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17-2 大司教と八司教 2

「ダバックといったか……あの男は何がしたかったんだろうな、俺たちをわざわざ待っていたのに大した話もせず茶を飲んで終わりだ。茶は美味(うま)かったが」


「恐らくじゃが、あやつはワシらの知らない能力を持っていたんじゃろう。小僧が集めた兵士たちの記憶と能力を見る限り、二千年前より能力の種類も増えておるからの、ワシらの知らない能力があっても不思議ではない。人間は他の生物より神に多くの能力を与えられているのかもしれんのう」


「ん?ジジイ、それはどういうことだ」


「元々人間が神のお気に入りだったのではないかと思ったのじゃ、フィヨルの『合成』なんてワシらのような化け物に与えられていたなら、とっくに世界は滅んでいたじゃろう。人間どもが古代種と呼ぶワシらは、何らかの意図をもって滅ぼされたのかもしれんぞ……なんての」


 思わせぶりな神樹の翁の言葉に、幾つもの余計な妄想が頭に浮かぶ。二千年も暗闇にいたのだ。

 出来ることは、外の世界に恋焦がれ、妄想を繰り返すくらいだった。

 あなたの特技は何ですか?と聞かれれば〝妄想です〟と答えてもいいくらいには、繰り返したと思う。


「お爺ちゃんの話は難しすぎて分からないけど、ダバックさんは、ただ話をしに来たんじゃなく、ボクらと会うこと自体が目的だったってことだね」


「恐らくじゃがの……問題は何を盗られたかじゃ」


「他人の頭の中なんて殺さない限り覗けねーんだ。それについては考えるだけ無駄だろうぜ。何かあったら力で何とかすればいいだろ、坊主は殺されても死なねーんだしよ」


 石畳の道を馬車が進む。

 聖地管理委員会事務所に向かうとばかり思っていたのだが、到着したのは一軒の見るからに高そうなレストランの前だった。通気口から漏れ出る香ばしい匂いが食欲を刺激する。


 馬車から降りると見知った顔が並んでいた。


 ボクらと一緒に赤錆山の迷宮に同行した、猫人族の女性ミーシャ・トリンメルとその上司クアリス・レイバ、あともう一人、初めて見る顔だ……クアリスと同じ赤銅色の肌をした、背の高い優しそうな男。クアリスが二十代として、その男は四十前後だろうか?

 お互い簡単に自己紹介をする。

 謎の男は、クアリスの腹心で名をヨスギ・ダンジュマンというそうだ。あくまで見た目の印象ではあるが、一癖も二癖もあるクアリスに比べると、素直そうな棘のない男である。


「みなさん首都エラトニアにようこそ。いい町でしょ!この国には王様がいないんです。代わりに大司教様と八司教様っていうお偉いさんが仕切ってるんですよ。他国に比べると崇めている神様の都合で、食に制限はありますが、今日案内するレストランは、美味しいって評判の店なんで期待してくださいね」


 クアリスは満面の笑みを浮かべて、ボクらを歓迎した。彼の人柄のせいなのか、どうしても胡散臭く見えてしまう。


「おお、そういつは楽しみだな」


 神竜の王の口元には、早くも涎が垂れており、口から滲む涎を行儀悪くローブの袖で素早く拭う。目の前にあるレストランは、かなり豪華な建物だ。

 マナーとか、よく分からないけど大丈夫なんだろうか?

 『知識の書』は、人の生涯の記憶を本にしている。たった一冊でも膨大な文字数がある。そこから食事のマナーについて書かれている文章を探すとなると、なかなか労力がいる作業だ。

 自分の興味のないことが書いてある本って、読むのに時間がかかるんだよな。


「安心してよ、今日はボクらの貸し切りだからさ。服装も気にしなくていいし、食器を鳴らしても誰も文句は言わないよ。あとでフェラン……うちのボスも顔を出すけど大目に見てね、今回の食事会は僕とミーシャとボス、あと一人か二人増えるかもって感じかな」


「ワシらは美味いもんさえ食えれば誰が来ようが文句はないぞ。どんな物が出てくるのか楽しみじゃのう。そういえばヨスギ殿は食事には参加せんのか?」


「はい。私は皆様との顔合わせだけでございます。この町で何か困ったことがありましたら、気軽に声かけてください」


 そういうとヨスギは、残っている仕事がありますので、とその場を後にした。


 ミーシャは、ボクらと会ってからずっと下を向いたままだ。あれから一週間しか経っていないし、まだ気持ちの整理がついていないんだろう。


「ごめんね、ミーシャが辛気臭い顔をしているけど、気にしないであげてよ」


「分かりました」


 そんなボクの返事に、ミーシャは頬を膨らませた。


 席に着くと、早速見たこともない料理が運ばれて来た。

 給仕と思しき男が一皿一皿緊張した面持ちで料理の説明をしてくれたが、ボクと神竜の王はマナーなどお構いなしで料理にがっつく、勿論食手掴みではなく、スプーンとフォークを使い何とか食べる。

 神樹の翁だけは、仮の体が元将軍なだけあり食事作法の知識があるのか、こういった食事にも手慣れた様子だ。

 ミーシャとクアリスも、こういう席に慣れているのだろう、フォークとナイフ、スプーンを上品に使い分け料理を口に運ぶ。


「お前らの食べ方は、なんかカッコイイな」


「ダリューンさん、もし、この町に永住してくれるんなら、食費もこちら持ちでマナーの特訓に付き合いますよ」


「ククク、油断ならぬ小僧じゃのう、ワシらをこの町に止めて何を企んでおるのやら」


「アンドリューさん。企むなんてひどいなあ、依頼に協力してくれたお礼です……といっても失敗しちゃいましたけどね、みなさんは黒い木の巨人の数をだいぶ減らしてくれましたから、感謝しているのは本当ですよ」


 確かに、お爺ちゃんやミーシャとクアリスの食べ方はカッコイイ。ミーシャはボクが真似をしやすいように、ゆっくりフォークやナイフを動かしてくれた。こうやるのか、柔らかい肉をフォークで抑えながらナイフで一口大に切り口に運ぶ。


 それにしても何の肉なんだろう、こんなにも柔らかい肉を食べるのははじめてだ。食堂で出る料理も美味(おい)しいけどレストランという店で食べる料理も悪くない。モグモグ……。

 次はスープと、複雑な味だな……様々な野菜の味を感じる。うん……これまた美味(うま)い。


 次々と新しく料理が運ばれてくる中、聖地管理委員会委員長フェラン・クラーゼンが姿を見せる。


「フィヨル様、アンドリュー様、ダリューン様。食事は楽しんでいただけてますか、先日は部下の命を救う寛大な処置本当にありがとうございました。本日は我が国最高の食材をご用意しておりますので、ご堪能ください」


 フェランのすぐ後ろには、上質な白い生地に、豪華な金糸の刺繍をあしらったローブを纏った老人が立っていた。

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