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3-2 ドゥダ家の秘密の森 2

残酷な描写が多めです。苦手な方はご注意ください。

ドゥダ家の森に侵入する騎士視点の話になります。

 小国レムノスとの国境からそれほど離れていない、神聖国家エラトニアの領土に、その森はあった。

 魔法使いの大家ドゥダ家が管理していたとされる森。その森に何が隠されているのか?近隣の国々は長い間ずっとその謎を追っていた。

 近年エラトニア産として裏の世界に出回りはじめた、強い幻覚作用と興奮状態・快楽をもたらす違法薬物。

 その原料とされる植物の群生地が、その森の中にあると、神聖国家エラトニアからレムノスに亡命した神職者であり元八司教ガリウス・ベルジェは証言する。


 レムノスが裏で国ぐるみで力を入れていたものの一つが、違法薬物の密輸と密売、自国生産である。

 八司教の地位を傘に、植物を利用した違法薬物の大量生産に手を染めていたガリウスは、レムノスとも太いパイプを持っていた。

 今回レムノスは、ドゥダ家の秘密の森が国にとって有益なモノになるかどうか、国を豊かにする価値のあるものなのか見極めようとしている。


 ドゥダ家の秘密の森は、迷宮同様、魔物を吐き出す異界である。


 秘密の森へと繋がる門を開けるための魔法の鍵は、複製が叶わぬ貴重な品だ。調査任務の人選にも頭を悩ませた。


 マヌエル・ランシーニ。

 レムノス騎士団中隊長。魔物についての知識も豊富で、冒険者時代には幾度となく迷宮に潜った経験もある人物だ。


 神聖国家エラトニアの領土内では、一方的に人を殺すことが出来ない。

 もし、人を殺すなら、双方戦う意思を先に宣言する必要がある。

 そんな理由から、マヌエルは、騙し討ちが得意な者よりも正々堂々名乗りを上げてから戦う、騎士としての戦いが得意な者を選んだ。

 要は、正面から正々堂々力で相手を叩き潰すことが出来る騎士たち……魔物退治の心得がある腕自慢五人を選んだ。

 斥候二人は別部隊より借り受けた。

 合計八人……他国への極秘潜入任務と考えれば、少々人数が多い気もする。

 八人は日をずらし、神聖国家エラトニアと取引のある商人に紛れて入国した。

 装備もレムノス騎士団の正式装備ではなく、商人が冒険者に見えるように見繕った物だ。


 八人は、ドゥダ家の秘密の森に続く門の前に到着しそれを見上げた。


 マヌエルは、魔法の鍵を取り出すと門に鍵を翳す。

 門はゆっくりとその口を開け、八人が中に入るのを確認すると、ゆっくりとその口を閉ざした。

 各々が装備の上に雨具(レインコート)を羽織っている。

 迷宮に似た特徴を持つ森の構造についても、ガリウスの調書を読んである程度は頭に入っていた。

 一年中雨が降り続く奇怪な空間。

 唯一雨が降っていないのは、森の入口付近に置かれた屋敷周辺だけだ。雨の降らない場所は魔物の出ない安全区画となっていると、ガリウスの調書には書いてあった。

 薬草の群生地までの地図もあるが、そこに向かうためにはそれなりに準備がいる。

 出来れば屋敷を拠点に活動したい。


 茂みの中に身を隠しながら煌々と明かりの灯る屋敷を見つめた。

 〝ガリウスは、二つある鍵のひとつを没収されたんだったな……先客がいたか〟相手の人数が多くとも奇襲出来るのならなんとでもなる。だが、神聖国家エラトニアの領土内では、神の加護が邪魔をして不意打ちは御法度だ。

 マヌエルは、どうしたものかと頭を悩ませる。

 結局、妙案は出ず。その日は、この場に留まり遠くから見張りを続けることにした。


 翌朝――。

 屋敷から出ていく人影を確認する。人数は全部で九人、数は多いが明らかに荒事には不向きな子供二人が混じっている。探索向きな異能持ちなのかもしれない。

 万が一戦いになっても、こちらの有利は揺るがないだろう。


 マヌエルは、もう一日だけ様子を見ることにした。


 夜になっても、出て行った神聖国家エラトニアの探索者と思しき人間たちは戻って来なかった。


 マヌエルは屋敷に向かう決断をする。


 先に馬小屋を調べた。

 斥候二人が調べた結果、数日前までは馬がいた形跡と、地面に残る馬車の車輪の跡と思しき轍を見つけた。

 長期間、森の中へ籠ることを想定して馬と馬車は近くの村にでも預けてきたのだろう。というのがマヌエルの見立てだ。

 念には念を入れ屋敷の周囲を調べるが、屋敷の中には人がいる気配はない。


 ガリウスの話では、屋敷の中には、自動で明かりが点灯する魔道具が複数あるため、人の有無は明かりで分かるとのことだった。

 この屋敷自体にも、幾つかの規則(ルール)が存在する。

 入るときは必ず玄関より入る必要がある。

 屋敷の中には幾つもの高価な魔道具があるが、外へ持ち出しは叶わない。

 外に持ち出そうとしても、玄関の扉を開けた瞬間。魔道具は手元から消えて元の場所に戻るのだという。玄関が無理なら窓から出せばいいと試したが、それも上手くはいかなかったそうだ。

