表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/99

4-3 森の亡霊 3

残酷な描写があります。苦手な方はご注意ください。

 オンドレイの魂を自分に『合成』して取り込んだ後、神樹の翁たち、みんながいる小屋には戻らずドゥダ家の屋敷へと向かった。


 オンドレイ・ドゥダの魂を取り込んだのは、間違った判断だったのかもしれない。

 牢の防人として出会った時には、ここまで話好きだという印象は受けなかったのだが、彼はことあるごとに、ボクの中から話しかけてくる。


 下手をしたら数百年、幽霊という存在を続け誰とも会話出来ずにいたのだ。こうして誰かと話すことが彼はとても嬉しいらしい。

 だからといって〝フィヨル様、あの鳥はなんて種類の鳥ですかね〟……知るかよ、ここについては僕よりもオンドレイの方がどう考えても詳しいだろう。と突っ込みを入れたくなる話ばかり。


「これはフィヨル様の訓練でもあるんです。年相応の言葉遣いに慣れておきましょう」


 とオンドレイは訳の分からないことを言う。


 オンドレイを取り込んだことで分かったこともある。


 神樹の翁と神竜の王は、ボクに取り込まれた魂たちが、どうなっているのか多くを語らなかった。

 単に説明するのがめんどくさかっただけだとは思うけど。

 オンドレイの話だと、ボクが取り込んだ魂たちは、離れた場所にいても会話が出来るんだそうだ。ほとんどが生前の姿を可愛らしくした見た目で、真っ暗な空間に浮かんだ状態での会話〝神樹の翁と神竜の王に会って怖くなかった?〟とオンドレイに訊ねたところ〝あまりにも存在が大きすぎて逆に何も感じませんでした〟と言っていた。


 その空間の中では、神樹の翁は世界樹の姿で、神竜の王は神竜の姿で、オンドレイは二十代後半の頃の姿をしていたという。自分が最も好ましいと思う姿でいることが出来るのではないかとオンドレイは言った。その証拠にヨジは妖樹の姿ではなく、黒い木の小人の姿だったという。

 しかも、ヨジの口調はとても幼かったと……。


「えっヨジが喋ったの?」


「はい。あの世界では思考がそのまま言葉に変わるようでヨジ君も普通に話していましたよ、そうそうヨジ君はフィヨル様のことを()()と呼んでいました」


「ボク結婚どころか、恋人すらいたことないんだけど」


「ほほう、なら恋人を探すのもいいかもしれませんね。ここより遥か北の地には鮮血の女帝と呼ばれた、着飾ることよりも戦地に赴き戦いを好んだ女王がいたそうです。あとは東の地にも悪魔王と呼ばれた『悪魔召喚』(デーモンサモナー)の能力を持った魔女がいたという伝承が残っていたような」


「恋人候補に伝説に残る悪の英雄たちを選ぶのはどうかと思うんだけど」


「フフ、それくらいの狂人でなくては、死んだ後の数百年間、魂や幽霊として自我を保ち続けるなんて芸当は出来ませんよ」


 〝それって自分を狂人って認めていることだからね〟この台詞は、これ以上この会話を続けても頭が痛くなりそうなので呑み込むことにした。ボクが物理的な頭痛を感じることはないので、あくまで気分の問題である。

 それにしても、ボク以外は離れていても会話が出来るのか、通信用魔道具のような使い方が出来て便利そうだ。


「ところでフィヨル様、どうして神樹の翁様たちとは合流せずにドゥダ家の屋敷に向かうのですか」


「どうやらボクら以外にも、この場所に侵入している者たちがいるみたいなんだ。この場所に来て真っ先に向かうとしたら、あの屋敷かなって思って……そうだオンドレイ」


「なんでしょうか」


「この人工迷宮を創ったのは誰かの能力なの?」


「はい『迷宮(ダンジョン)創造(クリエイト)』という異能だったと思います。牢の防人の職を一番最初に承った初代防人様が、この任を受けた際に神より授けられた能力だと伝えられています」


