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16-1 誓いを破った代償 1

(残酷な描写が多めです。苦手な方はご注意ください。)

 迷宮内でボクらが見捨てたパーティーの同行者が、持ち運び型の聖域の守りが切れる前に、通信用魔道具でボクらのことを伝えたんだろう。

 人殺しだの、人でなしだの、ボクらに向けて野次が飛んだ……ウルサイしメンドクサイ。


 仕方なく口を開いた。


「どんな危険な場面でもお互い助けは求めない、手を差し伸べない、どちらが見捨てても恨みっこなしってことにしましょう。と神の名に誓ったはずですよ。それのどこが間違っているんですか?」


「神様、神様ってうるせーガキだな、お前たちは力があったのに仲間を助けなかった。見殺しにした。俺たちはそれを責めているんだ。あいつらは俺らと違い中級冒険者だったんだぞ。もう一つのパーティーも戻ってねー、力のある奴が弱い奴を助けるのはライセンス持ちの義務だろうが」


「ボクのことを仲間だと思わず見下していたのは、お前たちの方だろう……ピンチになったら助けなかったとか、仲間だとか持ち出して、ご都合主義か」


「実績のねーてめーらが悪いんだろが、ライセンス持ちにはライセンス持ちのルールがあるんだよ」


 先に戻っていた三つのパーティーの中から男が一人前に出る。この中では一番強そうではある。といっても脅威ですらない。

 今回の依頼に参加した五つのパーティーのうち、ボクらが見捨てたパーティーを含む二つのパーティーが、中級冒険者を中心に編成されたパーティーで、その二つが戻らなかったと……ボクらに文句を言っても何も解決しないと思うのだが。


「あ、うっせーなー、実績とか…仲間とか、都合が悪くなるとルールがなんだと、俺らを勝手に見下したのはそっちだろーが、よえー奴ほどギャーギャー喚くもんだな。かっこわりーな」


 流石に、神竜の王もキレた。この手の口論は、どこまでいっても平行線だ。


「なんだと大男、お前こそ勘違いしてねーか、ここにいるのはみんな黒い木の巨人を倒して戻って来た上級冒険者だ。こっちは実力者が十五人もいるんだぜ。仲間を見捨てた罪でここで即処刑してもいいんだぞ」


 男の言葉を合図に、十五人のライセンス持ちたちは、各々得物を抜き構える。

 神竜の王と睨み合う十五人のライセンス持ちの間に割って入ったのはミーシャだった。

 ボクら三人の衣類に一切の汚れがないのに対して、十五人の装備が傷だらけなことに、ミーシャは気付いたんだろう。

 身に着けている装備を見ただけでも、力の差は歴然である。


 ミーシャは頭が良い。見捨てても恨みっこなし、ボクがこのことを神の名にかけて誓ったことを、ここにいる大勢が見ている。どっちに正義があるかは一目瞭然だろう。ここは神様第一の国なのだ。

 力が無ければ、それも揉み消されちゃうんだろうけど、ボクらにそれが通用しないことは、ボクらを近くで見たミーシャが一番よく知っている。


 神への誓いを破ったんだ。今回の依頼を放棄しても神聖国家エラトニアは何も言えない。

 ミーシャは、ボクらがこの依頼を放棄するかもしれないと思っているんだろう。

 そして、ボクらを失った上に十五人の上級冒険者の命まで失うわけにはいかないと考えているはずだ。間に入ったのもボクらというより、冒険者たちのためかな。


 十五人の命を簡単に奪えるほどボクらが強いことを、ミーシャは既に気付いているんだ。


「お待ちくださいにゃ。ライセンス持ち同士の私闘は禁じられています。双方お下がりくださいにゃ」


「ミーシャ殿こそお下がりください。この私闘は、我ら聖地管理委員会の隊員一同が許可します。我らが同胞を見捨てたのだ生きて帰れると思うなよ」


 戦闘に慣れた面々なのだろう、キャンプ地にいた隊員のうち、二十人近くが抜刀してライセンス持ちたちの後に続く。


「みんな、規則違反よ……待って……お願い、やめてにゃ」


「お前たちは、ミーシャ殿を抑えておけ」


 剣を抜かず右往左往する。この場で傍観者となっている隊員たちに、剣を抜いた隊員たちはミーシャの拘束を命じた。


「ジジイ、坊主、俺一人で()る。お前らは下がっていろ」


 言われる前から、ボクとお爺ちゃんは既に近くの草むらに腰を下ろして干し肉を齧っていた。


「おいおい、俺ら全員を一人で相手にするってのか大男、舐めすぎだ!」


 上級冒険者たちは、神竜の王に向かって武器を手に襲いかかった。


 ほんの数秒だ。

 駄竜は自分の背ほどある大剣を片手で悠々と持つと、レイピアでも扱うように軽々と振り回す。

 十五人もの上級冒険者の体が、武器や鎧ごと血しぶきと共にバラバラに切り裂かれて宙に舞う。

 それを見た隊員たちの目は、一様に大きく見開かれた。戦闘に慣れていない隊員はガタガタと震え、腰を抜かすようにその場に座る。恐らく隊員たちは、唯一人もその剣筋を目で捕らえることすら出来なかったのだろう。


 血の雨が振った。

 上級冒険者すら歯牙にもかけない戦闘力。武器を抜いた隊員たちの大半は既に戦意を失っていた。少しは力の差が理解できたのか、剣を抜いた隊員たちの手は小刻みに震えてた。


「つまんねーな、あれだけ啖呵を切っておいて、このざまか……交代だ。あ、そうだった……お前とお前とお前」


 神竜の王は、近くにいた男の前へと進む。気味の悪い笑みを浮かべる。


「美味い飯が食いたいのなら結果を出せつって、俺らにパンしか渡さなかったのは、お前らだったよな」


 神竜の王が指をさした三人のうち一人は剣を抜いていない。一蹴り――。剣は地面に落ち男の体はくの字に曲がり宙を舞う、男の体が地面に落ちる前にもう一人の前に移動すると更にもう一蹴り――。

 全員が固まる中、二人の男が地面に落ちた。蹴られた腹を抑えながら痙攣するように体を小刻みに震わせながら、口からは血を吐いている。


「お前は剣を抜いていないからセーフだ。だがな食い物の恨みはこえーんだぞ、俺はお前を忘れないからな、坊主交代だ」


「メンドクサイな、()るなら最後まで()ってよ」


 赤髪の怪物が剣を鞘に戻し、自分たちより明らかに若く小さいボクが前に出たことで、ほっと胸をなでおろす隊員が散見された。


 仮の体を使っている神竜の王と比べられるのは、ちょっとむかつく……ボクの方がずっと強いのに。


 前に出る。ボクはベースキャンプ全体を包み込むように『殺気操作』の能力を使う。

 遠くから成り行きを見守っているのか、離れたところにも複数の気配を感じた。一人も逃さないよう殺気の網を広げていく。

 自分たちが何をしたのか、反省してもらわないとね。


 剣を抜いた隊員たちは『殺気操作』で金縛りにして動きを封じた。震える隊員がぶら下げていたナイフを引き抜き、首に薄く線をナゾル。〝深く切りすぎると死んじゃうから気を付けないとね。この傷は記念品だよ〟と耳元で優しく囁きかける。

 これでは……、ボクが一番の悪人に見えそうだ。


「ああ、言い忘れていたぜ。俺らの中で一番つえーのは、そこにいるくそ坊主だ」


 無言の空間に、神竜の王の声が響く。

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