4-4 外の世界 4
ヨルトレインに向かう道中には、木を切り倒し根を抜き広場にした休憩所が幾つもある。
比較的魔物の少ない場所が、一目で分かるように工夫されているのだ。
魔物が少ないとはいっても、夜の森は危険が増す。早めに休憩所に寄り野営の準備をした。
夕食を終え、ラフラデールさんから借りた一人用テントで休む。
「フィヨルくん起きてくれ、交代の時間だ」
ボクが休むテントに、先に見張りに立っていた護衛の男が呼びに来た。
魔物といっても、この辺りに生息するモノの多くは野生動物と変わらず、火さえ絶やさずいれば襲ってくる心配も無いという。日が落ちる前に、みんなで集めておいた乾燥した木の枝を小さく折っては、火を絶やさないように投げ込むのが見張りの仕事だ。
明け方が近い。起きているのはボクだけだった。
「全員眠りについたようじゃな」
『神樹の翁』が、頭の中で言った。
「やれやれ……情けない話だぜ。俺たちは自分の仲間すら滅ぼしてしまったのか」
『神竜の王』の声は暗い。ラフラデールさんの話を聞いた二人は悔いていた。
力を持つ種族が滅び、人間たちが主になった世界。
世界をこんな形に歪めてしまったのは、ここにいるボクら三人なのだ。人の心を捨て、『好奇心』という名の欲望のままに、神樹の翁と神竜の王に『合成』を使い、怪物にしたボクが一番の悪人なのだが、気の向くまま破壊の力を世界に振り撒いた二人は、ボクだけじゃなく自分たちにもその責任があると言ってくれた。
「ワシらも未熟じゃったのだ。力のある者こそ正義と考え、最強だからこそ何をしても許されると暴れてしまった……ほんに情けないのう」
「ジジイのいう通りだ。ところで坊主、お前フィヨルって名前だったのか?」
ラフラデールさんに、ボクがフィヨルと名乗ったことを神竜の王は聞いていたのだろう。二人は、ボクの持つ記憶全部を見たわけじゃないのか……。
「フィヨルは近所に住んでいた幼馴染の名前だよ。ボクを見て悪魔って叫んだ元友人の名前さ。ボクには名前が無いんだ。『合成』を使って二つの生き物をはじめてひとつにした日、禁忌を犯した罪人として、名前を取り上げられてしまったんだ。あの日ボクは、家族からも縁を切られて一人になった」
「なるほどな……過ぎた力は恐怖しか生まねーからな。お前のそれは、新しい生き物を創造する力、神の真似事だ。周りにいるのが人間で無くとも、お前は異端者扱いされただろう。そんなお前がたった二千年で神として崇められるんだから不思議な話だな」
「神は神でも、人間以外を滅ぼした魔神だけどね」
火の番をしながら、三人でそんな話を続ける。神樹の翁と神竜の王の声はボクにしか聞こえない……今のボクは独り言をぶつぶつ呟く危ない奴に見えるんだろう。
用を足しに目を覚ました男は、一度足を止めボクの方を見たが、見ちゃいけない物でも見たかのように、すごい勢いで顔を逸らすと、そそくさテントの中に戻って行った。
神樹の翁と神竜の王は、ボクにひとつ頼みごとをした。
「小僧に頼みがあるのじゃ、小僧に取り込まれたのも何かの縁なのじゃろう。ワシらが滅ぼした者の中にも生き残りがいるかもしれん、同胞を探してくれぬか」
「俺からも頼む、坊主、竜どもが生きているならもう一度話がしたい。恨まれてるとは思うけどな、会ってすっきりしてーんだ」
「そうだね、みんなに会いに行こう。謝ろう。せっかくだし古代種全部を探しに行こうか。殺し合いになる可能性が高そうだけど……その時はその時で」
二千年前に、不死神の王、神樹の翁、神竜の王が滅ぼした種族は、この時代、古代種と呼ばれていた。その多くが行方知れずで、死んだとされている。
旅をしながら、そんな古代種たちに会いに行くのも悪くない気がする。