 迷宮を創る異能って、ボクの『合成』より凄いんじゃ、この世界には本当に多くの異能があるようだ。


 うっとおしい雨の中を、三日三晩休まずに歩き続け、ようやく広い森を抜けた。

 唯一この迷宮で雨が降らない場所、ドゥダ家の屋敷の前に到着する。


 日は完全に落ちているのに、屋敷には明かりひとつなく、真っ暗で人の気配がない。


 あの、黒いスライムが人型になったようなモノに、侵入者たちは全員殺されてしまったのだろうか、もしくは屋敷を警戒して入らずに森に向かったか……。

 侵入者たちが、ボクが出した小屋に向かっていないことは、オンドレイを通じて神樹の翁に確認してもらった。


 実際確認した方が早いと、屋敷の扉を開ける。

 屋敷の中は、玄関の扉を開けても魔道具が反応せず暗いままだ。

 あの奇妙な黒いモノたちが、倒されずにまだ生きているということだろう。


「もしかしてフィヨル様、闇の暗殺者(ダークアサシン)を放したんですか」


 あの奇妙な黒い人型のモノは闇の暗殺者(ダークアサシン)というらしい。オンドレイ曰くこの迷宮専用の魔物だそうだ。『迷宮(ダンジョン)創造(クリエイト)』は、迷宮専用の魔物まで創れる。とんでもない異能だった。

 ただ、幾つか規則(ルール)もあるようで、魔物の強さには個々に数値が設定されており、迷宮の持つ合計値を越える魔物は置くことが出来ない。

 例えば、合計値が百としてスライムが一なら、スライムなら百匹置くことが出来るが、数値五のゴブリンを置いた場合、最大でも二十匹しか置けないことになる。

 話を聞くだけでかなり面白く自由度の高い能力である。


 他にも幾つもの縛りがあるそうで、『迷宮(ダンジョン)創造(クリエイト)』の規則(ルール)説明だけでも、既に面白そうである。


 配置できる魔物の中でも闇の暗殺者(ダークアサシン)は、上位存在(ユニット)なんだという。話を聞けば聞くほど面白さが上積みされていく。

 残念なことに、初代防人様の亡骸がどこにあるのか、その名前すらドゥダ家には記録として残されていない。

 これだけ、とんでもない異能である。

 亡骸は他の上位種族が封印しているとか、そんなところだろう。

 古来より強すぎる異能は禁忌扱いとされてきた。

 異能使用者が死んだ後も、こうして、人工迷宮として残っているのだから、その特異性も容易に想像できる。

 是が非でもほしい能力だ。


 その後ボクは、真っ暗な屋敷の中で襲い来る闇の暗殺者(ダークアサシン)たちを、屋敷の明かりが灯るまで倒し続けた。

 討伐中、何度かボクの頭部や胸部、急所を彼らの爪が貫いたが、不死であり不滅でもあるボクにとっては、意味のない攻撃だ。

 全部倒し終えたのだろう、ようやく屋敷に明かりが灯った。


 廊下や壁の至る所には返り血がべったり張り付いていた。


「侵入者は、もう死んじゃってるみたいですね。初代防人様の異能で創られたこの迷宮は、本来の迷宮に比べると、壊れた物が修復する時間と、中で死んだ生物が迷宮に吸収される時間が遅いんです」


 オンドレイは、僕を死体の在り処へと案内してくれた。

 そこは、もう穴は塞いでしまったが、ベッドの下に隠し部屋へと続く入口があった一階唯一の寝室だった。

 部屋の中には、既に息絶えた八人の死体が無造作に置かれている。

 案外、この部屋に初めて入ったときに感じた。不気味さは、的はずれではなかったのだろう。

 オンドレイの話だと、この部屋は昔から死体置き場に使われていたそうだ。

 あのベッドも生者のためのモノではなく、死者のためのモノである。


 目の前に無造作に置かれた死体を、ボクの中にある『記憶の書庫』に並んだ白紙の本に『合成』し『知識の書』を発行する。

 男たちの記憶を読んだ。八人は全員がレムノスという国家に所属する正規兵で、目的は、この森にある違法薬物の材料となる薬草の確認と見本(サンプル)の採取。

 死者の記憶を見る限り、八人の他に工作員はいない。

 ドゥダ家の秘密の森へ入るための門を開ける魔法の鍵も、ミーシャさんたちが持つ一本と、彼らが持つ一本の、二本だけみたいだ。

 これについては、レムノスに亡命した、元八司教ガリウスがウソをついていなければだが……〝フィヨル様、その魔法の鍵から不思議な魔力を感じます〟幽霊となったオンドレイの目には、無色透明である魔力が見えているという。

 この鍵には魔力の細い糸が結ばれており、恐らく『目印(マーカー)』の異能によって、鍵の在り処を知ることが出来るようになっているのではないか、とのことだった。


 『竜の胃袋』に入れてしまえば、この面白そうな能力の効果は消えてしまうだろう。


 魔法の鍵はあえてボクの腰にあるポーチの中に入れる。

 レムノスがどう動くか楽しみだ。ボクはニヤリと口元を歪める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