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6-3 冒険者組合の地下牢 3

 いま地下牢にいるのは僕一人だけだ。他にも牢屋はあるが全てが空で見張もいない。早々犯罪者なんて出ないんだろう。

 階段を下りる足音が響き、その足音はボクがいる牢にゆっくり近付いてくる。

 薄明りの中顔を見せたのは、仲裁に入った冒険者組合の男だ。


「食事を持ってきました。現在キミには、人間のふりをして町に紛れた怪物の容疑がかけられています。牢にいる間は食事も粗末なモノになりますが、疑いが晴れるまでは我慢してください」


 牢の鉄格子の一部には食事を入れるための隙間が空いていおり、男はそこにトレイを置いた。トレイの上にはパン二個と水筒だけ置かれていた。男が下がるのを待って、ボクは鉄格子近くまで歩きそれを受け取る。


「名乗っていませんでしたね。私はこの町の冒険者組合の責任者で名をトマソンと申します。私の異能は『真偽眼』といって、相手の真実と嘘を見極める能力(ちから)です。『鑑定眼』に比べるといささか使い勝手は悪いのですが、『鑑定眼』のように、自分より上位のモノを視ることは出来ないといった制約もないので、人を束ねる立場の人間にとっては便利な能力(ちから)なんですよ。フィヨルくん、幾つか質問してもいいでしょうか?」


「はい、ボクに答えられることであれば……」


 先に能力の説明をしたのは、嘘は通用しないと念押しするためか、最初の集落で真偽官の男が使っていた水晶玉は、『真偽眼』持ちのいない町や村で使う代替品なのだろう。


「あなたは人間ですか?」


「人間です」


 即答する。

 正確には人間でもあり不死ノ神でもある。人間であることは間違いない。どうしたんだろう……トマソンさんが物凄く驚いた顔をしている。

 まーナイフを背中に刺されて血を流している中、顔色一つ変えないモノを人間だとは信じたくないだろう。


「あなたがこの町に来た目的を教えてください」


「生活するためです。ライセンス持ちにとって、ここが暮らしやすい町だと教えてもらったので」


「そうなんですね。あなたは人間の敵ですか?」


「いえ……ただ相手が悪なら、それ相応の罰は与えます」


「確かに先ほど職員がとった行動は褒められたものではないでしょう。あなたの物を地位を利用して奪おうとしたのですから……彼もきちんと反省しています。どうか許していただけないでしょうか」


「分かりました。今回は、あなたの言葉を信じて許すことにします。もし、それが嘘なら、ボクはあの職員とあなたの首を躊躇なく刎ねます」


 また殺気が漏れてしまった……成長の水を注ぎ過ぎたせいで、どうも上手くいかない。トマソンさんの顔色が変わる。声も少し震えていた。


「も……もしですよ、この……町から出て行ってほしいと言ったら、あなたは大人しく従いますか?」


「ボクの存在が町の人の迷惑になるのなら従います。ボクが遠くに行くことをみなさんが望むのなら国を出ていきます。ただ……その時は、近隣の国についての情報と地図を準備してください」


 ボクの話を聞いて今度は何やらほっとした表情を浮かべる。支部とはいえ冒険者組合のトップが、こんなにも分かりやすい反応をしてもいいのだろうか。


「キミは、この町の人を恨んでいますか?あなたの背中にナイフを刺した者を……エバンスを憎んでませんか?」


「彼はエバンスさんて名前なんですね……彼からは敵意は感じませんでした。もちろん不意打ちは好きではありませんが、特に憎しみといった感情はありません。あの行動にも意味があったのでしょう。町の人たちも恨んでいませんよ、唯一気に入らないとすれば、ボクの金を奪おうとしたあの男だけです」


 これだけは、絶対に譲れない。


「そうですか……もう一度強く叱っておきます。質問は以上です。ありがとうございました。フィヨルくんの扱いについては出来るだけ早く結論を出しますので、それまでは大人しく牢にいてください。用がある時には、そこにある青く光る石に触れて念じていただければ、職員が来ます。……そうでした、もうひとつだけお聞きします。先ほど見せた力があなたの全力ですか」


「はい。あれがボクの全力です」


 〝最期の質問の答だけ嘘ですか……〟

 独り言か?よく聞き取れなかった。トマソンさんは、深々と一礼して戻っていった。

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