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3-1 不死神の王の廃迷宮 1


「ここが御伽話に登場する不死神の王の廃迷宮ですか、随分と深そうですね」


「ハハハ、確かに深さはある。だがここは探索され尽くした何の価値もない廃迷宮さ。そんな期待を込めたキラキラした瞳で言われても、中には何もないはずだよ。ここに入るのは私のような学者と、あなた方のように護衛の依頼を受けたライセンス持ちくらいさ」


 大きな荷物を背負った禿げかかった頭の学者を名乗る男が、この洞窟にはじめて来たという鎧姿の男に言葉を返した。

 岩山の間にぽっかりと開いた大穴の前には、出発の準備を急ぐ複数の男たちがいた。

 準備を早く終えた者は、暇を持て余すように雑談をはじめる。


「廃迷宮と知っていても初めて来る場所はワクワクするよな。それに今回は前金有で、成功報酬もたんまりと出る。地図も用意してもらったし、楽な仕事さ」


「あんまり気は抜き過ぎないようにしようぜ、廃迷宮で怖いのは魔物より、野盗のねぐらになってることさ。まーこの辺りは不死神の王の呪いのせいで土地も荒れ果てているしな、近くに襲う町もねーから、今回はその辺も心配もないだろう」


 斥候職だろうか、肩当のない無駄を省いた革鎧を着た小柄な男が会話に混じる。全部で八人、全員が一様に日に焼けたような赤銅色の肌をしている。この大陸特有の肌色だ。


 ここは大陸の北端にある名もなき荒地、どの国家にも属していない特別な土地である。


 男たちの目の前にあるのは、遥か昔この世界の半分を滅ぼしたとされる、不死神の王の亡骸が眠るとされる廃迷宮の入口だ。


 廃迷宮とは――。

 魔力が枯渇して魔物も宝箱も生まなくなった朽ちた迷宮の呼び名である。廃迷宮ができるのは、力のない小さな生物を産み落とすくらいだ。

 もっとも、現存する迷宮の中で不死神の王の廃迷宮は、世界最古の迷宮のひとつで、時折こうして護衛を連れた学者たちが調査に訪れている。


 今回も単なる調査で終わるはずだった。


 斥候と思しき男の手には迷宮の地図があり、地図の中には小さな目印や所々に文字が書き込まれている。


「今回はこの目印の場所まで、博士たちを連れていけばいいんですよね」


 斥候の男が持つ地図を横から覗き込みながら、鉄鎧の男が言う。


「ああ、お願いするよ。なんでも目印のある場所の壁は、他とは違う色をしているようでね、未開区画に繋がる可能性があるとかで急に呼び出されたんだよ……他に調べたいことがあったんだが、上も人使いが荒いものさ」

「ほー未開区画ですか」


 未開区画とは――。

 迷宮の中で一度も人が立ち入ったことのない区画を指す言葉だ。人が侵入したことのない、まだ誰にも荒らされていない領域。廃迷宮であれ、未開区画にはお宝が眠っている可能性がある。

 博士と呼ばれる男の言葉に、護衛たちは色めき立つ。


「あまり期待しないでくれ、不死神の王が貧乏だというのは有名な話だからね。廃迷宮になる前から、この迷宮には宝箱ひとつ出た記録がないのさ」


「記録がないと言われても、俺たちは探索者ですから。未開区画があると聞いてしまえば、少しは期待してしまいます」


「私たちは、目的の場所にさえ連れて行ってもらえれば文句はないよ、ただ……貴重な遺跡を荒らすような真似だけはしないでくれよ」


「分かっています。学者組合からの依頼を反故にしたとあっちゃライセンスを剥奪されかねません。きっちり仕事はやりますよ」


 探索者とは、迷宮漁りを生業とするライセンス持ちの呼び名だ。

 彼らは、迷宮に潜り、迷宮でしか採れない動植物や鉱物、時にはお宝を持ち帰り金に変える。

 ここは廃迷宮のため必要ないが、迷宮の中には入るのに国の許可が必要な場所も多い。そういった仕事をする者に発行されているのがライセンスカードである。

 探索者や冒険者や探検家など呼び名は複数あるが、共通するのが、国が発行するライセンスカードの有無だ。彼らのような職種の人間をひとまとめに『ライセンス持ち』と呼んでいる。


 今回彼らに仕事を依頼したのが、各国の学者たちを取り纏める学者組合であり、ライセンスを発行元である冒険者組合の上客である。

 目の前の宝に気を取られて仕事を投げ出したとなれば、ライセンスカードを取り上げられてしまい、彼らは職を失うだろう。別の町に移りライセンスカードを取り直せば済むのだが、今まで積み上げて来た信用と実績も0(ぜろ)になる。それを自ら望む探索者はいない。

 なにより、探索者にとって潜り慣れた迷宮を失うのが一番の痛手である。


 ここにいる八人のうち三人は、学者組合の所属だ。

 少し頭が禿げた学者のノーグノーツとその助手が二人。

 残りの五人は、迷宮漁りを生業とする探索者で、不死神の王の廃迷宮に近い、グレンデル王国が発行するライセンスカードを持っている。

 ノーグノーツと話をしている、ライセンス持ちの中でも少しだけ丁寧な言葉遣いをした鉄鎧の男が、今回パーティーリーダーを務めるバシルだ。

 図体はでかいが、いかつさなどはなく、どことなくのんびりとした雰囲気の感じの良い男である。


 斥候の男は、袋から鳥かごのようなものを取り出した。


「ほー光源にはランタンではなく光虫(ひかりむし)を使うのかい、贅沢ですな」


 ノーグノーツは興味深そうに鳥かご……虫かごか、中を覗き込んだ。


「ええ、普段はランタンや松明を使うんですが、この辺りの荒地には光虫(ひかりむし)が多いみたいで、昨晩のうちに捕まえおいたんです。彼らは迷宮内の変化にも敏感ですからね、今回は本当に運が良かった」


 斥候の男の代わりにバシルが説明する。

 迷宮の中には、目に見えない人を害する罠もある。そういった場所で役立つのが、暗い場所で体を発光させる性質を持つ虫『光虫(ひかりむし)』だ。


 準備を終えた一同は、斥候の男を先頭に廃迷宮の中へと足を踏み込んだ。

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