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6-2 冒険者組合の地下牢 2


「捕まってしまったのう」


「捕まってしまったな」


「捕まってしまったね」


「「「はー……」」」


 神樹の翁と神竜の王とボクは一斉にため息をついた。


 ボクらはいま冒険者組合の建物の地下にある牢屋の中にいる。

 迷宮の探索や魔物退治、戦いを生業とするライセンス持ちを管理しているのが、冒険者組合や探索者組合と呼ばれる組合であり、戦いを生業とするからこそ問題を起こす人間も多い、組合の建物には当然のように牢屋があった。


 どうしてボクが牢屋に入っているのか?人間じゃないことがバレてしまったからなんだけど、それについては自分からは認めずに黙秘を貫いている。


「それにしても、まさか人間が痛覚無効化もできん種族だったとはのう……勉強不足じゃったわい」


「同感だぜジジイ、完全に盲点だったな。坊主、背中に刃物を刺された時、なんであいつにやり返さなかったんだ」


 名前の無いボクは、自分を悪魔と呼んだ幼馴染の名前である『フィヨル』を名乗っている。仮の名前を決めたからといって神樹の翁はボクのことを小僧と呼び、神竜の王がボクのことを坊主と呼ぶのは変わらない。


「うーん、敵意を感じなかったからだと思う、痛覚がないから、体の中に異物が入って来たくらいで、攻撃を受けたとは思わなかったんだ」


「敵意か……その辺りの判断も難しいのう」


「これから人族の姿で生活していくなら、痛覚も必要なんじゃねーのか?いまの坊主じゃ人間の感情を理解するのも難しいだろう」


 神竜の王の言う通りだ。

 人間は感情を隠すのが上手い。表情に出ていたとして分かるかどうか……ボクは二千年間、牢獄の中にいた。いくら神樹の翁のお陰で、人間だった頃の記憶を取り戻したとはいえ、相手の表情、ましてや雰囲気から相手の感情を察するなんて高度な技術は持ち合わせていない。


 人間のことが知りたいなら、死んでから九日以内の死体を探して、その知識と記憶のすべてを『記憶の書庫』の本棚に並ぶ真っ白な本に『合成』して『知識の書』を創るのが一番なんだろうけど……それだけのために人を殺そうとは思わない。


 どうすればいいんだろう?


「戦争をしている国に行けばいいじゃないのか?戦争なら死体の山のひとつやふたつあるじゃろう、上手くいけばワシらの魂を一時的に納めることができる、強い器が見つかるかもしれんしのう」


「戦争かー、そんなに簡単に見つかるかな」


「昔から人間は争うのが好きじゃったからな、すぐに見つかると思うぞ」


「そうかなー」


 神樹の翁と神竜の王は、最近、人間が生み出した料理に興味深々である。

 ボクにナイショで、勝手に味覚共有を試したそうで、ボクが食べた物の味を感じて食事に興味を持ったという……細かな歯ごたえや舌触りまでは味覚共有では伝わらないようで、神樹の翁には『仮初めの生命の種』という、登録した相手を植物として産み出す能力があり、能力を取得して仮の肉体を作ってほしいと頼んできた。

 ボクは、神樹の翁と神竜の王が生前所持していた能力を取得することが出来る。問題は世界最強の生物が有していた能力だ。どれも取得には僕自身の成長が必要となる。


 ボクが食べたものなど、固いパンや味の薄い具無しスープなど、美味しいという言葉からほど遠いものばかりなのだが、土の中から栄養を取り込むだけだった大樹と生肉を貪る竜にとって、それですら衝撃だったんだろう。


 植物といっても産み出された仮の肉体は、生前と瓜二つの変わらないモノだという。そこに二人の魂を定着させて、人間の作る料理を思う存分堪能するというのが。二人の目的だ。

 『仮初めの生命の種』には、『記憶の書庫』のような、死後九日以内という縛りもない。相手が骨やミイラでも死体の一部が残っていれば、吸収が可能!死体の状態で成功率が変わるらしいのだが、『生命の種の品種』として登録に成功すれば、好きな肉体年齢を選んで種を産み出すことが出来る。

 仮の肉体の寿命は長くて一年。植物でいう一年草なんだろう。

 まあ、枯れたらもう一度同じように産み出せばいい。


 現状問題は、『仮初めの生命の種』を習得するためには、基本能力の器にさらに『成長の水』を注がなくてはならない。いまのボクのレベルでは足りないってことだ。

 成長の水をドバドバっと器に注ぐだけなんだけど……恐らく力は隠しきれなくなる。


 『仮初めの生命の種』で産み出した仮の肉体は、生前肉体の持ち主が持つ能力の他に追加でひとつだけ能力を付けることもできるのだが、枯れてしまえば追加した能力も消えてしまう。次に産み出した際には最初の状態に戻ってしまうのだ。

 一年間限定の能力と考えると、希少な能力の追加はリスクが高い。


「それにしても、坊主に刃物を突き刺した者は、なかなか見所があったな」


「うむ、あの若造……ここ数日、ずっと小僧を見ておったぞ。正体を見破るとは大した観察眼じゃわい」


 神竜の王と神樹の翁が評価するのだ。

 ボクの背に小刀を刺したライセンス持ちは実力者なんだろう。

 見られていることに気付いていて放置したのは、完全にボクのミスだ。


「そういえば、坊主が成長の水を注いだ瞬間、人間どもが怯えておったな。あれは実に愉快だったぞ」


 神竜の王は豪快に笑う。


 冒険者組合でボクのお金を奪おうとした、職員の欲に染まった顔を見た瞬間、ボクはきれた。善悪は人それぞれ違う、はっきりと分けるのは難しいだろう。

 それでも、若い魔法使いの防人オンドレイ・ドゥダの言葉を信じるなら、あの欲に憑りつかれた男の顔は悪そのものだった。

 悪は滅してもいいのだと彼はボクに言った。ただ、判断は慎重になれと……今思うと少し頭に血が上ってしまい、判断力には欠けていたと思う。

 あの時のボクは、悪を庇う者も悪であり、必要ならここにいる全員を殺してもいいとすら考えた。自分の中から湧き上がる怒りを止めることが出来なかった。


 ボクは、部屋の中にいる全ての人間と戦っても負けないだけの力を得るために、基本能力の器に『成長の水』を注いだ。急に増えた力を制御が出来なかったんだろう、漏れ出た力は周囲を威圧し、無意識に恐れを振り撒いてしまった。

 力の使い方も学ばないとな、それに痛覚を切り離していたことで、人間ではないと疑われてしまった。人の世界で生きていくなら色々見直しが必要だろう。


 一人薄暗い牢の中、物思いに耽る。


「小僧、客が来たようじゃぞ」


 神樹の翁の声が頭の中で響いた。


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