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4-1 森の亡霊 1

残酷な描写があります。苦手な方はご注意ください。

 この辺りだろうか、防人の謎を求めて奥へ進む。


 地図が示した場所には、木の生えていない広場があり、名前が書かれていない沢山の墓石が並んでいた。

 不死神の王を封じた牢の防人である魔法使いたちの墓だ。


 ドゥダ家の秘密の森と呼ばれる人工迷宮自体が、不死神の王を監視する防人たちを埋葬するための、墓を置くために創られた器だったのかもしれない。

 不死神の王の牢を監視する防人たちのお役目。

 表面上それは、魔法使いの大家ドゥダ家にとって不名誉な仕事だったのだろう。

 ひたすら牢を監視する毎日。

 血を分け合った家族なんだ。墓のひとつでも置いてやりたいと願う彼らの想いが理解出来た。

 だからといって、人目につく場所に、不死神の王に関わった者の墓を建てることは出来なかったんだろう。


 それで迷宮の中か……。


 名前のない墓の間を歩く。

 墓の数は全部で十八個……それが多いのか少ないのかは分からない。『竜の胃袋』から酒の入った瓶を取り出した。

 兵士の記憶にあったのだ。

 墓参りの際には、生前死んだ者が好きだった酒を墓石にかけるのが作法だと、墓の下に眠る故人にとって、ボクはこの世界の中で最も嫌いな、二度と会いたくない相手だろう。


 酒を墓にかけているさ中、ボクの墓参りを拒むように霧が立ち込める。

 正体がバレたのか……霧の中から、宙に浮かぶローブ姿の杖を持つ幽霊らしきものが複数現われた。

 幽霊たちは容赦なしに、氷の礫と石の矢を放ってきた。


 墓の周りを飛び跳ねながら攻撃を躱す。躱しきれないものは剣で弾く。

 近くにいた幽霊らしきモノを剣で斬りつけてみたが、手応えはなく、効いていないのか攻撃魔法は一向に止まらない。


 図鑑で読んだ幽霊の説明では、魔法を打ち尽くして魔力が尽きれば、幽霊もすぐに霧散すると書かれていたのだが、人工迷宮と魔力回路が繋がっているのか、目の前の幽霊らしきモノには弾切れがない。


 本当に厄介だ……。

 もちろん目の前に浮かぶモノが幽霊ではなく、この墓を守るために創られた魔法生物である可能性もある。

 骨剣に限界が来たのだろう。刀身にヒビが入り、石の矢を弾いた瞬間、剣は途中から折れた。

 同時に別方向から飛んできた氷の礫が、ふくらはぎを貫き血飛沫が舞う。


 折れた剣を投げ捨て『竜の胃袋』から新しい骨剣を取り出した。


 攻撃も通じず、魔法の弾切れがない幽霊。

 圧倒的に不利である。

 それでも、体力という概念が無いボクにとって、その気になれば十年でも百年でもこの状況を延々と繰り返すことも可能だ。負けることはない。

 問題は、神樹の翁と神竜の王とヨジの体は一年草であり、目の前で枯れるようなことがあれば、ミーシャたちは、ボクの正体を疑うだろう。

 そんなことになったら、神聖国家エラトニアを追放され、食堂に通えなくなった神樹の翁と神竜の王は、間違いなく荒れる。


 何時間説教されるんだ……それだけは絶対に避けたい。


 考え事をしていたせいだろう、やらかした。墓石に躓き倒した挙句、バランスを崩したボクの頭に大きな氷の塊が直撃する。

 一撃で口から上が吹き飛んだ。人間の体は脆すぎる。

 痛みはだいぶ抑えられているはずなのに、めちゃくちゃ痛いし。


 頭部を失いその場に崩れ落ちるボクに対しても、魔法使いの幽霊らしきモノは攻撃の手を緩めない。攻撃を受けながら、体から離れた場所に落ちた眼球を動かし空に浮かぶモノを観察した。


 気付く……幽霊の数が一体減っている。一、二、三、四……十七。一体減って十七体。そう、立っている墓石の数と同じ数だ。

 体を再生する。

 地面に散らばっていた血や肉が集まり人の体に戻っていく。起き上がると同時に駆け出し、墓石を容赦な蹴り倒した。


 墓石が倒れると同時に、ローブ姿の幽霊の数も減る。


 残り一体……ボクは最後の墓石の前に立った。その一体は、一度もボクに攻撃してこなかった。


「お久しぶりですねオンドレイ・ドゥダ、ボクはあなたに会いに来たんです」


「こうして顔を合わせるのは初めてですね不死神の王。声色から想像はしていましたが、本当に見た目は少年の姿かたちをしているんですね」


「はい、これが、この姿が、ボクが逃げ出した時に失くした人の姿なんです」


 そんなボクの台詞に、幽霊となったオンドレイは悲しそうな顔をする。


「人の差別が産んだ最悪の怪物、あなたをそう呼ぶ記録が残っていました。満更的はずれな話でもないのですね」


 ボクのことを書いた書物が残っていたことに驚いた。

 人族は真っ先にボクの記録を消しそうなのだが、人であった頃の記録が残されているとは……差別というよりは、あの時代の人間たちは、生物の底辺であり、生き残るために必死だった。

 奴隷の如く売り買いされることも日常茶飯事で、役立たずだったボクが売られるのも、当然といえば当然だ。


 売られた相手が最低で、それにキレたボクが世界の半分を壊すなんて、誰も予想出来なかっただろう。


「不死神の王よ、私の愚痴を少しだけ聞いてください」


 オンドレイの幽霊は言った。


 ボクが〝ウン〟と首を縦に振り終える前に、オンドレイは語りはじめた。いかに、不死神の王の牢の監視役である防人が過酷な仕事だったかを、仕事もそうだが、他人からの目が本当に辛かったと、彼は言った。

 朝起きて、転移門を潜りボクが封じられた牢に向かい、通路に灯された明かりを頼りに魔法の勉強をする毎日。

 自分には、青春と呼べるキラキラした思い出が無かったのだと彼は言った。

 それに対して、ボクは〝ごめんね〟としか答えようがないのだが、この後もボクは延々と愚痴を聞かされ続けた。

 全然少しじゃないじゃないか……というのがボクの本音である。

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