14-1 赤錆山迷宮 1
同行者との待ち合わせ場所である、シュフタールの町の広場にある噴水の前にボクら三人は立っていた。
グレンデル王国やダッカス王国とは違い、神聖国家エラトニアには、多種多様な人間たちが暮らしている。ボクのような肌の白い人族もいれば、黒に近い肌色や、紫の肌色、髪の色も様々だ。
彼女が、同行者なのだろうか……ボクらを見つけて猫の姿をした獣人族の女性が近付いてくる。
「はじめまして、皆様を担当する同行者のミーシャ・トリンメルと申しますにゃ」
そうボクらに頭を下げたのは、可愛らしい二足歩行の艶のある灰色の毛をした猫の女の子だった。
猫人族と呼ばれる種族の人間だろう。獣人は初めて見る。
人間とは、二足歩行で歩く人型で文明を持つ生物の総称である。ちなみに人型でも背の高さが三メートルを越えると小巨人族に分類される。
元々獣人族と人族は、暮らしている国自体が離れているため、こうして顔を合わせること自体が珍しい。人族の国に獣人族がいるのも、神様第一主義を掲げ、種族の垣根のない神聖国家エラトニアならではだろう。
「ボクがパーティーのリーダーのフィヨル・シュメルツァーです。こっちの執事服を着た槍使いのお爺ちゃんがアンドリュー・シュメルツァーで……そっちの赤髪の甲冑を着た大男がダリューン・シュメルツァーです。今回はよろしくお願いします」
「みんな家名が同じですにゃ?」
「はい、血の繋がりはありませんが、ボクらは家族なんです」
家族のいない者同士が結婚以外の血縁関係を結ぶことも、この時代珍しいことではないようだ。これも、二千年前には無かった制度である。養子縁組に近い制度だと思う。
養子縁組と違うのは、親子関係ではなく全員が対等の立場であるということだ。
「旅は道連れじゃな、よろしくのうミーシャ殿」
「嬢ちゃんよろしくな、一瞬ケットシーかと思ったぞ」
「ダリューンさんは、ケットシーを見たことがあるんですにゃん?」
「ああ、随分と昔だけどな、あの猫妖精どもは今どこに隠れ住んでいるんだか」
なんだろう……ケットシーの名前を聞いた瞬間、ただでさえ大きなミーシャの瞳が更に大きく開かれたように見えた。
お互いの自己紹介を終えると、近くの喫茶店に入り、ミーシャは今回の依頼についての説明をはじめる。
これからボクらが向かう場所は、シュフタールの町から、馬車で三日の距離にある赤錆山と呼ばれる聖地候補のひとつだ。一月ほど前から、どこからともなくやって来た巨大な木の魔物が住み着き暴れはじめたという。
すぐに聖地管理委員会の隊員たちが魔物の討伐に向かったが失敗。続いて調査に向かったライセンス持ちも、誰一人戻ってこない状況だという。
現在、国は赤錆山の迷宮化も視野に入れており、その調査の急先鋒として、名のある冒険者たちが集められた。
僕ら三人は、この国入ったばかりの無名のパーティーだ。〝名のある冒険者〟という部分が妙に引っかかる。
聖地奪還は、神聖国家エラトニアでは聖戦と呼ばれ、神聖視されている。
聖戦での死は栄誉とすら考える者も多い。〝でも、そう考えているのは、古い人間ばかりですにゃ〟とミーシャはいう。〝死にたくないので、危なくなったら私は三人を置いて真っ先に逃げますにゃ……〟と堂々と言い切った。
ちなみに同行者の帯同は強制で、断った場合、報酬が出なくなるばかりか赤錆山への入山許可も取り消されてしまう。
ミーシャの目を盗んで小屋を創るのは不可能だろう。練習するつもりだった小屋作りは、『合成』とは言わず、木から小屋を作るだけの能力だと誤魔化すしかない。
更に詳しい内容を聞いた――。
赤錆山は現在迷宮化している可能性が高く、依頼に参加するのはボクたちを合わせた六パーティーで、最初の一週間で赤錆山の外周部の探索。目的は、迷宮化の有無、迷宮化がはじまっているのなら進行状況の調査を行う。一週間の探索任務の後、集合し、可能であれば、六パーティー全部で山頂付近にいるとされる迷宮化を招いた魔物の排除に移る。
無名のパーティーであるボクらは、恐らく迷宮内の雑魚掃除の担当になるだろうとのことだ。
聖地管理委員会の隊員たちが、現地である赤錆山のすぐ近くにベースキャンプを設営しており、最初の一週間については毎日ベースキャンプに戻るも、迷宮化したと思われる山の中で過ごすも、パーティーごとに自由に選べる。
他のパーティーと共闘してもいいとのことだが、ボクらは参加する前から、他パーティーから煙たがれているので、それも無理だろうと言われてしまった。
なんでも、ボクら以外は、どこも既に名の売れているパーティーであり、全員が顔見知り、新参者のボクらは招かざる客だという。
顔を合わせる前から、随分と嫌われてしまっているようだ。
〝そんなに嫌われているのに、どうしてボクらがこの依頼を受けることを誰も止めなかったんですか?〟とミーシャに訊ねたところ、聖地管理委員会の副委員長のクアリスという人物が、こういう悪戯が大好きな性癖の持ち主のようで、ボクらはまんまとそれに巻き込まれたということだ。
迷惑な話だが、赤錆山に入れるのなら経緯や理由などどうでもいい。まー、そんなのが上で、この国は大丈夫なんだろうかと思うところではある。
現地までの馬車もパーティーごとに分かれており、ボクらを嫌っているであろう、他のライセンス持ちたちと顔を合わせしないで済むのは、ありがたい。