 持ち出すことが可能なのは、この世界からの繋がりを完全に隠すことが出来る能力所持者くらいだろうと……欲をかくなと注意が記されていた。


 斥候一人と騎士二人を外に残し、五人で屋敷の中を調べることにした。


 予想外のことが起こる。

 玄関の中に入っても明かりが点かないのだ。

 急いでランタンに火を灯す、一昨日までは確かに明かりが点いていた。

 ガリウスも知らない規則(ルール)が存在するのだろうか……斥候を先頭に慎重に進む。


 やはり廊下にある、周囲を照らすための魔道具は反応しない。

 一階の廊下を調べたが、何の情報も得られぬまま部屋の中へ、ガリウスの調書では、部屋の扉を開けた瞬間に明かりは灯ると書かれているが、やはりここでも部屋は暗いままだった。

 何もかもが調書と食い違う。

 マヌエルは、ひとまず一人を外に戻し、残りの四人で調査を続けることを決めた。


 彼らは……闇に蠢く者たちの我慢の限界が近いことを知らずにいた。


 外に戻る途中、嫌な予感がした騎士の足は自然と早くなる。


 ようやく玄関に辿り着き扉に手をかけたが動かない……扉が開かないのだ。

 同時に背後から嫌な気配を感じた。


 騎士は利き腕である右手で剣を抜くと同時に、体の向きを変えた。


 心臓の鼓動が加速する。

 左手に持ったランタンの明かりが、目の前に立つ奇妙な生物を浮かび上がらせた。真っ黒なスライムが人型になったような奇妙なモノ、両手の爪が異常に長く顔には目も鼻も口も無い。

 騎士は咄嗟に剣を振った。

 黒い奇妙なモノの動きは素早く、易々と騎士の剣を躱す。飛び上がり、そのまま天井を蹴ると一気に騎士の間合い深くに入り込んだ。

 声を出す前に騎士の喉元には、奇妙なモノの長い爪が突き刺さる。


     ✿


 屋敷は三階建てだった。


 効率よく調べるためにも、人員を分ける。

 大方調べ終えた一階に一人、二階にはマヌエルと騎士の二人、三階には斥候の男が上がる。


 斥候の男は、念のため異能『忍び足(サイレントステップ)』を発動する。感覚が鈍くなるため、もう一つの異能『隠密(ステルス)』は使わない。


 そのまま音もなく部屋に近付き扉を開けた。

 一瞬だった。斥候の胸から爪が突き出る。斥候は死ぬ直前まで、それの存在には気付けなかった。


 マヌエルともう一人の騎士は、二階の廊下でお互い背を合わせながら剣を抜く。


 両者の前には黒い奇妙なモノがいた。黒いスライムを人型にしたような何か、二人は剣で執拗に突き出される長い爪を弾いた。

 ランタンの明かりだけでは、攻撃を避け続けるのにも限界があった。

 しかも、相手は暗闇をものともしていない。


「全員、無事か――――」


 マヌエルは大声で叫んだが、返事は返ってこない。既に三人は殺されたのかもしれない、そんな不安が頭を過ぎり、焦りは動きを鈍くする。


 目の前の奇妙なモノは身軽だった。時に壁や天井を足場に跳ね回る。

 明かりがあれば勝てたんだろうか……そんな諦めともとれる弱気な想いが浮かんできた。

 屋敷の中は安全地帯だと聞いていたのに、どうして化け物がいるんだ。心の中で目の前の理不尽に対して叫び続けた。

 背中越しに悲鳴が聞こえた。断末魔の声である。

 体から切り離された部下の頭が、足元へと転がる。

 ランタンと一緒に油袋を思い切り床に叩きつけ建物ごと燃やそうと試みたが、火は無情にも油に燃え移る前に消えてしまった。

 消えたというよりも、何らかの力が働いて消された感じだ。


 明かりを失ったマヌエルに勝ち目は無かった。

 後ろから太腿を刺され床に転がる。背中に向けて何度も何度も爪が突き刺さる。

 二匹だったはずの化け物の気配も増えていた。最初は浅く刺していた爪が、徐々に深くなっていく、周囲には六匹の化け物がいて、遊ばれた。

 後頭部に爪が刺さる瞬間〝やっと解放される〟と心が軽くなったほどだ。


 外にいた三人は、判断に迫られていた。

 屋敷に明かりはなく暗いままだ。異常事態であり、本来であれば逃亡一択なのであろう。

 この場所には縛りがある。門を使わなければ外に出ることが出来ない。出るためには魔法の鍵が必要だ。

 鍵を持つマヌエルは、未だ屋敷から出て来ない。

 捕まる可能性もあるが、神聖国家エラトニアの人間に助けを求めるのも一つだろう。だが、その場合、鍵を失うことになる。

 そうなれば、下手をすれば貴重な魔法の鍵を失った罪で自分たちは罪人となる。


 答えを出せないまま三人は、暫く屋敷の前で立ち尽くしたが、結局屋敷の中に入ることを決めた。

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