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1-2 はじまり:人は魔神に 2


 これだけ大きな嵐なら不死ノ神も姿を現わすだろう。そう信じて見世物小屋のある集落を探し回る。ずぶ濡れになりながら、ようやく三匹の不死ノ神を見つけた。そのうち一匹を自分自身に『合成』する。


 『合成』の決まりごと(ルール)――。


※自分が一度でも見たことがあるモノでなければならない。(鏡越しでも可)


※どんなモノを作りたいか明確にイメージする。


※自分から半径五十メートル以内に対象が無くてはならない。(体の一部分でも可)


※大きさや種類に制限はない。唯一の例外は能力を授けた神様だけである。


※合成の発動合図。手を一度叩く。神像の前で手を叩く〝柏手〟の動作に似ている。


 その後のことは、覚えていない。

 目を開けたボクは、いつもの檻の中にいた。見世物小屋で客前に出る時に使う、姿見で自分の姿を確認したが、見た目は何も変わっていなかった。

 変わったのは、中身だけだ。


 ついに手に入れた。殴られても痛みを感じない体を、小屋から抜け出したことがバレて男から血が出るまで殴られたが、殴られている間一度も痛みを感じなかった。

 それに、生物の死を見ても何も感じなくなった。


     ✿


 数年後――。見世物小屋の男に連れられて、ボクは初めて船に乗った。


 『全種族会議』と呼ばれる。この世界に暮らす多種多様な、体の大きさも見た目も違う、知性を有した多くの生物たちが集う会合の場に、宴の席の余興として男は招待されたのだという。

 この船は、世界の中心を目指している。


 男は言った。〝上位種の方々が、お前の『合成』を見てみたいそうなんだ。ついに俺にも運が回ってきたなー、人間の王たちですら掴めないようなチャンスが巡ってきたんだ〟と興奮気味である。

 ボクも今まで着たことのないような仕立ての良い服を着せてもらえた。首輪も外されている。

 『全種族会議』では、上位種であろうと劣等種であろうと、すべての種族が平等に扱われるそうだ。


 会場に着くと、平等という言葉が名ばかりであることを思い知る。


 ボクと同じ、人族を含んだ人間と呼ばれる種族の代表者たちが隅の席に固まって座っていたからだ。

 人間は小さく力も弱い。この催しに参加する種族の中では劣等種と呼ばれる底辺の存在である。


 そこに並ぶ巨大な生き物の姿に、ボクは目を奪われた。中央に行くほど種族の位が上がっていくのだろう、中央に近いほどその体も大きくなる。

 中央には、雲にも届かんとする巨大な樹木があった。この場所のシンボルでもあり、もっとも長く生きる者。世界樹の近縁種にして、至高の存在『神樹の翁』である。その隣に並ぶのが、この世界で最も強い力を持つ最強の竜、竜たちの王『神竜の王』だ。

 次元の違う生物が多くいる中でも、二人の存在感は群を抜いていた。


 心を閉ざしていたはずのボクの目が、二つの存在に魅入られたように釘付けにされる。

 もっとも賢き者と、もっとも強き者。僕のように殴られることも蹴られることもない至高の存在。


 宿るのは、好奇心と憧れと妬み……そして憎しみ。


 この二人を合わせたら、どんなモノが生まれるんだろう……世界は綺麗に燃えて亡くなるだろうか?〝そうなったら、いいなあ〟と思ってしまった。


 ボクの能力『合成』には制限がない。それがどんなに次元の違う怪物だろうが、目に映るものであれば願うだけでひとつにすることが出来る力。

 例外は神のみである。

 ボクは、両の掌を多くの種族が囲む円卓の中心で〝パチン〟と合わせた。柏手(かしわで)と呼ばれ、一部の種族が神に対して行う作法だ。思わず笑みがこぼれそうになり、口元が歪む。


