸投げする始末。

 ホントにメンドクサイ。


「ねぇオンドレイ、何か良い言い訳はないかな」


「言い訳ですか……フィヨル様は、神聖国家エラトニアでは英雄視されているんですよね」


「うん、一応は迷宮の崩壊を阻止した英雄ってことになっているね」


 そんなボクの答えに、オンドレイは少し考え込む。


「英雄は民からの信頼も厚いものです。何より迷宮というものは古来より謎が多いものですから、この際ヨジくんも迷宮の被害者ってことにしてはどうでしょうか」


「迷宮の被害者?」


「はい、例えば迷宮化の原因になった妖樹に捕らえられていた子供がいて、フィヨル様たちが妖樹を倒した瞬間子供の全身が木に変わってしまったとか、妖樹が死の間際にかけた呪いだと押し通すのもひとつかと……迷宮同様、魔物の謎も未解明のものが多く、人間よりも多くの知識を持った、古代種と呼ばれる上位種たちですらすべての謎を解き明かすことはできませんでした。英雄の言葉であれば説得力も増すはずです。問題は真偽眼を使われた際にどうするかですが」


「真偽眼か……厄介だよね。でも、オンドレイの考えてくれた方法はありだと思う。ヨジがあの姿に変わってしまったのは、ボクが赤錆山の迷宮の崩壊を止めたのが原因でもあるしね。あれが無ければボクは妖樹と出会わなかったわけだし、こうしてヨジが産まれてくることもなかったわけだ」


 オンドレイはボクよりもずっと人間たちについて詳しい。

 喋り過ぎてウルサイと感じることもあるが、人間側に立つオンドレイのアドバイスは大変役に立つ、今後もボクの中に留まり続け、困った際にはアドバイスを貰いたいほどである。


 そうは言っても、彼自身が新たな肉体を持ち、自分の足でこの世界を歩きたいと願っている。それは無理な話だろう。

 兎も角、人間のことを良く知るオンドレイの合流は、ボクらにとって大きな利益に繋がるはずだ。

 気になるのは、彼が僕らと同じ家名であるシュメルツァーを名乗ることを拒んだことか、名前の響きが気に入らなかったんだろうか?


 オンドレイの案を元に作戦を練りながら、雨の森をひたすら歩く。


 そして、ようやくボクは懐かしい我が家とも呼べる小屋へと帰還した。

 木の屋根を打つ雨音は、どこか懐かしくもあり耳心地が良い。

 キッチンが併設するミーティングルームには、みんなが集まり、ボクは屋敷で見たことのあらましを伝えた。

 もちろん、ボクが死者の記憶を本にして読むことが出来る異能を持つことを、ミーシャたちは知らない。

 『知識の書』については、今後も隠し通すつもりだ。

 話せるのは、既に屋敷の罠とも呼べる魔物たちによって、八人の間者が殺されていた事と、彼らがドゥダ家の秘密の森に繋がる、門を開けるための魔法の鍵を所持していたことくらいだ。

 間者が所持していた他の品も見せたが、間者たちもプロだ、レムノスと繋がるような物は持っていなかった。

 とはいっても魔法の鍵を持っていた時点で、元八司教ガリウス・ベルジェと彼が亡命したレムノスの影はチラつくわけで、本来であればミーシャたちも、すぐにでも王都に戻りこのことを報告したいだろう。

 だが、彼女たちは、調査の間は、国よりもボクの命令に従うと約束している。


 ボクは、門の外へ出る日を一週間後に設定し、ミーシャたちにもこれを納得してもらった。


 魔法の鍵が本当に二本しかないのなら、レムノスが動くのは『目印(マーカー)』の付いた魔法の鍵を持つ、ボクが門の外に出た後だろう。


 その夜、ボクはミーシャに別件で呼び出された。

 呼び出された部屋には、濃い灰色の毛をした猫人族の女性ミーシャ・トリンメルと、同じ猫人族でも珍しい無尾で白に茶と黒の三毛柄の女性ビルギット・マングス、犬人族の女性で白いモコモコの毛が特徴で『調理師』の異能を持つカーリー・ビションブリーゼの三人が待っていた。


 犬人族の男性二人はいなかった。


「フィヨルくんに聞きたいことがあるのにゃ、ヨジくんは何なのにゃ」


 ミーシャの表情は真剣だ。


「何って言われても……」


 ボクはとぼけながら、頭を掻く。


「フィヨルくん、私たちは見たの、ヨジくんが手袋を外した手を……彼の手は人のものではなく木だったわ」


 ボクを問いただすように、カーリーさんの言葉も強くなる。頃合いだろう。


「赤錆山迷宮の核になっていた魔物を倒したせいでヨジは()()なりました。ボクにはヨジを護る責任があります」


 オンドレイの演技指導通りに悔しそうに下を向き、三人が次の言葉を吐き出すのを待った。


「ヨジくんは、赤錆山迷宮の引き金となった魔物の呪いを受けたんですか」


 誤解してくれたのは、ビルギットさんだった。


「話したくないです」


 〝話せないです〟だと三人の中に『真偽眼』持ちがいた場合に嘘だとバレる可能性が高い。〝話したくない〟であれば、ボクの意思であり、真偽眼を使っても嘘とは判断されないというのがオンドレイの見解である。


「分かったにゃ、これ以上は聞かないにゃ……今日話した内容はクアリス様には報告してもいいのかにゃ」


「構いません。でも、ボクからもお願いがあります。ヨジは絶対に皆さんに対して危害は加えたりはしません。それはボクが保証します。どうかこれからもヨジと仲良くしてもらえないでしょうか」


「なんとなく理由は察しましたにゃ、こちらこそ、是非ヨジくんとはこれからも仲良くしていきたいですにゃ」


 察したというよりは大きく勘違いしてくれたみたいだ。ミーシャたちから見ても、ヨジは悪人には見えなかったんだろう。その後、幾つかの雑談を交わし、彼女たちの部屋を後にした。

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