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17-3 大司教と八司教 3

「フェラン殿じゃったな、これほどまでに美味(うま)い料理がいただけるとは思わんかった。あの程度お安い御用じゃよ。我らは一度も名乗っておらんかったな、こっちの赤髪の食いしん坊がダリューン・シュメルツァーで、こっちの銀髪の、背伸びをして必死に食事作法を身に着けようとしているのがワシらのリーダーのフィヨル・シュメルツァーじゃ、そしてこの老いぼれはアンドリュー・シュメルツァーと申す。身近なものは、お爺ちゃんやジジイと呼んでおる。血の繋がりはないが家族なんじゃ、それとワシらに様付けはいらんよ、そう呼ばれるとなんかムズ痒くなるでのう。で……そちらの御仁は初めて見る顔じゃな」


「挨拶が遅れてしまい申し訳ございません。私はこの国の大司教をしておりますゴドフ・ゼル・ザッカーニと申します。此度多くの戦果を我が国へもたらした英雄の顔を是非一度見ておきたいと、無理を言い同席させていただきました。私のことはゴドフとお呼びください」


「食事は人数が多い方が美味しいしのう、ワシらは別に構わんよ。それにしても王様が同席とは豪華な食事会じゃな」


「アンドリュー殿、この国に王はおりません。強いて言うのなら神々がこの国の王でございます。私たち九人の司教は国を動かしやすいよう国民から選ばれただけの存在なのです。皆さんのような英雄に比べれば矮小な者でございます」


「随分と腰の低い王様なんじゃな、自分たちが美味い物を食べているのに、ワシらにはパンしか渡さなかったフェラン殿のとこの隊員たちにも見習ってほしいものじゃ」


 神樹の翁の言葉に、フェランさんは申し訳なさそうに頭を下げる。

 神竜の王だけでなく神樹の翁も、あの一件を相当根に持っているようだ。食べ物の恨みは本当に恐ろしい。難しい話はお爺ちゃんに丸投げして、僕は目の前の料理を食べることに集中する。僕と駄竜の口元はソースだらけで、時折給仕が来ては、口元を拭う布を交換してくれた。


「どうですか、我が国の料理は?」


美味(おい)しいです。いつも食べてる魔物や獣の肉と違って筋も癖もないし、このソース?てドロドロしたのがかなり美味いですね」


「そういえば、フィヨルくんたちは毒のある迷宮産の魔物の肉も食べていたと聞いたよ」


 クアリスは、古くから知人だったかのような気安さで、話に混じってきた。これも彼の才能なんだろう。


「詳しくは話せませんが、毒を取り除く方法があるんです。ミーシャも何度か食べていますが、この通り生きてますし、安全ですよ」


 ミーシャは、一斉に向けられた視線に、灰色の毛並みを少し赤くする。流石に、大司教にじっと見つめられる機会などそうそうないのだろう。


「そうはいっても毒を取り除く手間を考えれば普通に売られている肉を買うか、はじめから毒のない獣を狩るのが一番じゃ。ワシらは普段人里離れたところにおるからのう、近場で食材を調達しようと思うと、選り好みも出来んのじゃ、迷宮の魔物もそこいらの獣もワシらにとっては単なる肉の塊じゃよ」


「ほう、迷宮産の魔物肉でございますか、珍味といった感じが興味をそそりますな」


「はははは、大司教殿が食当たり起こして倒れでもしたら国民が動揺しますぞ」


「確かにアンドリュー殿のおっしゃる通りですな」


「どうしても食べてみたいというのであれば、そのうちワシらがご馳走しましょう。ただ味の保証は出来ませんがな」


 神樹の翁と大司教は、なかなかに馬が合うみたいだ。時折大司教が見せる物憂げな表情は気になるが、ボクらが気を遣うことではないだろう。

 大司教は、もしかしたら、神樹の翁が使う体の持ち主であるアンドリウス・サラビア将軍と面識があったのかもしれない。


「この町の全ての料理屋とはいきませんが、よろしければ幾つかのレストランや食堂を自由に利用できる権利をお詫びとしてお渡ししたいと思っております。お受け取りいただけないでしょうか?もちろん食事代は我々が後で支払いますので、皆様はその辺りも気にせず好きな時に、好きなだけ利用していただいて結構です」


「おお、フェランは気が利くな、俺はお前が見所の有る奴だと見抜いていたぞ」


「駄竜が焦るでない。そんなうまい話があるわけなかろう、返事をするのは条件を聞いてからじゃ、きちんと説明してくれるのじゃろう?」


「はい、我が国が望むのは、三人がこの町にいる間だけでいいので、万が一町が魔物からの襲撃を受けた際には、町の防衛に手を貸していただきたいのです。兵隊と協力してほしいとかではなく、皆さんのさじ加減で町に悪意を持つ相手を排除していただきたい」


 僕はストローと呼ばれる、細い筒のような植物の乾燥した茎を使いリンゴジュースを飲みながら聞き耳を立てた。会話には参加していないが、話はきちんと聞いている。

 赤錆山の迷宮が崩壊して、魔物がこの首都エラトニアに押し寄せた際に、その防衛に僕らも加えたいのだろう。

 迷宮内でミーシャが教えてくれた話を信じるのなら、神聖国家エラトニアは、軍事力という意味でそれほど力のある国ではない。ライセンス持ちも他国に比べると少ないって話だし、少しでも多くの戦力を集めたいんだろうな。


「なるほどの、美味(うま)い食事を食べたければこの町を守ればいいってことじゃな。ワシらに損はない取引だと思うが、どうするのじゃ小僧?決断もリーダーの仕事じゃぞ」


「僕らは常に町にいるわけではないので、魔物が攻めて来た時にここにいない可能性もありますが」


「その辺りは気にしないでください。私たちは兵士としてフィヨル殿たち三人を雇うのではなく、隣人として迎えたいのです。英雄がこの町の料理屋を贔屓にしてくれるのであればそれほど心強いことはないですから。仮に皆さんがいない時に攻められて陥落するのであれば、それは我々の運が足りなかったのでしょう」


「もうひとつ、僕は権力を傘に弱い者を虐げる者を強く嫌います。僕たちを町に入れることで、そういった者とのトラブルを生む可能性もありますが、それでもいいのならお詫びの品を受け取りたいと思います」


 こうして、僕らは好きな時に首都エラトニアで飲み食いする権利を手に入れた。


 利用できるレストランと食堂の数は限られているが、僕らが満足するには十分過ぎる店数だ。分からないことがある時には、聖地管理委員会事務所を訪ねればミーシャも力になってくれるという、ミーシャが留守の時はヨスギさんに声をかけてほしいとのことだ。

 しかも、僕らの身元保証人には大司教自らが手を挙げてくれた。


 一国の王が、どこの馬の骨とも分からない者の後ろ盾に嬉々として手を挙げるのだから、この国も十分に狂っている。

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