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2-2 魔法使いの屋敷 2

 到着して早々屋敷の見取り図が配られた。

 部屋を割り当てるために配られたそれも、ボクにすればちょっとした玩具である。


 宝の地図の如く屋敷の見取り図を握り、意気揚々と探検をはじめる。

 赤錆山の迷宮化の引き金となった妖樹の魂が宿る、『黒い木の巨人の種』の品種改良で産まれた『黒い木の小人』。

 身長百二十センチの木の人形ヨジがボクを追いかける。


 日が落ちている間は、ヨジは動けないはずなのだが、眠たそうな感じもしないし……元気だよな。

 例外があるとすればそれは迷宮の中だけだ。迷宮の中であればヨジは眠ることがない。

 ヨジが動いている時点で、ここは、もう『迷宮』で確定なんじゃないだろうか。

 

 不死神の王が封じられた牢の防人(さきもり)のお役目など、声高に自慢するようなものでもないだろう。

 魔法使いオンドレイとの時間を懐古するなら、彼と繋がりを持つ先人たちは、むしろそのことを隠そうとするはずだ。

 ならば、それに関する情報や記録も隠された可能性が高い。

 とっくに処分されたか、あるとすればこういう迷宮の中の隠れ家だよな。


 ボクは、オンドレイのことが知りたかった。


 優秀な魔法使いの血族が代々受け継いできた屋敷だけあり、廊下には、動く物を感知して自動的に明かりが灯る魔道具が設置されている。

 魔道具ひとつ持ち帰るだけでも、かなりのお金になりそうだが、この屋敷の中にある物はどれも外には持ち出せないという。


 ヨジを連れて怪しい部屋を探す。

 書斎に台所に倉庫……屋敷には、ミーシャたちもいる。部屋に入る前のノックはマナーだろう。

 これだけ怪しい場所だ。一人になるのは不味いだろうと、屋敷の中でも二人以上での行動を義務(ルール)とした。


 一番怪しいのがこの部屋か……。

 寝室のほとんどが二階にある中、その部屋だけは一階にあった。しかも倉庫よりも更に奥にある一番端の部屋。

 魔法使いの屋敷は、かなり広い。

 部屋数も多く、部屋割りの際〝嫌な感じがする〟という理由で避けられた部屋も多くある。

 この一階にある唯一の寝室も、誰もが気味悪がって手を挙げなかった部屋だ。


 扉を開けると同時に明かりが灯る仕組みなのだが、この部屋だけは暗いままだ。

 ボクには『暗視』があるので、問題はない。


「ねーヨジ、お化けでも出そうな部屋だよね、それにじめじめしていてかび臭い。窓を付ければいいのに」


 ヨジは、黒いローブで全身を包み、木の手が見えないように手袋まで付けている。

 ボクの言葉に、犬のお面を付けた顔を〝コクコク〟と縦に揺らした。

 ヨジの元となった妖樹も、生物の怨念や血肉を喰らい化け物になったモノである。ある種、お化けや不死の怪物とも親戚じみた立ち位置なのではないだろうか。

 そう考えると、少しワクワクしていた初幽霊への期待度が下がる。

 精神攻撃しか能がない、肉体を持たない幽霊が相手なら警戒する必要もないだろう。


 暗い部屋の中、引き出しや本棚をヨジと一緒に漁る。


 埃を気にすることなく、ヨジはベッドの下に体をねじ込ませ〝ごそごそ〟体を動かす。何かを見つけたのだろうか、ベッドの下から一枚の布を取り出した。

 ヨジの手に握られていたのは、魔法使いの家系に相応しい古びた一着のローブだ。


 埃を落とすようにヨジは、そのローブを何度もベッドに叩きつける。

 力加減が苦手なようで、かなり乱暴だ。


 ローブが鍵になっていたんだろう。ローブを着た長杖を持つ人の姿をしたモノが現われる。


「何をしにここにきなさった……」


 しわがれた老人の声が空気を震わせる。

 幽霊相手にウソをついたところで何の得にもならないだろうと、この土地に住む古代種に会いに来たのだと告げる。

 興味のない話だったのだろう、幽霊は何の反応も示さない。このまま、何の手掛かりも得られないまま消えてしまってはつまらないと、言葉を追加することにした。


「あなた方は魔法使いの血族だと聞いたんですが、その中にオンドレイ・ドゥダという魔法使いはいませんか?」


 幽霊の顔が大きく歪む。

 色を失った虹彩は、とても苦しそうに、ボクの顔のすぐ前で見開かれる。

 見る人によっては、これだけで精神(あたま)がおかしくなってしまうんじゃないだろうか、だが、相手が悪い。二千年近い歳月を暗闇の中で過ごしたボクに、恐怖なんて感情が存在するはずがない。()うの昔に捨て去った感情である。

 不死の怪物を、恐怖で狂わせようなど片腹痛い。


「オンドレイ……オンドレイ……知らぬ。そんな者は我が血族ではないわ」


 目の前にいる、魔法使いらしいローブを纏った幽霊は、生者であるかのような動揺を見せた。

 ヨジの元となった妖樹ですら、もう少しまともな形をしていたのだが、目の前に浮かぶ幽霊の(こころ)はあまりにも不安定だ。

 少し揺さぶられただけで、今にも崩れそうである。


 少しだけそれが残念だった。

 もう少し丈夫な魂であったなら、取り込んで彼も家族の一員に加えられたかもしれない……いくら人間の真似をしても、ボクは結局不死ノ神だ。

 死者への同情よりも、自らの利益を優先する。

 目の前の幽霊が原因なのか、部屋の温度が急激に低下する。

 吐き出す息も白くなる。

 ボクは右手を幽霊の体へと伸ばした。やはり触れないか、ボクの右手は空をきった。


 黒いローブを纏った幽霊は消えてしまった。……逃げたか。


 幽霊に触れるかどうか試したかっただけなのだが、あんなに勢いよく逃げてしまうとは、その後もボクをこの屋敷から追い出そうとする力を感じたが、そのどれもが失敗に終わる。

 恐らく人間を想定して作られた(もの)なのだろう、人間の枠をはみ出したボクには効かなかった。


 魔法がどういう能力(もの)なのか、『知識の書』にある兵士の記憶には、詳しいことは書かれていない。恐らく極稀に発現する希少(レア)な異能なんだろう。


 神樹の翁は、魔法にも詳しいはずなんだけど、聞いても教えてくれないんだよね。

 神樹の翁や神竜の王は悠久の時を生きる存在である。

 もはや体を失い魂だけの存在だけに、果たして今も悠久の時が続いているのかは謎だ。

 分からないことがあるなら、聞く前にとことん自分で調べてからにしろって教育方針なのかもしれない。


 一応形的には家族なんだし、もう少し優しくしてほしいものである。

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