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13-1 信者たちの国 1

 内戦の傷が癒えない荒れた道を、僕ら三人は、浮遊石で浮かぶ板に持ち手が付いた不思議な乗り物、浮遊ボードに乗って進む。

 少年にしか見えない僕が乗る分にはいい!でも……老紳士で執事服を着た神樹の翁と、二メートル近い赤髪の偉丈夫で、騎士が着る全身甲冑(スーツアーマー)で身を包む神竜の王が、子供のおもちゃにしか見えない浮遊ボードに乗る姿はなかなかにシュールだ。


 当の本人たちは、この乗り物が大層お気に入りのようで、笑顔全開で楽しんでいる。先刻も三人で誰が一番速く走れるかで競争したし……何だかんだでボクも参加するんだけど。

 二人は、仮の器とはいえ、久しぶりの肉体を満喫しているようだ。


 第二王子が、国内外に向けて内戦の終結を大々的に宣言したことも大きかった。人がまったく歩いていなかった町を結ぶ街道にも、日に日に馬車や旅人の姿が増えてきている。

 少しずつ日常を取り戻しはじめているのだろう、人目が増えたからこそ、ボクらのような得体の知れない存在は一際目を引いてしまう。行き交う馬車の窓から向けられる乗客の視線は、なかなかに辛らつなものだった。

 中身二千歳オーバーのジジイ三人が、子供のおもちゃではしゃいでいるんだから、しようがない。かといって、遠慮するつもりもない。


「見えて来たぞ!あれが神聖国家エラトニアへ続く国境の町じゃな。仮の体とはいえ、やはり生身の体で見る景色はいいものじゃ。おっ!次はあの大きな木まで競争じゃ」


「ジジイ、今度は負けねーからな」


「二人とも、待ってよー」


 ボクらは、それなりにこの旅を満喫している。


     ✿


 城壁が徐々に近づいてくる。

 ひたすら浮遊ボードに乗って地面を蹴り、ここまで来るのに二ヶ月近くかかってしまった。塩とコショウをたっぷりきかせた獣肉ブームのせいで、山や森を見つけては立ち寄って狩りをした。

 寄り道ばかりしていたのが、予定より時間がかかってしまった理由である。

 国ひとつ跨いで二ヶ月なら、文句を言うほど遅れてもいないのかもしれない。


 トマソンさんも、神聖国家エラトニアへは馬車で二~三ヶ月かかるって話していたし、早い方だよな。馬車のように休憩がいらない浮遊ボードなら、頑張り次第で一月半も狙えそうだ。


 神聖国家エラトニアへの入国には、神樹の翁からの大反対があった。

 理由は単純で、神樹の翁が使っている仮の器の持つ記憶が原因だ。アンドリウスの記憶では、神聖国家エラトニアの食事は美味しくないと有名なんだそうだ。

 どうせ行くなら美味い飯が食べれる国に行きたいと、性懲りもなく駄々をこねた。

 『知識の書』にあった兵士の記憶にも、同様の内容があった。

 神様第一を掲げる国だからなのか、料理は薄味が多く、肉よりも野菜が中心。塩コショウをたっぷりきかせた獣肉の丸焼きを愛する僕らには喜べない情報である。


 さりとて、死んだばかりの将軍似のお爺ちゃんと、ダッカス王国が生んだ最初の剣聖パライバの生まれ変わりにしか見えない駄竜が一緒では、この国では悪目立ちが過ぎる。

 目下のところは、早々にダッカス王国を離れた方がいいはずだ。


 浮遊ボードに乗ったまま、検問所に出来た列の後ろに並ぶ。

 子供のおもちゃに笑顔全開で乗るボクらに、周りの大人たちは胡乱な目を向ける。他人の視線が、痛くも痒くもないのは経験によるものだ。


 二千人近い兵士を殺して、死ぬ間際に多くの感情を含んだ視線を浴び続けたのだ。今更、この程度の視線など気にもならない。〝人殺し〟〝悪魔〟と飽きるほど罵られたことで開花した境地か。

 神樹の翁と神竜の王も、元が神に近い生き物だっただけに、注目を浴びるのは馴れっこのようである。

 二人は何食わぬ顔で〝せめて美味い料理屋に巡り合えればいいのじゃが〟と頭の中は、食べ物でいっぱいだ。


 少しずつ列が進み順番が来た。


 担当官も複数人いるようで、それぞれ一組の入国希望者を受け持ち、入国作業は次から次へと進んでいく。

 大した質問も受けずに入国を許可される者や、長々と質問を受ける者。……面談を行う担当官と顔馴染のようで世間話に花を咲かせる者と三者三様である。


 ボクらの番が来たので、担当官に手招きされるまま三人で並んで座る。

 普段、椅子に座ることのないお爺ちゃんと駄竜は落ち着かないのか、椅子に接するお尻をモゾモゾ動かす。駄竜なんてボソボソと〝尻尾がないとバランスが……〟と、神竜時代との感覚のずれに四苦八苦していた。


