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2-2 防人の一族 2


 ここに来てから、どれくらい経ったのだろう?人の声を聞くのは久しぶりだ。


 それまでボクは自分が何者であるかすら忘れていた。


 男は、この牢の防人をしてきた魔法使いの一族の中でも変わり者なんだという。名前については一族の規則(ルール)ということで教えてもらえなかったが、若い魔法使いの防人は、毎日ボクに話しかけてくれた。

 最初は、声の出し方も言葉も忘れていたのだが、徐々に声の出し方も言葉も思い出した。今では、すらすら喋りたい言葉が頭に浮かぶ。


 若い魔法使いの防人は、ボクにこの世界のことを教えてくれた。

 ボクの持つ『合成』を生物に使うことが、どれだけ生命を冒涜する行為なのか、彼は粘り強く何度も何度もボクに言った。

 ボクの選択がこの世界の半分を壊したのだと、事あるごとに彼は責めた。

 永遠に滅びることのないボクは、壊した世界に対して恩を返し続けなければならないのだと彼は説いた。正義の味方であれと彼は言った。


 彼との会話はボク自身に変化を与える。それまでのボクは、人ではなく不死ノ神だったんだと思う。人型の真っ黒な靄だった体が、若い魔法使いの防人との会話が引き金となり変化する。

 最初は言葉がうまく喋れなかった……ボクには口が無かったのだ。今は口がある。数百年の間、聞かなかった心臓の鼓動。体の一部には血が巡り、少しずつだがこの体に温もりが戻りつつある。


 でも、痛いのは嫌だ。痛覚はいらない。

 感情は……ほんの少しだけほしいかも、若い魔法使いの防人と話しながら、自分に欲しいものを選び体に戻していく。

 鏡が無いので分からないが、少しは人の形に近付けただろうか?


 若い魔法使いの防人は物知りだが、全てを知るわけではない。


 ボクに対する知識にも明らかな間違いがある。防人たちは、ボクが化け物である教えられているようだ。

 彼はこう言った〝それだけの力があるのなら、この牢が朽ちた際には弱き者の助けになってほしい〟と……ボクは何の力も持っていない。

 不完全なモノしか産み出さない『合成』を使えば、どんな生き物でも殺すことはできるだろう。なぜならボクが産み出したモノは長くは生きられないからだ。

 使い方を誤れば世界を滅ぼす怪物すら産み出す力、強いのはボクではなく、この能力(ちから)だ。


 これはボク自身の力ではない。


 ボクはとても弱い。

 筋力も、十歳前後の子供と変わらないんじゃないだろうか?

 不死ノ神とひとつになった時点で成長も止まってしまった。単に死なないだけが取り柄の、不完全な存在がボクである。


 人間は長くは生きられない。若い魔法使いの防人の声も、最初に聞いた頃に比べると年老いてしまった。


 暫くして、若い魔法使いの防人は来なくなった。


 次の防人が来た……彼は死んでしまったのだろう、それが何故か悲しかった。新しく来た防人は、牢の傍にさえ近付こうとしない。

 退屈なんだろう、時折遠くから独り言が聞こえてくる。


 それからも、何人も防人が変わり、ついに誰も来なくなってしまった。

 ボクは人々から忘れられてしまうのだろう。


 この牢獄を包む魔力も弱くなっている。

 牢の外に出るのも近いのかもしれない。ボクは若い魔法使いの防人との約束を守れるだろうか。

 彼は自分がもう長くないことを知っていたんだろう、彼は最後に名前を教えてくれた〝オンドレイ・ドゥダ〟不死神の王となり初めて出来た友人の名だ。

 偶然、外の世界で彼の子孫に会う、そんな未来を期待してしまう。

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