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14-2 赤錆山迷宮 2

 他のパーティーとは、顔を合わせないで済むと思っていたのだが、キャンプ地に到着して早々、ボクはパーティーの代表者同士の顔合わせの席に呼び出された。

 ミーシャの後を追い、一際大きなテントへと向かう。


 ボクら以外の五つのパーティーの代表者たちは、全員が顔馴染みという情報通り、同じテーブルで酒を酌み交わし楽しそうに騒いでいる。

 ボクらの到着を待たずに宴ははじまっていた。ボクが会場に足を踏み入れた瞬間、会場にいる人間の多くが明らかに嫌そうな顔をする。ここまであからさまだと、むしろ清々しさすらある。

 『知識の書』の兵士の記憶にもあった、新人イビリってやつか。


 ベースキャンプの防衛と管理を担う、聖地管理委員会の隊員も多く参加しているようで、有名な冒険者との接点を築こうと彼らのそばをやたらとウロウロしているのが目についた。

 当然のようにボクの席の近くには、同行者であるミーシャしかいない。そんなボクを気遣ってミーシャが話しかけてくる。


「フィヨルくん、少しでも他のライセンス持ちと仲良くしておいたほうがいいですにゃ」


 馬車の中で多少なりとも打ち解けたせいか、見た目が年下なこともあり、ミーシャがボクを〝くん〟付けで呼ぶのも定着してしまっていた。

 他のパーティーと仲良くしろか……これもミーシャなりのアドバイスなんだろう。


「最初に貰った地図を見る限り、ボクらが割り当てられている場所は、他のパーティーの担当区画から離れているみたいですし、嫌われている相手に、わざわざこちらから頭を下げる必要はないと思います」


「好き嫌いじゃないにゃ。迷宮で産まれる魔物の強さは未知数ですにゃ。フィヨルくんたちも少しは腕に覚えがあるようだけど、彼らはみんな中級冒険者や上級冒険者と呼ばれる化け物なんだにゃ。生きて帰りたいのなら、少しでも良く思われるようにしたほうがいいですにゃん」


 ミーシャは、必死な表情(かお)でそう話す。


 正直な話、中級冒険者や上級冒険者と言われても……中級や上級といった位階(ランク)は、基準があるわけではなく、各国が、自分の国に活動する冒険者の実力を知るために、目安で付けているだけなのだ。

 それに、自国贔屓があるのかもしれないが、『知識の書』の兵士たちの記憶を見る限り、同じ上級冒険者でも、内戦が続いていたダッカス王国のライセンス持ちは、隣国のライセンス持ちより実力が上って評価らしい。

 そうなると、ダッカス王国で推定とはいえ神話級冒険者と呼ばれたボクが、彼らに力を借りるために頭を下げる必要があるとは思えない。


「あれれれーミーシャさんじゃないですか、御守りを押し付けられたって聞いていましたけど大変ですね。そんなしょんべん臭いガキは放っておいてあっちで一緒に飲みませんか?」


 酔っているのか、酒が並々と注がれた木製のジョッキ片手に、茹でだこのように真っ赤に顔を染めた男が一人近付いてくる。服装からしてライセンス持ちではなく、聖地管理委員会の隊員なのだろう。


「ごめんなさいですにゃ。今回、私は彼らの同行者としてここにいるのにゃ、お酒の誘いはまたの今度お願いするにゃん」


「そんなガキ相手にする必要ないですって、どうせなんの役にも立たないですから」


 酔っ払い……たち悪っ。更にメンドクサイ酔っ払いがもう一人増える。


「ほーそいつか……噂のクアリス殿が興味本位で引き込んだ新参者のパーティーのリーダーは、てかガキじゃねーかよ……あの人も困ったもんだぜ、俺らの邪魔でもしたいのかね。なー土下座して頼むんなら、迷宮の中であぶねーときに一度くらいは助けてやってもいいんだぜ」


 男の言葉に合わせて、会場にいる全員が笑う。


 目の前に立つ男を見る。それなりには強そうである。といっても、ボクが殺した三千人の兵士の中にも、この程度なら二、三百人はいた……人族なんだろうけど、短い脚ともじゃもじゃの髭のせいでドワーフ族にしか見えない。


 一番気に入らないのは、こいつの人を見下す態度だ。


「自分の身は自分で守れますので、ボクらのことは気にしないでください」


「けっ、そうかいそうかい、みんな聞いたか。この坊主のパーティーが危なくても手だし無用なんだとよ、後で大泣きしてもしらねーからな」


 ボクを笑いものにしたいのか下卑たツラで大声で喚く。


 ん……でも……これってラッキーなんじゃ、魔物に襲われている他のパーティーを助けないで済むのは……むしろご褒美?『知識の書』の兵士の記憶にもあった、神聖国家エラトニアのルールを思い出す。神の名にかけて誓った言葉は、どんな不条理をも跳ね返す。


「分かりました。では、どんな危険な場面でもお互い助けは求めない、手を差し伸べない、どちらが見捨てても恨みっこなしってことにしましょう。完璧です!ボク、フィヨル・シュメルツァーは、ここに集まった各パーティーの方々にこの約束を守ることを、神の名にかけて誓います」


「ちょっと、フィヨルくんなに口走ってるにゃ!」


 神聖国家エラトニアで、約束の際、神の名にかけて誓う。この言葉の意味は重い。〝かわいくねーガキだな、勝手にしろ〟と怒気交じりの声が響くも、神様の名を出した誓いとなれば笑うことも馬鹿にすることも出来ない。

 飲み会の雰囲気は最悪になった。ここにいる全員がボクの誓いの見届け人になったのだ。


 顔合わせは済んだので、ボクは早々にこの場を後にした。ボクが消えれば少しは雰囲気もマシになるだろう。


 ミーシャは、ボクに発言を訂正するように、ずっと怒っていたが、そのつもりはない。何度も謝りに行きましょうにゃと説得してくる……ボクは最期まで首を縦には振らなかった。


     ✿


 翌日。今日からついに赤錆山の探索がはじまる。

 急遽作られたという仮設テントにある食堂へと向かう。

 はじめはミーシャが朝食をとりに行くと言ってきかなかったのだが、食堂と聞いてはうちの食いしん坊二人が止まるはずもなく。

 食堂に到着して初めてミーシャの言葉の意味を知った。


 ボクらに対する隊員たちの視線は棘があり、ボクらに渡された食事は、他の隊員やライセンス持ちが食べるモノに比べて粗末な物だった。

 ボクらに配られたトレイにはパンと水しか乗っていない。僕ら以外のトレイにはおかずが乗っている。〝あんたらは、なんの成果も上げていない。パンを貰えるだけでも感謝するんだな〟〝そうだぜ、美味い飯が食いたいのなら結果を出しやがれ〟近くにいた隊員たちが声を出して笑った。

 食べ物の恨みがどれほど恐ろしいのか、彼らは知らないのだろう。神竜の王はパンを受け取ると、たった一言だけいった。


「お前らの顔は、覚えたからな」と……。


 居心地の悪さを感じたボクらは、早々に食堂を出て赤錆山へと向かう。

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