「では、入国にあたり幾つか質問をしていきます」


 ボクらの緊張を解そうと、担当官は優しい笑みを浮かべたまま話はじめる。

 担当官からの質問は、神様を信じているかといった内容だった。

 神様は僕ら生物に能力を授ける存在であり、『合成』という人間が扱いきれない異能を押し付けた迷惑な存在でもある。

 信じているというか……いるなら、文句のひとつでも言ってやりたい気分だ。


 非常にまずいことに〝神様〟という言葉を考えれば考えるほど文句しか浮かんでこない。

 崇めるどころか、憎しみの方が強い……このままだと入国も厳しいんじゃないだろうか。


 そんなボクを見て、何かを感じ取ったように、担当官が口を開く。


「神様は一柱ではございません。『創世の神』様をはじめ天界には、多くの神々がいらっしゃるのです。ちなみに、これが現在確認されている神様の一覧です」


 そう話すと、担当官はボクの前に一冊の手作り感たっぷりの冊子を広げた。

 物凄い数の神様の名前が書いてある。一体何人いるんだろう。これは……。

 神様の中に見慣れた名前があった。

 超越者と呼ばれる古代種たちの名だ。『神樹の翁』『神竜の王』、そして多くの生物がボクに付けたもう一つの名前『不死神の王』の名前がある。

 ボクらは三人とも、この時代では神様に名を連ねていたのだ。

 牢獄に入れられている間に神様の横に名を連ねているのは、衝撃だ。


 実際は、天界というか……地下深くにある迷宮の奥の牢獄に封じられていたのだが、他の神様に比べるとボクら三人の名前は小さく端の方に書いてある。

 見るからに信者のいないマイナーな神様感たっぷりだ。

 さらにページを捲る。

 神聖国家エラトニアの首都エラトニアには、ボクら三人を祭るお社まであるようだ。

 自分たちが、どんな姿の神像で祀られているかは興味がある。

 近くまで行くことがあったら、お参りがてらに立ち寄るのもいいかもしれない。


 こうなると話が変わってくる。

 自分自身が神でいいなら、自分の存在を信じていますか?と聞かれれば迷わず〝YES〟と即答出来る。〝あなたは神を信じますか?〟という質問も〝あなたはあなたを信じますか?〟なんて矛盾だらけの質問をされたような気分だ。


 担当官は、目の前にいる人間が、本当に神様を信じているかを見極める能力を持っているそうだ。『真偽眼』とは別物らしいけど……どんな能力なのか気になって聞いてみたが〝機密事項です〟とだけ答えた。

 能力を明かしたくない相手に対して、能力についての質問はマナー違反に当たる。世界の共通認識であり、『知識の書』にした兵士たちの記憶にも書いてある。


 担当官の表情が変わる。変態感さえある鼻息の荒さと気持ち悪い笑顔。


 〝これほどまでに神様の存在を信じている方にお会いできるとは、私は感激でございます〟とボクの手をがっちり握り上下に振り出した。〝もしや、この数値!神託ですか!定期的に神のお言葉を聞いておられるんですか!〟と一段とヒートアップ。この人……こんなキャラだっただろうか。

 担当官の気持ち悪い笑顔を見る限り、ボクたちは合格したのだろう。


 余談ではあるが、この国では神様を一人二人ではなく、一柱二柱と数えるそうだ。


「僕からも質問なんですが、神聖国家エラトニアへの入国希望者って毎回こんなに多いんですか?」


 気持ちが悪いので、話題を変えた。


 兵士たちの記憶では、神聖国家エラトニアはけして人気のある国ではなかった。はずなんだけど……そもそも神様に祈り奇跡を期待するのは、武を優先し、努力した分人は強くなると考える、現実主義のダッカス王国と合わない気がする。


 それなのに、この長蛇の列は一体。


「ハハハハ、数週間前までは閑古鳥が鳴く有様でしたよ。ダッカス王国からの来られたのであれば噂はご存じかと思いますが、数ヶ月前、ダッカス王国内で神話級冒険者が大暴れしたそうなんです。たった一人で三千人近い数の兵士を殺すような化け物だったとか、ま……神話級冒険者ってところが既に眉唾なんですがね、不安になった人々が神様を頼るために、急に我が国に駆け込みはじめたんです」


 行列の原因はボクでした。


「三十年は続くとされていた内戦が終結したのですから、悪いことばかりではありませんよ。王に即位したのも穏健派と評判の第二王子ですからね、我が国との国交も回復するやもしれません。ダッカス王国の兵士たちも戦争の裏で好き勝手していたみたいですし、それでも、兵士を大量虐殺した冒険者は許せませんが」


 その言葉を聞いて、少しだけ胸の奥が痛くなった。


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