13-2 信者たちの国 2
ともあれ、無事入国の許可は出た。
入国記念でさっそく食事だ!高級レストランまでいかなくとも、大きく人で賑わっている食堂を探す。
美味しい店は、決まって混んでいるというのも『知識の書』から得た情報だ。
店員さんのおススメメニューで注文してみる。
出て来た料理は、どれも物凄く美味しかった。
「これで薄味……物凄く美味しいぞ!なんなんじゃこの料理は」
『神樹の翁』は、アンドリウスの記憶にあった〝神聖国家エラトニアの食事はいまいち〟という評価と舌から伝わる味の違いに困惑していた。
これについても、答えは自ずと見えてくる。ボクらは味を判断するほど多くのモノを食べていない。もちろん屋台で食べた串焼きも美味しかった。それ以外ボクらが食べたモノといえば、その辺にいる獣の肉に塩コショウをぶっかけて丸焼きにしたものや、店で一番安価な味の薄い具無しスープと、水やスープに浸して食べなければ固くて食えたものじゃない、日持ち優先の固いパンばかり、料理人としてきちんと店を持つ者が作る料理を食べるのは、これが初めてなのだ。
しかも、これほど多くの客で賑わう店だ。美味しいに決まっている!
知っているだろうか、二千年もの間まともな食事を口にしたことがない生物が人気食堂に入り、その一口目にどんな反応をするのか、大泣きである。
止めどなく流れる涙が頬を伝う。神樹の翁と神竜の王が仮とはいえ肉体を得なければ、メンドクサイという理由からボクは食事と本気で向き合おうとはしなかった。今日ばかりは二人に感謝だ。
涙を流しながら〝うまい……うまい〟と連呼するボクらに、食堂の料理人がわざわざ挨拶に来て釣られて涙を流す始末。〝俺の料理で、こんなに人を感動させられるなんてよう、嬉しいじゃねーか〟と男泣きである。これを見た見知らぬ客からは、温かい眼差しを向けられてしまった。
二日後、ボクらは別の町に移動した。
第四鉱山の要塞都市の倉庫から、多くの物を持ち帰ったことで、金銭的にも余裕があった。少しだけ奮発して上等な宿屋に泊まる。
この宿を選んだ理由も、当然食事だ!朝晩に出る宿泊客限定料理の評判が良かったからだ。
食事以外も、宿屋はボクらに衝撃を与えた。
ベッドの上に乗る布がフッカフカなのだ!
「なんなんだこの寝心地は、ふっかふかだぞ」
「いいのー最高じゃのう。小僧よ老人は大切にすべきじゃと思わぬか!明日このフッカフカな布を買いにいこうではないか」
神樹の翁も神竜の王も、もちろんボクも、ベッドの上に敷かれているフッカフカの布の寝心地に夢中である。牢屋か安宿にしか泊まったことがなかったせいもあり、今までのベッドは、板の上に薄い布が一枚敷いてあるだけで、それが当たり前だと思っていた。
でも、これは……二人が買いに行こうと言い出すのも分かる。『竜の胃袋』を使えば持ち運びも心配いらない。でもベッドを使うなら野宿ってわけにもいかないような……うーん、テントじゃ三人分のベッドは入らないだろうし、と三列横並びのベッドに寝転がりながら、三人で今後の旅について話し合った。
誰も横になったまま体を起こさないのが、その寝心地の良さを物語っている。
「小僧の合成なら、材料さえあれば寝泊まりする小屋のひとつやふたつすぐに作れるんじゃないのか?」
「お爺ちゃん。小屋のひとつって簡単に言うけど、大きな物を合成で作ったことは一度もないんだ。やってみなくちゃ分からないよ、それに小屋みたいな大きな物が『竜の胃袋』に入るのかな?」
「それは問題ない。俺の『竜の胃袋』は人族の国ひとつくらいなら簡単に入ったからな、坊主の力は全盛期の俺に比べればゴミムシ以下だが、この宿屋程度の大きさなら余裕で入ると思うぜ」
神竜の王の言葉に思わず固まる。国がそのまま入るって、どれだけ大きな胃袋なんだろう……『竜の胃袋』の能力も人間が持つべき力にしては大きすぎなんじゃ。調子に乗って器に水を注ぎ過ぎたかもしれない。姿形や行動を人に寄せても、これってもう怪物だよね?
力を隠すことが、無駄な努力に思えてくる。
「小屋を作る材料についても、今度依頼で山に入るんじゃ、どうとでもなるじゃろーて」
「なージジイ。今回の依頼に俺らが二千年前に滅ぼした種族の生き残りが関わっていると思うか」
「どうじゃろうなー、この体ではどうも感覚が鈍くてのう、もう少し近くに行かんと分からんのう」
「ジジイもそうか、人族の体じゃ英雄といってもこれが限界なんだろうな。まっ……実物を見ればそいつが俺らに繋がりがある奴かどうかも分かるだろうぜ。人間の体がどうしても馴染まねーなら、場所の心当たりもあるし、そのうち古代竜の死体の発掘も考えた方がいいのかもしれねーな」
二千年前に滅ぼした種族の生き残りを探すのも、ボクたちの目的のひとつだ。
最初は神樹の翁と神竜の王に繋がりのある種族だけ探すつもりでいたのだが、せっかくだし生きている古代種に手当たり次第会ってみようという話になった。生き残りがいればだが……。
ボクが神樹の翁と神竜の王を『合成』の能力を使ってひとつにしたことで怪物が生まれ、古代種と呼ばれる力を持つ種族の多くは、それに抗おうと戦いを挑み滅びてしまった。
その結果。二千年前に真っ先に逃げ出して、身を潜め、嵐が過ぎるのを待っていた人間たちが世界の頂点に君臨したのだ。
世界を壊し多くの種を滅ぼしたボクらが、今更何をしても許されることはないだろう……それでも生き延びた種族がいるのであれば、直接会って出来ることがないか聞いてみたい。
差し出した手を叩かれて、三人でキレて貴重な古代種が今度こそ滅びる。なんてことにはならないように気を付けよう。
今回、依頼を引き受けたのも、古代種が関わっている可能性があったからだ。
依頼内容は『聖地奪回のための調査』依頼である。
神様第一主義である神聖国家エラトニアには、聖地と呼ばれる場所が多くあり、山の主や森の主……そういった人智を超える力を持った生き物を神様候補に登録して、死後神様に認定、信仰対象とするのだ。
同時に生息地は、聖地として認定される。
そんな主と呼ばれる生物の多くは、人里離れた山の奥地や森の深い場所に生息しているため、当然の様に主が死ねば、別の魔物が住みつくことが多い。
それが聖地巡礼をするときに障害になるのだが、その都度、聖地管理委員会という謎組織によって対応が協議され、場合によっては、今回のようにライセンス持ちに調査依頼や討伐依頼が出される。
聖地を占拠したされるのは、目撃証言から巨大な黒い木の化け物と断定されており、木の化け物と聞いて、神樹の翁と繋がりがある種族かもしれないと、ボクらは考え、依頼への参加に手を挙げたのである。
出発は四日後。
複数パーティーによる合同任務だ。
合同といっても現地では、パーティーごとに自由に動くことも許されており、ボクらにとっても好都合である。
気になるのは、窓口で一度ボクらのパーティーは参加条件を満たしていないと断られたのにも関わらず、すぐに冒険者組合の職員が、宿までわざわざ訪ねてきて参加してほしいと頭を下げたことだろう。
ボクら的にはありがくはあるのだが、それが少々引っ掛かる。