「ほう、ワシらを神とでも思うたかの……」


 『神樹の翁』は、ポツリと漏らす。


 行動の意味を知る者は、ここには一人しかいなかった。毎日のようにボクを殴り縛り続けた見世物小屋の男だけだ。真っ青な顔でボクを止めるために走ってくる。


 もう手遅れだ。


 始まった――。

 樹齢数万年といわれる『神樹の翁』と竜族最強の個体『神竜の王』の体がひとつになる。大樹は花を咲かせようと、枝に万に及ぶ蕾を付けた。根は地面から這い上がり竜の尾の如く暴れ出した。

 近くにいる生物を、次から次へと薙ぎ払う。


「「貴様……何をした」」


 二つの声色が混ざり合う。『神樹の翁』と『神竜の王』の二つの声には、その場にいた全員を震え上がらせるほどの殺気が込められていた。


 ついに花が開く。


 花びらの中には、花一輪一輪に竜の頭があった。


 枝に付いた万の口から一斉に竜の息吹……炎が吐き出される。眩い炎がボクとこの会場にいる全ての生物を一瞬で灰に変える。


 灰になろうとも、不死ノ神とひとつになり不死となったボクの体は、炎の中で再生をはじめる。

 ボクは叫んだ。


「この世界を壊してください。お願いします。ボクに『合成』を授けた神様を殺してください……殺してよ……全部壊してよ」


 炎に焼かれたまま大声で叫んだ。


 『神樹の翁』と『神竜の王』が混ざり合い産まれ落ちたモノは、高さ数千メートル、枝から万の竜の頭を咲かせる巨大樹だ。

 この世界にとっての救いは、それに竜の翼が無かったことだろう。地上に這い出した木の根を足代わりに使い歩くことしか出来ない。同時に土から這い出したせいで、歩きながらも徐々に巨大樹は枯れはじめた。


 ボクの役に立たない『合成』で産まれた不完全な怪物。


 『神樹の翁』と『神竜の王』が混ざったモノは、完全に枯れ落ちるまで暴れ続けた。


 ボクが死なないことに気付いたんだろう、枝のひとつはボクに巻き付き捕らえたまま離さない。万の竜の頭を持つ巨大樹が枯れるのに要した日数百八十六日。

 巨大樹は幾つもの海を渡り、多くの種族を滅ぼしても止まらず、この世界の半分を焼き尽くした。


 ようやく止まった巨大な亡骸の下で、人型をした黒い靄が見上げる。

 ボクは完全に不死ノ神になったしまった。そこに残るは、ほんの僅かな人の記憶だ。


 生き残った生物たちが、この世界の半分を焼いた元凶であるボクを囲んでいる。その中には人間たちもいる。ドワーフ族やエルフ族、人族もいた。

 手に武器を持ち、剣先のすべてがボクに向けられている。


「元凶たる不死ノ神よ、不死神の王よ、あなたにはこの壺の中に入ってもらう」


 声を出そうとしたが、喋れなかった……口がなかったのだ。

 高さ二メートル近い壺には、沢山の札が貼られ、壺自体にも魔法文字(ルーン)魔法陣(マナレリーフ)が描かれている。

 ボクが壺の中に入ると、蓋がされ、幾つかの転移門(ゲート)を通り運ばれた。


     ✿


 不死ノ神を殺すことは出来ない。

 大罪人である少年は、迷宮の深部にある牢へと壺に入れられたまま運ばれた。殺すことが叶わないと知った生物は、牢の中に封じる選択をする。


 深い迷宮の隠し部屋に造られた、幾千もの魔法文字(ルーン)魔法陣(マナレリーフ)が刻まれた特別な牢獄。


 不死神の王は、世界の半分を焼いた怪物として魔神に認定された。


 『神樹の翁』と『神竜の王』は『合成』で混ざり合うなか、少年の心に触れた。

 だからだろう、海を渡り、一番最初に怪物が燃やしたのは、少年を見世物小屋の男に売った人族が暮らす集落だった。

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