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6-5 冒険者組合の地下牢 5


 翌日。手には地図だけでなく各国の情報が記された大量の紙の束を持って、トマソンさんが訪ねてきた。

 なんでも、ボクとの話の後、ライセンス持ちみんなで周辺諸国家の情報を集めてくれたんだそうだ。さっさと他国へ行ってほしいという気持ちがありありと見える。

 集めた情報を元に、トマソンさんはボクに丁寧に各国の情勢を話してくれた。


「そうなんですね、皆さんが勧める神聖国家エラトニアに向かうには、内戦中のダッカス王国を抜ける必要がある……と」


 鉄格子ごしにトマソンさんと向き合いながら、ボクは興奮を抑えるのに必死だった。(こんなにも都合よく戦争中の国が見つかるなんて、ボクはなんて幸運なんだ)と、そんな喜びの気持ちを隠すように無表情を貫く。


 死後九日以内の死体を見つけることが出来れば、この時代について色々知ることが出来る。

 保存できる本の数に上限があるかは分からないけど、戦場であれば『知識の書』を大量に手に入れるチャンスだ。

 しかも、ダッカス王国はこの大陸の中でも多くの優秀な武人を排出する国とも書かれている。もちろん、単に血の気の多い人が集まっただけって可能性もあるが、それでも、神樹の翁と神竜の王が欲する英雄の亡骸を探すのに打って付けだろう。

 人間の食事を味わうことが出来るのなら、器の質にも多少は目を瞑ると二人の言質もしっかりとったし、問題は並みの器では二人の魂に耐えられないって部分だろう。だからこそ英雄の亡骸を求める。


 英雄の墓を荒らすことになれば、ヨルトレインに続き罪人確定ではあるが、そこは、夜の闇に上手く紛れてなんとかしよう。


 トマソンさんは、他にも幾つもの国を候補として上げてくれた。

 ただ、どこも平和な国ばかりで、ボクの瞳には絶賛内戦中のダッカス王国以外は映らない。


「これが、神聖国家エラトニアまでの地図ですか、国ひとつ跨ぐだけあって流石に地図も大きいですね」


「はい。馬車を使ってもエラトニアの国境まで二、三ヶ月はかかると思います。それにダッカス王国は内戦中で乗合馬車もないでしょう。それとライセンスカードは没収、武器はお返し出来ませんのでご納得ください」


「大丈夫です。武器は必要ありません!ライセンスカードは残念ですが……」


 そう言い、上目遣いで甘えた顔をしてみたが、効果はなかった。


 それどころか……武器はいらないと言っただけなのだが、トマソンさんは物凄く怯えている。

 なんだろう……あなた方など武器無しで楽勝です!みたいに受け取られてしまったんだろうか。

 もうすぐ出ていくんだし、トマソンさんにどう思われようが別にいいんだけど、化け物扱いは少しだけ、ほんの少しだけへこむ。

 武器以外に必要なものを聞かれたので、素直に鉄のインゴットと浮遊石が欲しいとお願いした。もちろんお金はきちんと払った。


     ✿


 二日後――。

 人々が寝静まっている夜中に、トマソンさんが迎えにきた。

 トマソンさんの他にも二人の男が同行しているが、前後を挟まれるわけでもなく、三人が前を歩き、ボクは一番後ろをついていくだけだ。逃げたら逃げたで、町から出て行ってさえくれればいいって感じかな。

 トマソンさん以外の二人は、終始びくびくしていた。それなのに、何度も自分から後ろを振り返っては、ボクと目を合わせて勝手に震えている。

 怖いならわざわざ見なければいいのに。


「この辺りは、比較的夜でも魔物が少ないんですよ」


「そうなんですね」


 トマソンさんは、気まずい雰囲気を打破しようと気を使っているんだろう、ボクに何度も話しかけた。この状況で和気あいあいとはいかないだろう。

 途切れ途切れで会話が続かない。

 ヨルトレインを出て二、三キロは歩いただろうか、前を行くトマソンさんたち三人が不意に足を止めた。


「では、我々はここまでになります。追い出しておいてこういう言い方は違うかもしれませんが……フィヨルくんが望む国が旅の先にあることを願っております」


「安心してください。ヨルトレインには二度と近付きませんので」


 ボクの言葉を聞いたトマソンさんは、申し訳なさそうに頭をかいた。

 正体不明の怪物が近くにいては彼らも気が休まらないだろう。ボクが出ていくことでそれが解消されるなら、これも悪くない選択だろう。

 元々、この国に長居する気はなかったのだ。

 ボクは一人暗い森の中を、ヨルトレインから離れるように歩きはじめた。


 エバンスさんとの食事の約束、守れなかったな。

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